第26話ポルターガイスト編その4

ポルターガイスト編その4

 俺たちは怪奇谷家へと帰宅した。父さんは今日、仕事で帰ってこない。つまり恵子と気兼ねなく例の話題について話すことができる。


「さて、さっきの続きだ。姉ちゃんが取り憑かれてるかもって?」


 俺は自分用と恵子にアイスココアを入れた。頼まれたわけではないが、満足そうに飲んでいる。


「確証はないんだけどね……あくまでもしかしたらってことなんだけど」


「それでもいい。具体的に説明してくれ」


 恵子は俺の目をじっと見つめると語り始めた。


「うん。なんかさ。最近夜遅くに起きることがあるんだけど、姉ちゃんがさ、いないんだよね。夜中にどこかに出かけてるみたいで……それでこの前遠回しに聞いてみたんだけど、姉ちゃんはそのこと覚えてないみたいで……嘘なのかもしれないけど、あたしにはそうは見えなかったんだ」


 夜中。姉ちゃんは1人でに外出しているという。そしてそのことを姉ちゃんは自覚していないらしい。


「単純に、夜中こっそり遊んでる……はないよな」


「姉ちゃんはそんなことする人じゃないし、やっぱり嘘ついてるようにも見えなかったもん」


 確かにそうだ。少なくとも俺の知ってる姉ちゃんは夜遊びするような人ではなかった。そしてそれは今も変わってないんだろう。


「うーん、そうなると姉ちゃんはなにかに取り憑かれている、というのが一番だけど……」


 そうなれば問題が1つ。一体どんな幽霊に取り憑かれているのかだ。


「え? その騒霊ってやつじゃないの?」


「いや、そもそも騒霊はモノに取り憑くんだ。モノに取り憑いて音を出したり動かしたりするんだよ。だから人に取り憑くなんてありえないよ」


 騒霊が人に取り憑くなんてない。基本的にはだ。


「騒霊はなんでモノに取り憑くの? 目的はあるの?」


「さあな。ただ、1番の理由は、そうだな……」


 俺は考えたがやはり1つしか思い浮かばない。



「え?」


 恵子はキョトンとしている。


「そのまんまの意味だよ。騒霊はただイタズラ目的でモノに取り憑くんだ。だからある意味人に害をなすような霊じゃないんだよな」


「え、でもそんなのやだよ」


「なんだ、怖いのか?」


「う、うるさい! バカにするな! あたしだってお化け屋敷とか心霊スポットぐらいいけるもん!」


 恵子は強がりなんだろう。姉ちゃんとは真反対だな。


「……それにしても、なんで俺だけに言ったんだ? 富士見達には話したくない理由でもあったのか?」


「そ、それは……」


 恵子はなぜかソワソワしだした。


「か、家族の話をそんな人にペラペラと話すもんじゃないでしょ」


 すごい照れてる。顔が赤いぞ。そんなに照れるようなこと言っただろうか? でもなんだか見てるとこっちも照れてきた。


「そ、そうかー。お、そういえば風呂沸いてるから入ってこいよ。場所わかるか?」


「わ、わかるもん!」


 トタトタと去っていく恵子。ほんとにわかるのか? 初めてこの家に来たのに。


「顔がにやけてるぞ」


「ぶっ! う、うるせえ! それににやけてない!」


 唐突にそんなことを言われたので慌てて顔を整える。


「ふっ……これが俺の顔だよ」


「相変わらず微妙な顔してるね〜アンタは」


「だ、黙れっ! 貴様になにがわかるっ!」


 のんびりした声で悪口を放つヘッドホンを軽く叩く。


「しっかしアンタの妹。可愛げがあるじゃん」


「は? そうか?」


 いきなりなにを言いだすんだこいつは。可愛げがあると言われればそうなのかもしれないが、仮にも妹だしな。あんまり可愛いとは思わないのが正直な感想だ。


「いや何。ああいう子、すごいいじめたくなる……!」


 ゾワっと首筋に悪寒がした。こいつ……Sか!


「そんなことよりアンタ。妹、間違えて父ちゃんのシャンプー使ったりしたらまずいんじゃない?」


「何言ってんだ。あいつは自分のシャンプー持って来てるよ。ここには男しか住んでないんだからさ」


「いやあれ見てよ」


 ヘッドホンが指を指したらしい。さすがに無理がある。彼女に指などあるわけないのだから。

 とりあえずヘッドホンの示す方向を見る。そこには恵子のバッグが。


「あれ、何に見える?」


 バッグから中身が少し見えていた。そこには妹のマイシャンプーが……


「や、やばい!! あれ使ったらとんでもないことになる!!」


 俺は急いで浴槽へと走った。ここまで焦る理由を簡単に説明しよう。

 父さんが使うシャンプーは父さん専用のシャンプーらしい。どういうわけか知らないが、それを使うと臭いがとんでもないことになるのだ。

 過去に俺も間違えて一度だけ使ったことがあるが、強烈な臭いが頭に染み付いてしまい、一時期ずっと帽子をかぶりっぱなしだった。


「な、なんでもっと早く言わねーんだ!!」


「いや、アタシ喋っちゃまずいでしょ」


「だーっ!! あれだけは間違っても使っちゃいけない!!」


 脱衣所に着いた。俺はなんにも考えずに扉を開ける。だが待ってほしい。俺はさっきも自分で言っていなかったか? 恵子はこの家は初めてで風呂の場所がすぐにわかるはずはないと。

 つまり、ここにたどり着いたのはまだついさっきで、まだ入っていない可能性もあると。

 さあ、その場合どうなる。最悪の場合、着替えている途中ということもあるわけだが。


 一歩遅かった。扉は開いた後。そしてそこには。


「あ」


「……」


 素っ裸の恵子がいた。なんにも身に付けていない。いやまさか、着替え途中どころじゃなかったようだ。ああしまった。


「へ……え、ええ……」


 恵子は状況を飲み込んだのかみるみる顔を赤らめていく。


「このクソバカ野郎ーーーーーー!!!!」


 彼女の顔が赤くなったのは今日で何回目だろう。そんなことを考えていたら強烈な腹パンを喰らい、俺は倒れた。そこから先は覚えてない。

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