第19話神隠し編その7

神隠し編その7

 その後も俺たちはたくさん話しをした。どんな大人になりたいか、どんな生活を送ってどんな家庭を築いて、どんな人生を歩んでいきたいかを。

 冬峰は見た目のわりには先のことをしっかりと考えていた。こうなりたいという像がはっきりと見えているのだろう。


「全く。これじゃあどっちが年上かわからないな」


「?」


 俺は1人言葉をこぼしていた。年齢では俺の方が年上なのに、年下の冬峰の方がしっかりしているではないか。そう考えると少しだけ情けない気持ちになる。

 そんなことを考えながら歩いていると、目的地の外湖神社へとたどり着いた。

 広さはあまりなく、周りは木々で覆われている。その中心に神社はあった。日蔭が多く、涼しげな風が流れ込んで居心地は良かった。

 冬峰はその神社の前で佇んでいた。


「ふふ。この辺も変わっちゃったんだね」


「冬峰?」


「ううん。なんでもありません。さあ、お参りしましょう!」


 冬峰は何かを見ていたようだが、そこには何もなかった。見間違いだろうか?

 俺たちはお参りをした。その後は近くのベンチに座ってまた雑談を続けていた。


「ということで私はパンこそ至高だと思うんです!」


「甘い。実に甘い。パンもいいがな、やはりライスこそ至高なのだよ! なぜならカレーライスとは米があってこその食べ物なのだよ! わかるかね?」


「むむむ。それならばカレーパンという食べ物もあるではないですか! それについてはどう思うんです?」


「カレーパンもいいんだけどな。俺としてはやはりカレーライスこそ至高なんだ! わかるか? あの米とベストマッチしたカレーの味を!」


「パンとはベストマッチしないんですかね」


 とまあわけのわからない会話をしているとなにか音がした。冬峰のお腹が鳴ったのだ。


「……」


「……」


「ち、違います! 私じゃないです!」


「ふーん。じゃあ誰だろうな〜? 他に人はいないんだけど」


「うっ……」


 顔を赤くして俯く冬峰。全く、素直になればいいのに。


「ん?」


 携帯が鳴っている。富士見だ。


「もしもし?」


『超絶美少女の富士見です。あなたはズルしてそうな顔の怪奇谷君で間違いないかしら?』


「俺の番号でかけてんだからそうに決まってるだろ」


『今どこかしら? 外湖神社?』


「そうだよ。今冬峰と休憩してるところだ」


『そう。今から私もそっちに行くから少し待ってて』


「あ! それならさ、なにか食べ物買ってきてくれないか? 金は後で返すからさ」


『ふーん。とうとう私をパシリに使うようになるなんて』


 なんだかんだで了承を得て富士見になにか買ってきてもらうことに。


「よかったな、これで食べ物がくるぞ」


「う……た、頼んでません!」


「ふぅん。いらないならいいんだぜ?」


「くっ……い、いいでしょう。そんなに食べて欲しいなら食べてみせましょう!」


「いいのか〜そんな態度で? 全部俺が食っちまうぞ?」


「わー! それはひどい! もう一回! やり直させてください!」


「はぁわかったわかった。あとそのやり直させてくださいって癖、なんとかしとけよー。そう簡単にやり直しなんて出来ないぞ?」


 ちょっと年上っぽく、意地を張って強気に言ってみた。ふふふ。どんな反応か楽しみだ。


「そうですよね……やり直しなんて、出来ませんよね」


 え、なんか落ち込んでる。しまったかな。


「な、なんだよ。そんなに落ち込まなくてもいいじゃないか。やり直しがダメって言ってるんじゃないからな。なんでもやり直せるわけじゃないぞってことを言いたかったんだ」


「はい。でもそれでも思っちゃうんです。あの時、私が弟のことしっかりと見ていたらって……」


 後悔しているんだろう。冬峰は自分のせいだと思ってるんだ。だから俺はこう言わなければならない。


「そんなに自分を責めるなよ」


「え?」


「確かにお前がしっかりと見てたら弟はいなくならなったかもしれない。でも、見ていてもいなくなったかもしれないだろ? それでもお前は自分を責めるのか?」


 冬峰は俯く。俺にこんなこと言われるとは思っていなかったんだろう。


「そりゃあ俺だって後悔したことはあるけど、もうそれは終わったことだから仕方ないって割り切るしかないだろ? だからさ、昔のこと後悔するより先のこと……未来のことを考えようぜ?」


 なにを言ってるんだか俺は。さっきまで未来のことはあまり考えたくないとか言って奴のセリフじゃないよな。


「魁斗お兄さん……」


「だろ? 今は弟のこと見てあげられなかった後悔より、見つける努力をしようぜ」


 それでも見つからない。俺なんかより冬峰の方がずっとそれを味わってきたんだ。それなのにこんな言葉を言ってしまってよかったのか。

 いや、それは違うな。それじゃあ俺はまた後悔していることになる。俺はこの言葉をもう言ってしまったんだ。だったらその責任をしっかり持たないと。


「ありがとうございます。私、もう少し頑張りますね」


 よかった。冬峰は見た目の割に精神年齢はかなり高いんじゃないか? 本当に冬峰の方が大人にみえる。


「魁斗お兄さん! なら、遊園地行きませんか?」


「気合い入れるのはいいけどよ、遊園地なら昨日行ったじゃないか」


「そりゃ行きましたけど、


  ……? 遊んだだけ? 確かにそうなるが、ちゃんと調べたはずなんだが。


「え? 冬峰。確かに結果としては遊んだだけかもしれないけど、ちゃんと全部のアトラクションに乗って調べたじゃないか? それでなにもわからなかったじゃないか」


 冬峰はキョトンとした顔で首を傾げて言った。


 


 待て。さすがにおかしい。冬峰が自分で頼んだことだ。それを忘れるなんてことがあるのか?


「ちょ、ちょっと待ってくれ冬峰! 昨日俺たちはみんなで遊園地を調べたじゃないか?」


「なに言ってるんですか? 行ったけど調べないで遊んだだけじゃないですかー。だから今度こそは調査しましょう!」


 ふざけているようには思えない。どういうことだ?


「おい、それはーー」


「あら、お話中ごめんなさい」


 不安を覚え始めた中、聞き覚えのある声がした。

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