ことば。みっつ。しょうせつ

彩塔双葉

チェックメイト

 真冬。唐突に現れた季節に、僕は家から外に出る気力を失っていた。昨日までコートを出し渋ってもぎりぎり凌げるくらいの気温だったのに、今日はどういうことだ。この辺りでは珍し過ぎる吹雪で、窓の外は真っ白だ。

 カメラマンとはいえまだまだ駆け出しの僕に仕事は少なく、今日は家から出なくても許されることが不幸中の幸い。いや、不幸中の不幸か。

 家にいても外に出ても僕の行く先は見えない。お先が真っ暗か真っ白かの違いだけ。節約の為に日が出ているうちは灯りを点けないようにしているから、こんな日は窓から採光したところで部屋の中は薄暗い。

 机に置かれたままのチェス盤に目を遣る。当時はルールも知らなかったけどただカッコいいという理由だけで買った、実質インテリア。今ではルールも分かるけど、相手がいなければ始まらない。

 今日も虚しく一人チェス。先手必勝、白ポーンでガンガン攻めていく。都合良く進められる独擅場どくせんじょうと化した盤上では、捨て駒同然の存在でも簡単に成り上がって何者にでもなれる。そして玉座にも手が届く。


「チェックメイト」


 予定調和の大勝利は笑みすら零れない。ああ、現実もこのくらい簡単だったらいいのに。相手がいるから難しい。だけど、相手がいるから楽しい。

 真っ暗より真っ白の方がいい。なんとなくそんな気がして、僕はクローゼットからコートを引っ張り出して一眼レフ片手に外へ踏み出した。



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今回の使用単語

「ちぇす。ふぶき。かけだし」

静岡県御殿場市付近だそうです。

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