第25話ポルターガイスト編その3
ポルターガイスト編その3
わけのわからないことになった。目の前にいるポニーテールの少女は奏軸恵子と名乗った。その名前は俺の妹の名前だったのだ。つまり目の前にいる少女は俺の妹ということになる。
「え? え?? え??? ちょ、ちょっと待ってくれ。さすがに思考が追いつかない。君が? 俺の妹? あ、そ、そうかー。ひ、久しぶりだなー」
どの道、今日家で体験すると思っていたことがまさかこんな場面で起きるとは思いもしなかった。かなり動揺してしまった。
「……」
ポニーテールの少女こと恵子はなにやらむすっとしている。
「お、おい。なに怒ってんだ。10年ぶりの再会だぞー。喜べよー」
「ふん。あたしのことなんて覚えてなかったくせに」
「あー……」
痛いところを突かれた。実際その通りだ。俺は妹のことをほとんど覚えていなかったのだ。それなのにさっきは姉の話ばかりしてしまった。
「それに関しては……すまない」
「ふん。あたしも本当はこんなシスコン兄貴なんかに頼みたくないけど、協力してくれるならチャラにしてあげるよ」
ぐ……。妹よ。なかなか生意気に育ったじゃないか。
「わかった。協力するさ。その前に聞かせてくれ。姉ちゃんはなんで今日来れない?」
「わーまた姉ちゃんのことかよー! キモッ! ほんとシスコン!」
「おいお前っ! あんまり兄貴を怒らせるなよー!」
「うわぁ、いきなり兄貴ヅラかよ……引くなぁ」
ほんとどう育ったんだ。あの姉の妹とはまるで思えないぞ。
しかしあれだ。富士見とのやりとりで耐性がついたのか、対して響かないことに気づいた。
「普通に理由を聞いてるんだよ。なんでなんだ? 体調でも崩したか、用事ができたのか?」
「用事だよ。大学のサークルでやらなくちゃいけないことが出来たんだって」
姉は現在大学1年生だ。おそらく所属しているサークルで何かしら仕事が出来たのだろう。一体どういうサークルなのかは知らないが。
「そうか。だから1人で」
「そう」
姉ちゃんのことはわかった。となれば問題は次だ。
「それじゃあそのポルターガイストについて、聞かせてくれ」
「その前に富士見さんと生田さんも呼んできて」
俺はなぜ命令されてるのかは知らないが、富士見と智奈を呼びに行く。
「あら? もう身内の話は終わり?」
「なんだよ。知ってたのか?」
「聞いたのよ。恵子さんからね」
そういうことか。だからさっきもシスコンだったり、家に急いで帰る必要ないってわかったのか。
「ごめんなさい。わざわざ気を使ってもらって」
「いいのよ。兄妹でつもる話もあっただろうしね」
恵子よ。なぜ富士見の前では大人しい。
「私、お茶いれますね……か、魁斗先輩と恵子さんは何が欲しいですか?」
智奈は俺たちの目を見ずに言った。
「「アイスココアで」お願いします」
あっ。たった今、妹と声が重なった。その様子を見てなぜか富士見がニヤニヤしている。
「お前、真似するなよ」
「にい……あ、あんたこそ!」
「なんだとぉ〜」
「ふふ。兄妹なのね」
「仲、いいですね……」
智奈がココアをいれながら、恵子は話を始める。
「ポルターガイストってのは、知ってるでしょ? こんな相談所とかやってるぐらいなんだし」
「ああ。もうその話なら今日で3回目だ。それで? お前の近くで起きたのか?」
「うん……。正確にはあたしの近くってわけではないんだけど。実は姉ちゃんから聞いた話なんだ」
なに? 姉ちゃんから聞いた?
「どういうことだ?」
「まずその場所のこと話すよ」
恵子はポルターガイスト現象が起こった場所について話し出した。
ポルターガイスト現象が起こった場所は一箇所ではないらしい。言うなれば一部の地域で起こっているという現状だった。
正確には来遊市の南付近。つまりは奏軸家があり、鹿馬中学があり、新競技場が建設される地域だった。
「富士見。この辺りでポルターガイスト現象のようなことが起こったって話は聞いたか?」
「いいえ。私が知ってる限りではとある人がシスコンって話なら聞いたわね」
「智奈は?」
「私も聞いてないです……」
つまり一部の地域で起こっているというのは間違いないようだ。
「一応確認なんだけど、それは本当にポルターガイストで間違いないのか? 例えばイタズラだったりとか」
「ないと、思う。あたしも実際一度見たの。誰も乗ってないのに車のワイパーがいきなり動き出したり、ライトがついたりして……」
嘘を言っているようには見えない。誤作動ということもあるが、他のところでも似たようなことが多々あったという話だ。偶然にしては出来過ぎだ。
「ねえ怪奇谷君。こんなタイミングでいうのもなんだけど、結局のところポルターガイストって正体はなんなの?」
富士見が質問する。それについてはこれから話そうと思っていた。
「色々説はあるみたいだけど、ポルターガイストってのは『騒霊』っていう幽霊が起こしているんだ。この騒霊ってのがモノに取り憑いて音を出したり動かしたりしているんだ」
「つまり、超常現象ではないのね。私はずっとそうだと思ってたわ」
「俺も昔は全く信じてなかったけどな。……それでその騒霊を俺が吸収してしまえば、ポルターガイスト現象は収まるってわけだ」
「でも、色んな場所で起こってるから1匹……1匹でいいのかしらね? まあ1匹だけとは限らないでしょ?」
問題はそこだ。どれほどの規模でポルターガイスト現象が起こっているのかもによる。たった1人で広範囲のポルターガイスト現象を引き起こすのは不可能だ。複数なのは間違いない。
「その通りだ。複数の可能性が高い。といっても大した数じゃないだろうから大丈夫だと思う」
「大丈夫って、なんとかなるの?」
恵子が心配そうに質問する。
「多分な。実際に見たわけじゃないからなんとも言えないけどな」
「そ、そもそも! あたしはまだあんたのその、力ってやつを信じてないんだからな!」
「怪奇谷君。全く信用されてないわよ」
うむ。困った妹だな。しかし証明しようにも幽霊が表に出ている時にしか俺の能力は使えない。つまりこの場で証明することはできないのだ。
「信用できないならいいさ。俺が勝手に解決するから」
「なんだしその顔! ウザっ!」
「顔はかんけーないだろ! 別に普通の顔だと思うぞ??」
「まあ怪奇谷君はドヤ顔、変顔、シスコンを見る顔とバリエーション豊かだからねー」
「おい、富士見! そんな顔のバリエーションを増やさないでくれ!」
「はぁ、馬鹿みたい」
なんだと……! 顔に触れたのは貴様だろうに……! と、まあ抑えよう。ここは冷静に兄としての威厳を保とう。
「……わかった。俺の顔はいいとしてだ。とりあえず今後の方針を決めようと思う。富士見。明日予定はあるか?」
「え? なに? デートのお誘い? ちょっと心の準備ができてないんだけど……」
「そういうのいいから……で? どうなんだ?」
「ないわね。暇人よ」
富士見はつまらなさそうに答える。
「明日現場に向かおうと思うんだけど、富士見も来るか?」
「そういうことね。もちろん同行しますよ。約束だからね」
「智奈はどうする? 無理にとは言わないけど」
「あっ、わ、私は……大丈夫、です……」
急に振られてびっくりしたのか慌てて返事をする。大丈夫とはどっちの意味だろうか?
「えっと、じゃあ明日は3人で行くからなにか調べて欲しいものがあったら連絡するよ」
「あ、はい……」
無理にみんなで行く必要はないだろう。
「え、3人ってあたしも行くの?」
「いや、当たり前だろ。大体元々今日もうちに泊まって明日帰る予定だったんだろ? ついでに案内してくれよ」
恵子は嫌そうな顔をしたが、富士見に頼まれるとあっさり承諾した。いやいや全く。兄の威厳というものはないのだろうか。
そうして俺たちはそれぞれ帰宅することに。
「それじゃあ怪奇谷君、恵子さん。また明日ね」
「お疲れ様です……」
富士見と智奈と別れ、俺たちは2人で家に向かっていた。恵子がウチに来るのはこれが初めてだ。恵子も緊張しているのか、なかなか言葉を発さない。
「ね、ねえ」
と思っていた矢先。なにも喋らなかった恵子が唐突に切り出した。
「なんだ?」
「さっきは言わなかったんだけどさ……もしかしたらなんだけど」
恵子はゆっくりと、口を開いた。
「姉ちゃん、取り憑かれてるかも」
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