第31話 博覧会での対決・前

 「はい、レッドローズの展示はこちらで~す!」

 博覧会当日、見物客で賑わう会場の広場の中で上下が灰色の学ランに似た雇われ警備兵の制服を着て輪人は自分が担当する南区域で見物客の誘導も行っていた。

 彼の後ろに聳えるのは、三十mほどの真紅の騎士型巨大ロボット。

 その名も魔導巨人まどうきょじんレッドローズだ。

 見物客の誘導を終えて監視に戻る輪人、ユウキブレスを使い他の区域の仲間に連絡を取る。

 「こちら中央、イエロータートル区域は異常なしですわ」

 答えたのはヴィクトリア。

 「東のブルーランサーも無事だよ♪」

 次に答えたのはヒナミ。

 「西のホワイトラビットの区域も異常なしだ」

 純子からも連絡が入る。

 「先輩、北のブラックアーチャーも無事です」

 桃花からも連絡が入る。

 「はわわ! 撮影は、迷惑にならない場所でおねがいします~!」

 シルバーナが慌てた声で叫ぶ。

 「え~? ケチケチするなよ~!」

 シルバーナに文句を言うのは、白い肌にとがった耳に艶のある金髪とそれだけ聞けばエルフだが顔も体も饅頭な肥満体のエルフの貴族風の男が魔導カメラを手にもちっつ文句を言う。

 「皆さんの安全の為です~!」

 エルフの男に説得を試みるシルバーナ。

 「何だよ、僕はこの国の伯爵家の跡取だぞ!」

 饅頭エルフがキレて腰に差した剣に手を掛ける。

 「お待ち下さ~い!」

 ダッシュで間に割り込んだ輪人、饅頭エルフが抜いた剣で背中を斬られる。

 「がは!」

 「な、何だこいつは! 邪魔しやがって!」

 饅頭エルフが更に劍を振るい輪人の背中を×の字に切る。

 「り、輪人さん!」

 自分を守て切られた輪人に驚くシルバーナ!

 「ふん! この位で勘弁してやるよ!」

 饅頭エルフは剣を振りながら周囲の見物客をドン引きさせつつ退場して行った。

 正規の兵達がやって来て、饅頭エルフをなだめすかして何処かへと連れて行った。

 「……ああ、くそ! やばかった」

 斬られても立ち上がる輪人。

 「だ、大丈夫なんですか? あのエルフの人、ひどすぎます!」

 シルバーナが興奮する。

 「だ、大丈夫! ジーラの加護で傷はすぐ治るから」

 輪人の斬られた背中に陽光が当たると同時に傷口が金色に輝き彼の体を癒す。

 「それでもあんな事!」

 シルバーナが怒る。

 「うん、でもあんなのでも守るべき側だから怒るなよ」

 輪人はシルバーナを諭す。

 「他の皆も、我慢して自分の身だけ守ってくれ」

 輪人がブレスレットで仲間達に告げる。


 昼の休憩時間、輪人達の詰所には黒いオーラが立ち込めていた。

 「……貴族の風上にも置けませんわね、その饅頭」

 ヴィクトリアが呟く。

 「何で、先輩が?」

 狼の如く唸る桃花。

 「絶対に許せないよ」

 ヒナミも暗いトーンで呟く。

 「腹立たしいが件の男は、貴族の特権だとかで特にお咎めもなく帰ったそうだ」

 純子が饅頭エルフが帰った事を告げる。

 「帰ったんなら良いよ、他に害がなくて良かった」

 輪人が仲間達を宥めるように言う。

 「良くないですよ!」

 シルバーナが叫ぶ。

 「うん、それはそうだけど俺は皆に害が及ぶ方が嫌だからな?」

 絶対に何もするなよと釘を刺す輪人。

 「あんな酷い人がいるなんて知りませんでした」

 シルバーナが落ち込む。

 「バーナは悪くないよ、俺らが守る中にはああいう手合いもいるのが残念だけど」

 輪人がシルバーナに微笑む。

 「輪人、お人好し過ぎない?」

 ヒナミが暗い口調で尋ねる。

 「私達は誰であっても、先輩を傷つけた相手を許せませんが?」

 桃花も暗い口調で呟く。


 そんな空気の詰所にトトが入って来た。

 「誠に申しわけなかった、すまない!」

 トトが頭を下げて謝る。

 「いや、トトさんが悪いわけじゃないですよああいう貴族がいるってだけで」

 輪人が頭を上げるように言う。

 「この国の貴族って皆あのエルフのような方ばかりなんですの?」

 ヴィクトリアが冷静にトトに質問する。

 「あれは、極端に悪いがすべてがそうではない」

 トトが苦い顔で言う。

 「まあ、貴族が皆そういう連中ばかりなら国が纏まらないだろうな」

 純子も怒りを我慢しながら呟く。

 「私達がああいう手合いの犠牲になるんも報酬の一環ですか?」

 桃花が尋ねる。

 「正直、受けた依頼だけどここまでにしたい所だよ」

 ヒナミもため息を吐く。

 「この国には、世直しが必要ですね」

 シルバーナが憤慨する。

 「君達の怒りや不満はもっともだ、だがこの国の貴族の権限の強さとあの伯爵家は博覧会のスポンサーで我々でも抑えきれない」

 苦々しく告げるトト。

 「まあ、国ってそう言うもんですよね? 仲間にも一般のお客さんにも被害は無く俺は元気ですし、このまま仕事は続けますよ」

 輪人がトトに返事をした。

 「申し訳ない、何の償いにもならんが報酬は割増させてもらう」

 トトが輪人達に頭を下げた。

 

 「警備の冒険者に貴族のボンボンが剣で斬り付けるって、この国はちょっと野蛮すぎませんかお嬢?」

 ランゾーンが会場のベンチでアイスクリームを食いながら呟く。

 「何処にもそう言う奴っているよね、怪人の素材になりそうな奴」

 どこ吹く風と言う具合で呟くオシウーリ、まさか斬られた相手が自分の想い人とは想像もできていなかった。

 「死んだゴーダッツみたいな馬鹿がこの世界にもいるのか、面倒っすね」

 ランゾーンが溜息をつく。

 「まあ、魔王陛下がこの世界を征服すればいなくなるでしょ? ところで、どれを奪うか決めたの?」

 オシウーリがランゾーンに博覧会のパンフレットを見せる。

 「そうですねえ、どれもエンジンやコックピットの原理は一緒なんでどれでもいいんですがどれにしようかな~?」

 展示されている魔導巨人のどれを奪おうかと楽しみながら悩むランゾーン。

 「まったく、男子ってこういうの好きね?」

 呆れるオシウーリ。

 「お嬢達女子も、服やらアクセやら化粧品やらで悩むでしょ?」

 言い返すランゾーン。

 「同意するけど、そう言う事言うから顔が良くてもモテないって言われるのよ!」

 ドスドスとランゾーンの脇腹を小突くオシウーリ。

 「あ、止めてごめんなさい! アイスが漏れちゃう!」

 ランゾーンは己の軽口の仕置きを受けていた。


 「さて、新しい上衣ももらったし再開するか」

 刃傷沙汰があった後も仕事を続ける輪人、今度の配置はイエロータートルが展示されている中央区域。

 「輪人さん、辛くないんですか?」

 シルバーナが尋ねる。

 「そうです、地球でもこちらでも先輩はお人好し過ぎます」

 同じ組み分けになった桃花もまだ怒っていた。

 「辛いけど、ヒーローをやる以上は守るべき一般市民からも謂われない攻撃を受けるって偶にある事だから乗り越えないと」

 溜息を吐きつつ語る輪人。

 「そう言う悪い事をする人達も守らないといけないんですね、私達」

 落ち込むシルバーナ。

 「バーナちゃんは落ち込まないで下さい、人の良し悪しは変化したりしますから」

 桃花も自分より落ち込んだシルバーナを見て、怒りを鎮め慰めに入る。

 「ああ、悪い事もあれば良い事もあるさ全部ひっくるめて大事にして行こうぜ♪」

 輪人が太陽の如く明るく微笑んだ。

 「そ、そうですよね! 私だけが辛いんじゃないのにごめんなさい」

 シルバーナが謝りつつ元気を出そうとする。

 「その意気です、バーナちゃん♪」

 シルバーナの様子を見て桃花も微笑んだ。

 「桃花もバーナも、笑顔が一番だぜ♪」

 輪人が二人の笑顔を見てうれしくなった。

 「先輩、仕事を抜け出して二人で宿へ行きましょう!」

 輪人の言葉に発情する桃花。

 「ああ、駄目ですよ桃花さん!」

 桃花を羽交い絞めにするシルバーナ、そんな中彼らのブレスレットが反応する。

 「桃花ちゃん、抜け駆けは駄目だぞ♪」

 釘を刺す純子。

 「輪人は今度は私と組んで巡回しようよ!」

 ヒナミは輪人に通信で語りかける。

 「輪人様、笑顔なら私も自信がありますわ♪」

 ヴィクトリアも輪人へとアピールする。

 「いや、お前ら真面目に仕事しろよ!」

 輪人は仲間達にツッコんだ。


 「へ~? 何かあの三人組の警備兵、楽しそうですねお嬢?」

 ランゾーンが輪人達を目撃した。

 「何かあの色黒の男、どっかで見たようなかんじがするわね?」

 オシウーリが輪人を見るが、輪人にかかっている変装と認識阻害の魔法により自分の想い人だと認識できずにいた。

 「まあお嬢、今は騒ぎを起こすと不味いのでまずは警備兵や邪魔な客がいない夜に動きましょう」

 ランゾーンが小声でオシウーリに伝えオシウーリが頷く。

 「私、ホワイトラビットが見たい♪」

 「良いね~♪ でも君の方が可愛いよ~♪」

 オシウーリとランゾーンはバカップルのふりをして輪人達をやり過ごした。

 こうして、戦隊と悪の組織は互いに気付かずに昼間はすれ違った。


 そして夕方の詰所、戦隊達は全員が集まってトトから日当を渡された。

 「今日は本当にご苦労だった、明日もよろしく頼む」

 トトが戦隊達を労う。

 「刃傷沙汰はもう御免ですがね♪」

 輪人が日当を受け取りつつ語る。

 「本当だよ、今日は宿で美味しい物食べようね♪」

 ヒナミがテンションを上ゲて叫ぶ。

 「初日の打ち上げはカニを食べないか?」

 純子が提案した。

 「良いですね、もう貰った日当つぎ込んでカニを食べ尽くしましょう♪」

 桃花が同意した。

 「カニ、食べ放題のお店とかありましたかしら?」

 ヴィクトリアが首をかしげる。

 「私、カニを食べるの初めてです♪」

 シルバーナはカニを食った事がないらしく楽しみな顔をする。

 「ああ、君達? 良ければ、私が良い店に案内しようか? せめてものお詫びだ」

 カニで盛り上がる戦隊達にトトが語り掛ける。

 「お、マジですか! ありがとうございます♪」

 トトの言葉に輪人が喜ぶ。

 「ああ、君には本当にすまない事をしたからねそれにしても傷の直りが早いな♪」

 トトが輪人に返事をする。

 「まあ、仲間に腕のいいヒーラーがいますから♪」

 嘘は言っていないがその仲間が、神である事は隠す輪人。

 

そうして、夜になり輪人達ユウシャインはトトの案内で街にある定食屋を貸し切り宴会をする事となった。

 「それでは諸君、一日目の仕事ご苦労様!」

 広めの店内で巨大なカニ鍋を皆で囲み、主催者であるトトが宴会の開始の音頭を取ったと同時に数刻前まで彼らが守っていた博覧会の会場からド派手な爆発音が輪人達のいる店まで鳴り響いた。

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