第20話神隠し編その8

神隠し編その8

 聞き覚えのある声がし、いち早く冬峰が反応した。


「あっ! 姫蓮お姉さん! 来てくれたんだ!」


「ええ。怪奇谷君におつかいを頼まれてね」


 そう言って富士見は俺と冬峰にカレーパンを渡す。


「あっ! カレーパン! さっきカレーパンの話していたんだ!」


「そうなの? 怪奇谷君ってカレーライス派よね?」


「え、ああ」


 反応に遅れた。おかしい。冬峰。お前は一体……


「む、これ少し辛すぎないかしら?」


「ええーそうですかね? 私としてはこれぐらいの辛さがちょうどいいと思いますよー」


 富士見は懐から例の物を取り出した。


「え? ちょっと……まさかそれかけるんですか?」


「なにか問題あるかしら?」


 怪訝そうな顔をする冬峰。そりゃそうだろう。カレーパンに砂糖をかけるやつがどこにいるというんだ。


「これぐらいがちょうどいいわね」


「えー……」


 富士見はそう言って完食してしまった。


「冬峰さん。どう? あれからなにか変わったことは?」


「ううん。特にはなにも……やっぱりもう一回遊園地に行った方がいいかな?」


「……」


 冬峰は昨日の出来事を忘れている? でもなんでだ? 考えを張り巡らせていると、富士見が声をかけてきた。


「怪奇谷君、ちょっとこっちに」


 富士見に腕を掴まれ神社の裏手へと連れ出される。


「な、なんだよ」


「なになにふじみーついに告白か?」


「そうね……告白しないといけないことがあるのは確かよ」


 告白? なにをだ?


「実は私と智奈で冬峰さんのこと調べてみたの」


 冬峰のことを調べた?


「ごめんなさい。勝手なことをして。でもどうしても気になったのよ」


「気になったって……具体的に、なにをだよ」


 なんだ、なにを調べた。そしてなにがわかった??


「彼女の行動、それから言動。それに服装に知識。私には違和感しかなかったのよ」


「どういうことだ……?」


「…そうね。それを説明する前に結論から言った方がいいかもしれないわね」


 いや、ダメだ。それはダメだ。俺の中でなにかがそう叫ぶ。


「智奈に鹿馬中学に確認してもらったことがあるのよ。そしたらわかったことがある」


 待ってくれ。そこから先は、ダメだ。聞いてはならない。聞いてしまったら、何もかもがダメになる。

 だが富士見はあっさりと言葉を続ける。





 力が抜ける。なんだ、それは。


「そしてもう一つ。遊園地についても調べてわかったことがある」


「ま、待ってくれ! それは……!」


「30年前、アトラクションの事故があったのよ。そこで2人の子供が亡くなった。名前は公開されていないけど、年齢はわかったわ」


 富士見は俺の言葉を遮り、そして続けた。


「13歳の女の子と10歳の男の子……もうここまで聞いたらわかるでしょ?」


 ありえない。そんなことがあってたまるか。信じたくない。そんなもの、信じられるか。

 だが、それが本当だとすれば。あそこにいる、冬峰はーー


「神隠しなんて起きてなかった。あそこにいる冬峰さん自身が幽霊なのよ」


 全てが繋がった。だが、それはとても気持ちのいいものとは言えなかった。

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