第122話神隠し編・真その2

 やってしまった。まさかシーナを置いていってしまうなんて。次のバス停に着いたら一旦降りよう。


「それもそうだけど連絡取ってみればいいでしょ」


 根井九のアドバイスもあり俺は携帯を開いた。するとメールが1件来ていることに気づいた。


「ん?」


『魁斗。私はどうやら間違えて1本早いのに乗ってしまったようだ。私はどうすればいいだろう? このまま乗っているべきか。それとも運転手に頼んで戻ってもらうか。返事を頼む』


 と、このようなメールが届いていた。シーナもどうやら間違えて先に乗ってしまったらしい。


「シーナらしいっちゃらしいか」


 俺はそのまま乗っててくれとメールした。とりあえずシーナに関しては解決出来た。

 一安心したので、俺は後部座席へと向かった。すでに根井九と雅人君は座っており、怪訝そうな表情で俺を見る。


「何? 解決したの?」


「ああ。シーナは間違えて先に向かっているらしい」


「えー! それはなかなかおっちょこちょいですねー!」


「ほんとそうね……そうね?」


「ああ、ほんとおっちょこちょい……おっちょこちょい?」


「それで? その人は魁斗お兄さんの新しいガールフレンドですか?」


 おや? この聞き覚えのある声は。


「ガールフレンドじゃねー!! っていうかなんでここにいる冬峰!!」


「えへへー、お久しぶりですー! 魁斗お兄さん!」


 俺の隣には冬峰がいつの間にか座っていた。全く気づかなかったぞ。


「私魁斗お兄さんの後ろにいましたよー? でもずっとそのシーナさんって人を気にしてて気づいてくれないんですもーん!」


「そ、そうか……それはすまなかったな」


 確かに俺の後ろから人の気配は感じていたが、まさか冬峰だとは思わなかった。


「ちょっと怪奇谷。この子誰? まさかあんたの妹?」


「いえいえー! 私、冬峰紅羽っていいますー! そういうあなたは? 魁斗お兄さんの愛人?」


「あい……! ふふふ。紅羽ちゃんだっけ? 少しお仕置きが必要みたいね……!」


 怖い。単純に、怖い。


「お姉ちゃん……」


「……?」


 すると、雅人君がなぜか冬峰の手を握った。冬峰はそんな雅人君を見て小さく微笑んだ。


「どうしたの? お姉ちゃんにいってごらん?」


「なっ……! 雅人の姉は私なのにー!」


 なんだか微笑ましい光景だな。そう思って俺は再び携帯を確認する。すると返信が来ていた。どれどれ……


『やっほー☆ 魁斗君! 元気にしてるかな? 私はもうすっごく元気だよ!

 ところで魁斗君。君の近くに紅羽ちゃんはいるかな? いたら教えてね♪ 可愛い先輩より』


「……」


 なぜこのタイミングで風香先輩からメールが来るんだ……しかし内容的に冬峰に関することだった。俺も気になっているので返信はしておこう。

 おそらくだが冬峰はすでにこのバスに乗っており、俺たちが乗車したことで姿が見えるようになったのではないだろうか?


「雅人君は何歳なの?」


「……10歳」


「わー! そうなんだ! 私の弟と同じだね!」


「お姉ちゃん……」


「ん? どうしたの?」


「なんでもない……」


「そっかー! なんでもないかー! 雅人君はいい子だねー!」


 なんだか隣ではすでに打ち解けている2人なのだった。しかし雅人君はちょうど冬峰の弟と年齢が一緒だったのか。

 俺は冬峰を見る。彼女は雅人君に対して姉っぽく接しているように見える。冬峰の弟ともこんな風に接していたのだろうか。そんな2人の姿を想像してみると、不思議なことにぼんやりと浮かんできた。


「ちょっと怪奇谷……この子なんなの? あんたの知り合いなの?」


 そんな想像とは関係なしに、根井九がふてくされて俺に声をかけてきた。よっぽど姉ポジションを取られてショックだったのだろう。


「ああ、まあな。幽霊相談所の最初の相談者ってところだ」


「え!? 嘘……あれほんとに成立してたんだ……え? 待って。ってことは本当にあんたは幽霊絡みの事件を解決してきたの?」


「う、うんまあ。そういうことになる」


「嘘……それじゃあ……姫蓮も……うう、こんなことなら将棋部やめなければよかった……」


 え? 今将棋部がどうこうって……


「それで!! この子はどうしたの? 何に取り憑かれたの!? やっぱり動物霊なの!?」


 すごい食いついてくるな。そんなに興味があるのか。それになぜ動物霊なのだ。


「別になんでもないよ。冬峰が取り憑かれたわけじゃねーしな」


「それじゃあ何が……」


「そんなに気になるか? だったら1度来てみろよ。幽霊相談所に。根井九が気にならなければだけどな」


「う……」


 根井九は少し考え込んでしまった。まさかそこまで幽霊に興味があったとは。


「ところで魁斗お兄さん。魁斗お兄さんはどうして遊園地に?」


 冬峰から疑問を投げかけられた。俺は簡単に説明した。シーナという人物のこと。それからシーナに誘われたということを。


「へー、シーナさんですかー! 気になりますねぇー。私の感ではシーナさんは魁斗お兄さんを狙ってるとみました!」


「なんでそうなる……」


「だって男の人と2人っきりで遊園地デートでしょー! もうこれは狙ってる以外の何者でもないですよー!」


 それはないだろうな。シーナにとって誘える人間が俺ぐらいしかいなかった。ただそれだけのことだと思う。

 だけどそう説明すると、色々誤解されそうなのであえて言わないでおこう。


「何? あんた姫蓮を狙ってるんじゃなかったの?」


「いや違うって。別に俺はそんなんじゃ……」


「ふぅん。魁斗お兄さんったら智奈お姉ちゃんか姫蓮お姉さんのどっちかを狙ってるんだと思ってましたけど、まさかシーナさんという新手がいたとは……まさかとは思いますけど……同志先生とかもターゲットだったりします?」


「え、何? あんたそんなに狙ってる人いるの? うわぁ……ケダモノね……」


「気をつけた方がいいですよー。あなたも狙われるかも!」


「うっ……急に吐き気が……あー、剛とのプリクラみて安らご」


 冬峰よ。君はだんだんと富士見に似てきていないか?


 そんなくだらないやり取りをしているうちに、バスは遊園地へとたどり着いた。時刻は11時半ちょうど。少しだが腹も減ってきた。


「それで魁斗お兄さん。シーナさんを探さなくていいんですか?」


 そうだった。俺はとりあえずシーナに電話をかけてみた。出てくれるといいんだが……


『もしもし。えーっと……最高最善超美人のシーナだ。えーっと……お前は『俺のヘッドホンは世界一の性能を誇るぜ!』と言ってそうな顔をしている魁斗であってるか?』


「おいそれを吹き込んだやつのことは後でどうにかするとしてだ。お前今どこにいる?」


『園内だ。よくわからないがなぜか流れでコーヒーカップとやらに乗るところだ。とりあえず切るぞ』


「は……?」


 意味不明な言葉を並べたシーナとの通話は終わった。


「魁斗お兄さん?」


「とりあえず行くぞ。ヤツはまあいい」


 うむ、とりあえず放っておこう。俺は3人を引き連れ、遊園地へと入っていったのだった。

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