神隠し編
第13話神隠し編その1
神隠し編その1
神隠しという言葉を知っているだろうか。
人がある日突然消え失せる現象のことを言う。行方不明になったり、失踪したりなどさまざまな現象が挙げられる。
実際に神隠しが本当にあるのかといえばそれは不明だ。おそらく多くは誘拐だったり殺人事件というオチなのだろう。
だが幽霊という存在が実際に
俺、怪奇谷魁斗はそんなことを考えながら学校の食堂で一人、学食を食べていた。本日のメニューはカツカレー。うん、絶妙な辛さだ。
「神隠しねぇ。ま、実際どうなんだろうね。アンタはあったことある? 神隠しに」
首元に掛けてあるヘッドホンが俺に問いかける。周りから見ればおかしな光景なので、出来るだけ声を下げて答える。
「俺はないな。それに周りでも聞いたことない。あ、いや昔父さんがふざけて言ってたことならあるな。俺の友達は神隠しにあったんだぞー! ってね」
今思えばあれは脅しだったんだろう。幽霊という存在が信じられても、神隠しという現象には信じることはまだ出来なかった。ただ、ありえるかもとは考えれる。
「あら? 難しい顔をしてどうかしたのかしら? ただでさえ情けない顔なのにさらに情けないわよ?」
と、いきなりとんでもない侮辱をしてくる女はどいつだと顔を上げる。
富士見姫蓮。不死身の幽霊に取り憑かれた少女。そこには彼女がいた。
「ここ、いいかしら?」
富士見は俺の返答を待たずに俺の前に座る。おとといデート? をしてから学校で会うのは今日が初めてだ。
7月9日月曜日。相変わらず暑い日が続く。富士見も暑そうに手でパタパタと顔を仰ぐ。
かなり汗をかいているのかシャツにも汗が湿っていた。そうすれば必然的に透けて見えるものが見えてしまうのだが……それを見てなんだかやましい気分になったので必死に考えを逸らす。
「なあ富士見。富士見は神隠しとか信じるか?」
「え? 怪奇谷君って神隠しとか信じてるの?」
なんかめちゃくちゃ普通に返された。
「信じてはないけどさ……まあ幽霊のこととか知っちまったからな。ありえるのかなって」
「ふーん。私は信じないわね。あれって結局のところ誘拐事件がほとんどじゃないの?」
まあそういう結論に至るのが普通であろう。俺も前までだったらそう決めつけていた。
「まあ、そうだよな。なんだろうな……人ごとじゃなくなったっていうか……身近で起きそうな予感っていうのか」
「はぁ……予感で判断するなんてらしくないわね。それとも元々そういう人種なのかしら?」
どういう人種だ。
「まあいいわ。それより怪奇谷君。あなた部活はやっているの?」
唐突に話題が変わる。今彼女は部活と言ったのだろうか?
「部活か? いや、やってないよ。やろうかとも考えたけど、結局なにもやらなかったんだよな」
ちなみに中学ではバレーをやっていた。そこそこの強さだったのだが、高校でも続ける気は起きずましてや他のスポーツをやる気も起きなかったのだ。
「そう。アルバイトは? しているの? してなさそうだけど」
「してない。それがどうかしたのかよ?」
「放課後、将棋部の部室に来なさい。場所はわかる?」
は? 将棋部? なんでそんなところに行かなければならないのか。
「来ればわかるわよ。いい? 放課後絶対来なさい?」
そう言い、富士見は立ち去った。言うだけ言って俺より先に完食するとは。
「どうすんの? ふじみーの言うこと聞くの?」
「いやまあ……とりあえず行くよ。なんか企んでそうだけど……って、ん?? お前今なんて言った? ふじみーとか言ったか? 聞き間違いじゃないよな⁉︎」
「うん、言ったよ。いつまでも
とはいえふじみーとは……なんともバカっぽい……いや、アホっぽいネーミングセンスなんだ。
「ならよー、俺のこともアンタじゃなくて名前で呼んでくれよ」
「アンタはいいんだよ、アンタで」
なぜか頑なにそれは変えないらしい。一体どういうつもりなんだか。
「チェっ、いいよーだ」
「まあすねんなって。あとでたっぷり超高音質の曲聴かせてやるから」
「だからお前は壊れてんだって! あと重低音にしろ!」
と、昼休みがそろそろ終わりそうなのでカツカレーを平らげささっと教室に戻るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます