第三章 アクドーイ、来寇!

第26話 アクドーイ、異世界へ!

 「ランゾーン、次元航行システムはできたの?」

 どこかのオフィスの会議室、茶髪に赤目で赤い軍服姿の小柄な美少女が茶色い金属でできた鳥のペストマスクをつけた細身で白衣の男性に語りかける。

 「はい、オシウーリ会長♪ ユウシャイン共の超次元システムのコピーに成功しました♪」

 男の名はランゾーン、秘密商会アクドーイにおいて兵器や怪人の企画や開発を担う幹部だ。

 「ゴーダッツの馬鹿の死は無駄じゃなかったと、それでレッドとユウシャインのいる世界はわかるの?」

 美少女、アクドーイの首魁であるオシウーリが尋ねる。

 「勿論です、奴らのユウキエネルギーが度々観測されている世界を発見しました」

 ランゾーンが答える。

 「なら決まりね、アクドーイはその異世界に乗り込みユウシャインに挑みます!」

 オシウーリはどこからか取り出した大きい印鑑を虚空に押した。

 「会長、甘味戦隊アンミツジャーの方は如何されますか?」

 ランゾーンが現在敵対中のユウシャインの後輩戦隊の名前を挙げる。

 「そっちは、サギ―ノをこっちの地球支社長に任命して任せるから♪」

 オシウーリが答える。

 「では、超次元社屋ちょうじげんしゃおくへ移転準備を行います」

 「ええ、私もそっちに移るわ♪」

 オシウーリとランゾーンはやり取りを終え、ランゾーンが会議室を出て行く。

 「……輪人、異世界でハーレムなんて許さないから! 絶対ヒーローなんか辞めさせて、私の婿養子にして専業主夫にしてやるんだから!」

 オシウーリは拳を握る、彼女の本名は干瓜花子ほしうり・はなこ

 死んだ父親から悪の組織を受け継いだ、女子高生首領である。


 彼女の悩みは、三つ。

 一つ、自分が好きになった同級生の男が自分の組織と敵対する戦隊のレッドな事。

 二つ、そいつが無自覚にあちこちの女に恋愛フラグを立てまくる主人公体質な事。

 三つ、更に異世界の女にまでフラグを立てて連れ去られたという事であった。

 「輪人、あんたも世界も私が手に入れるんだから!」

 オシウーリはそう決意して会議室を出た、こうして輪人を狙う新たな敵が異世界へと向かい動き出した。


 「会長、こちらの事はお任せ下さい♪」

 オシウーリに地球支社長に任命された、黒髪のショートボブだが前髪で両目を隠した綺麗なお姉さんと言う容姿の黒スーツ姿の女性が微笑んだ。

 「サギ―ノ、あんたも頑張りなさいよ♪」

 カフェモカを飲みつつオシウーリが笑う。

 「な、何の事でしょう?」

 オシウーリの笑顔に戸惑うサギ―ノ、これから地球支社となるアクドーイの基地のカフェラウンジで語り合う二人。

 「あんたもアンミツジャーのレッドの事、好きなんでしょ? なら、この大取市でけでなくそいつも絶対に手に入れなさい♪」

 オシウーリが言うと、サギ―ノのは頬を染める。

 「い、良いのでしょうか? ヒーローと悪の組織の恋など?」

 「ヒーローから奪って、悪の組織の側にすれば問題なし承認♪」

 ハンコを押す真似をするオシウーリ。

 「では、無事のお帰りをお待ちしております♪」

 サギ―ノがオシウーリに頭を下げる。

 「うん、待っててね♪」

 オシウーリが笑って席を立ち、カフェラウンジから出て行った。


 地球での諸々の手続きを済ませたオシウーリ、戦艦のブリッジの艦長席に腰を下ろす。

 「諸君、これより地球は支社に任せて我々本社はユウシャインを追撃に向かう!」

 オシウーリが宣言すると、ブリッジ内の黒ずくめの戦闘員達が叫ぶ。

 「我がアクドーイは敵対する者は必ず倒す、それが異世界に行ったとしてもだ!」

 オシウーリが続けると更にブリッジ内が盛り上がる。

 「ありがとう、それでは異世界に向け超次元社屋ちょうじげんしゃおくグレートアクドーイ発進せよ!」

 オシウーリが叫ぶと、クルーの戦闘員達がそれぞれブリッジで操作を始める。

 「素晴らしいスピーチでしたね、会長♪」

 ブリッジ内にランゾーンが入って来た。

 「で、これて本当に次元を移動してるの?」

 胡散臭げな表情でランゾーンを見るオシウーリ。

 「ええ、外の様子をご覧入れましょう」

 ランゾーンが指を鳴らすと、ブリッジの窓に宇宙のような闇の世界が映る。

 「星がない宇宙? あ、何か変な怪物が出た撃て!」

 オシウーリが命じるとクラゲのような怪物に光線が放たれ怪物が爆散した。

 「異次元に潜む怪物でしょうな、他にも色々いそうですが」

 ランゾーンが呟く。

 「まあ、怪物がいてもどーでも良いかな? 早く異世界に着かないの?」

 オシウーリがランゾーンに尋ねる。

 「ふむ、どうやら何者かが妨害しているようですね?」

 ランゾーンがタブレット型の端末を確認しながら呟く。

 「もしかして、目の前のギリシャの神殿みたいなのが原因?」

 オシウーリが目をやるとその先には、ギリシャ風の神殿が建てられた異次元に浮かぶ島があった。

 「おそらくは、どう為されますか会長?」

 ランゾーンが尋ねる。

 「決まってるでしょ、邪魔者は倒す! 総員、戦闘用意!」

 オシウーリが命じた。

 

 一方、その神殿の主であるムーナは驚愕していた。

 「な、何だあの船は!」

 自分やユウシャイン達以外に次元を越えて来る者がいた事に驚くムーナ。

 そんな彼女の元に、眷属である白い衣装を着た性別不肖の美しい天使がやって来た。

 「大変ですムーナ様、異世界からの来寇者です!」

 ムーナの前で跪きつつも慌てている天使。

 「わかっております、戦天使いくさてんしを出してあの奇妙な船を次元の藻屑に変えるのです」

 ムーナ自身も内心慌てているが、威厳を持って命じる。

 「かしこまりました、ただちに戦天使部隊いくさてんしぶたいを向かわせます!」

 主の命令に従い天使は退室した。

 「あの来寇者らいこうしゃ、もしや我が勇者と同じ世界の者か?」

 ムーナが戦艦の形をしたグレートアクドーイを見て、何かに勘付く。

 

 「もしかして、あれが向こうの世界のヒーロー?」

 オシウーリも何かに勘付く。

 「恐らくその類ではないかと思われます」

 ランゾーンが答えると同時に、全身銀色の背中に白い翼の生えた騎士の群れが現れた。

 「女神ムーナの治める世界に侵入せんとする来寇者よ、立ち去れ!」

 銀の騎士、戦天使の一体が叫ぶ。

 「は? 女神! って言うか、あいつら何でこっちに話しかけてるの?」

 戦天使にキレるオシウーリ。

 「恐らく、科学ではない魔法的な力かと?」

 ランゾーンが答える。

 「わかった、女神だろうとぶっ飛ばす! アクドーイ航空隊、出撃!」

 オシウーリも命令するとグレートアクドーイの艦艇が開き、戦闘機が飛び出して行き戦天使部隊と交戦状態になった。


 戦天使の投げた槍と、アクドーイ航空隊の戦闘機が放つミサイルがぶつかり合いアクドーイ側のミサイルが消滅し戦闘機が槍に貫かれて爆散する。

 「馬鹿な! 俺達の攻撃が効かないだと?」

 「駄目だ、機銃を撃っても弾かれる!」

 自分達の攻撃が効かず、驚愕しながらも撃破されて行くアクドーイの戦闘員達。

 「嘘! 何でこっちの攻撃が効かないの?」

 驚くオシウーリ。

 「会長、これは我々は異世界の法則に捕らわれたかと! 連中の対抗策を講じるには時間が必要です、地球へと撤退しましょう!」

 ランゾーンも焦る、天才的な悪のマッドサイエンティストである彼はムーナの領域に近づいた事で自分達が敵に勝てないと気付いた。

 

 一方、神殿では戦いの様子を見ていたムーナがニヤリと笑みを浮かべた。

 「ほう、どうやら我が勇者と違いあの来寇者はこちらに対抗できぬと見た♪」

 獲物を狙う狐の顔になるムーナ、彼女の持つ狐の神としての顔だ。

 「戦天使達よ、あの来寇者を逃がさず滅ぼすのだ!」

 神殿の中からテレパシーで命じるムーナ、その命令を果たすべく戦天使達は槍を振るいアクドーイの戦闘機を撃破して行く。


 「うう、想定外の大損害~っ! 航空隊には悪いけど、撤退する!」

 地球への帰還を命じるオシウーリ、ブリッジの戦闘員がその命令をこなすべく捜査を開始した。

 「む! 大変です会長、エンジンが暴走を始めています!」

 ランゾーンがタブレットを見て叫ぶと同時に、ブリッジ内に警報音が走る。

 「大変です、航空部隊が突破され敵に侵入されました!」

 オペレーターの戦闘員が叫ぶ。

 「嘘! 何なのよあいつら~!」

 ムーナ側への怒りを爆発させたオシウーリ。

 「会長、脱出艇に急ぎましょう脱出艇にも次元を越えるシステムが備わってます!」

 悪の組織のマッドサイエンティストではあるが、オシウーリへの忠誠と親愛の情があるランゾーンが彼女の手を取る。

 「わかった、皆ごめんね! 案内してランゾーン!」

 ランゾーンと共にブリッジを抜け出すオシウーリ、艦内を走り脱出艇を目指す。

 だが、そこに、銀の鎧の戦天使が数名ほど現れる。

 「いたぞ、来寇者だ殺せ!」

 「女神ムーナの名において!」

 「我らが世界に来たことを悔め!」

 次々に叫び声をあげて迫る戦天使。

 「人の船に侵入するな~!」

 だが、美少女の姿でもオシウーリは悪の首領。

 怒りと怨みの闇を纏った拳で戦天使達を殴り倒して行く。

 「僕ら悪の幹部がタダでやられないんだよ! ネガティブショット!」

 ランゾーンも、拳銃型ガジェットから黒い闇の弾丸を放って戦天使達を倒して活路を切り開いて行く。

 「馬鹿な、異世界の者が魔族の魔力だと!」

 戦天使の一体が驚く。

 「誰が魔族よ馬鹿~っ!」

 走りつつネガティブな感情の力を光線のように放つオシウーリ。

 「どうやら、我々のネガティブフォースは通用すると」

 敵の攻撃を躱しては反撃しと、逃げつつも分析は怠らないランゾーン。

 「分析は良いから!」

 ランゾーンの首根っこを掴んだオシウーリがジャンプし、艦艇のドッグにある球体型の脱出艇の傍へと飛び降りた。

 「おのれ、逃がすか!」

 オシウーリ達を追撃しようと飛び立つ戦天使。

 「逃げるよ、面倒くさい!」

 オシウーリと共に脱出艇に乗り込んだランゾーンが、艇内で操作をすると脱出艇は唸りを上げて姿を消した。


 「うう~っ! あいつら絶対に復讐してやる!」

 泣きながら怒りを燃やすオシウーリ。

 だが、乗り込んだ脱出艇の内部に警報音が鳴り響く。

 「馬鹿な、システムがおかしい! 地球に帰れるように座標を設定したのに!」

 ランゾーンが慌てふためく。

 「う、噓でしょ~!」

 逃げられたと思ったら、また災難に見舞われたオシウーリは意識を失う。

 脱出艇から転がり落ちて意識を取り戻した彼女とランゾーン。

 「ここ、何処?」

 「……わかりません、けど生きてられます」

 彼女達の頭の上は見知らぬ青空、見回せばどこかの広場のような場所で自分達を取り囲む獣人やアンデッドの怪人達。

 「空からの来訪者よ魔王アナトラの名に置いて尋ねる、そなた達は何者だ?」

 ミルクティーのような亜麻色の肌の上に黒い鎧を身に纏った金髪の美女が、オシウーリ達を囲む怪人達割ってオシウーリ達の前に現れて尋ねて来る。

 「女神の次は、今度は魔王~っ!」

 オシウーリが叫ぶ、悪の組織と幹部の二人が辿り着いたのは魔王領であった。

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