第12話不死身編その12

不死身編その12

 戻ってきて待っている間、昨日の細かい話をした。それからお互い気になっていたこととか。


「私、そういえば聞き忘れていたんだけど」


「なんだ?」


「怪奇谷君って結局、その力を手に入れたのはヘッドホンさんと会った時でいいの?」


 なんだそんなことか。っていうか、説明していなかったか?


「まあそうだな。そん時に手に入れた、のか……持っているということに気づいたのどちらかだな」


「ふーん。結局その力は今回は発揮されなかったね」


 結果としてはそうなる。力を使ったとしたら、富士見に取り憑いているのが幽霊ってのがわかった時ぐらいだ。


「俺も聞き忘れてたけど、富士見が不死身の幽霊に取り憑かれたのも最近なんだったな」


 直接は聞いてはいないが、ノートに書いてあったので一応は知っている。


「そう。自殺を図った時にね。それ以前はなんてことなかったんだけどね」


 ある意味奇跡だろう。もしその時憑依されていなければ富士見は本当に死んでいたのだから。


「2名でお待ちの……ふじみ、さーん!」


「あ、呼ばれたわよ」


「今、イントネーションが完全に不死身だったよな」


 周りから若干変な目で見られるのが気になる。そりゃそうだろうな。今のセリフだと確実に『不死身さん』だからだ。

 俺たちは案内され、席に着く。


「さーて、なにを食う……」


 俺はメニューをみて呆然とした。


*ギガザウルスのカレー

*ライジングファルコンのハンバーグ

*ダークペガサスのラーメン

等……


 怪獣のメニューだった。写真の通りだと、怪獣をモチーフにした料理になっているようだ。遊びすぎではないかな、と思う。


「ねぇこれどうかな? オニオン星人の定食!」


「玉ねぎしかイメージできないな」


「これもいいね! ガーリック星人のうどん!」


「にんにくしかイメージできないな」


「おお、これは! ホッパーマンのエナジードリンク!」


「バッタしかイメージ……ってバッタのエナジードリンクってなんだよ!」


 俺にはエナジードリンクは心に決めたあれしか飲まないからな!


 俺はギガザウルスのカレー。富士見はプリティン(可愛らしい姿をした怪獣らしい)のパスタを注文した。


「ところでこの怪獣たちはなんなんだ?」


「え、なに知らないの? 『ホッパーマン』よ。あんなに素晴らしい国民的特撮ヒーロー番組を知らないなんて庶民はダメね」


 それなら聞いたことはあるんだがな。しかしメインのヒーローのメニューがエナジードリンクとは。


「怪獣メインだからね。そりゃホッパーマンもカッコいいんだけど、個性豊かな怪獣がまたいいのよ。わかる? このフォルムとか」


 俺は富士見が特撮マニアであることを、初めて知ることとなった。


「おまたせしましたー」


 とか言っている間に料理がやってきた。ギガザウルスのカレーは、ギガザウルス(ティラノサウルスの様な姿をした怪獣)の形をしたライスにカレーがかけられているというものだった。

 一方でプリティンのパスタは、普通のミートソースのパスタに見えるが、普通のミートソースのパスタらしい。


「って待てよ! なんでそれは普通のミートソースなんだ!」


「え? 普通じゃないわよ。プリティンのパスタよ?」


「いやだからなにがプリティンなんだよ? どう見ても普通のミートソースだろ」


「はぁ、これだから庶民は。いい? プリティンはミートソースが大好物なの? だからプリティンのパスタなのよ?」


 ……?? なるほど、もうそういうことにしておこう。


「てゆうかさ、富士見なんでまたその口調に戻ってんの?」


「あら? 私はずっとこの口調よ?」


 そんなことはないだろう。解決した時とかこんな上から目線で見下す様な口調ではなかったはずなのだが。


「……ま、あなたには恩があるからね。正直に話すわよ」


 なんで上から目線なんだろう。


「あの時私が置かれていた状況はもちろんわかってるわよね? ……なんて言えばいいのか……状況も状況だったから普通にしていれなかったっていうのが正直なところかしらね? あとはまあ、盗聴器もあったし……下手なこと言えないから変な感じになっちゃってたのかも」


 あの時の状況。確かに普通ではない。冷静にいつも通りに振舞うことができなかったのだろう。……それで俺の発言にいちいちつっかかってきたりしていたのだろうか?


「それはわかったよ。でもなぜ今も?」


「まあそれは、慣れちゃったからかな?」


 おおう……つまりこれから富士見はこんな感じで俺を見下すのか。


「嫌ならやめるけど? 私は優しいのよ?」


「いや、そのままでいいよ。俺にとっては富士見のイメージその方があってる」


「え⁉︎ 怪奇谷君ってMなのね……」


「なんでドン引きしてんだよ!」


 全く調子が狂う。だが不思議と悪い気分ではなかった。決してMとかではなく。


「まあそんなことより今後の方針を話し合いましょう」


「今後の方針?」


「当たり前でしょ? あなた、私に取り憑いている幽霊をほっとくつもり?」


 ああ、そうだった。それについては俺から提案するつもりだったのだが……先を越された。


「もちろん解決するさ。……まだ解決方法は見つかってないけど、必ず見つけてみせるさ!」


「そう。なら私はこれからあなたと行動を共にするべきなのね」


 ん? そこまでする必要もないのでは?


「アンタバカね。責任を持てってことよ」


「ふん。ヘッドホンさんに言われないと気づかないなんてね」


 なるほど。責任持って解決しろと。そういうことなんだな。


「わかったよ。行動を共にするって具体的になにをだ?」


「あなたがこれから問題を解決する際に私も同行させてくれればいいわ。まああなたの素晴らしい助手とでも思ってくれればいいわよ」


 助手ね。まあでもその方が富士見の問題につながるなにかを発見できる可能性も高い。


「なるほど、それはいいな。じゃあ俺の助手としてこれからもよろしく頼むぞ」


「……やはり助手はやめようかしらね」


 そんなこんなで俺たちは今後の方針とやらを話し合った。結論から言わせてもらうと、俺が相談等を受けた際には同席、および協力するということになった。

 その後は普通に休日を楽しんだ。俺のコレクションの話、富士見の特撮話、ヘッドホンの趣味の話(これはかなり謎だった)まだ出会って2日目だというのに俺たちはすっかりと打ち解けてしまっていた。

 休日は、遅くまで続いた。



「今日はありがとう。色々話せて楽しかった」


 別れ際に富士見が改まってお礼を言う。なんだか照れ臭い。


「礼なんかいらないよ。俺も楽しかったし。また行こうぜ」


「お? もう次のデートの計画か? アンタやるなぁ」


「うるせぇ!」


 ヘッドホンを軽く叩く。


「ふふ。あなたたちも大概ね」


 ……?? なんだかよくわからないけど不思議な笑みを浮かべられた気がする。


「それじゃあ」


 富士見は立ち去ろうとする。その横顔を見て名残惜しいと思ったのか、いやそうではない。


「富士見、ちょっといいか?」


 俺は富士見を止めた。どうしても、聞いておきたいことがあったのだ。


「もし、俺があの時本当に幽霊をなんとかしていたら富士見は……」


「もちろん実行したわ。その時はそれしか方法がなかったと諦めれる」


 富士見は両親を助けるためなら自分の命を投げ出してもいいと考えているのだ。そうでなければ最初の時点で自殺する、という選択肢にはならないだろう。俺にはそれをどうこう言う権利はない。だけど、それは。


 俺が、すごく嫌だった。


 だから俺はもうそんなことをさせないよう、富士見を守らねばならない。そんな考え方を捨てれるように。


「富士見。富士見の意見にどうこう言うつもりはない。だからあえてこう言う。


 富士見は一瞬キョトンとした顔になった。だが直後に。


「わかった。出来るだけ努力する」


 少しぎこちなかったが、嬉しそうな表情で彼女は笑った。

 俺はこの時に決心したのだろう。


 彼女の、富士見姫蓮の本当の笑顔を取り戻そうと。


 ここで一旦、不死身の幽霊に取り憑かれた少女の物語は幕を閉じる。さて、次は一体どんな問題にぶつかるのだろうか? 俺の活躍に乞うご期待を……


不死身編 完

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