第21話 九人目の勇者 前編

 「確認した所、この子からはムーナの魔力や影響は感知できませんでした」

 ジーラベースのブリーフィングルームにシルバーナを連れて来ていた。

 「私も、ムーナ様との繋がりが無くなってしまったのに驚きです!」

 シルバーナ自身が叫ぶ。

 「……先輩、また女の子を拾って来たんですね?」

 桃花が輪人を睨む。

 「待て、俺もまさかあの中にこの子がいるなんて想定外だったんだ!」

 ジーラやシルバーナ、エレトやケト以外の仲間達に睨まれる輪人。

 「……おそらく、この子は勇者ちゃんが新たに生まれ変わらせたと見てるわ」

 ケトが自分の見解を述べる。

 「……え、俺が? 悪いけどよくわからねえ」

 輪人が驚く。

 「勇者ちゃんが、少しづつ神に近づいているからかしらね~♪」

 エレトが微笑む。

 「いや、俺はこの子をあの女神から助けたいって思っただけで」

 慌てふためく輪人。

 「はい、それでムーナ様との繋がりを感じなくなった代わりに今度は輪人さんとの繋がりを強く感じるようになりました♪」

 シルバーナが純粋に満面の笑顔で語る。

 「待て、もしかしてこれまでも感じ取られてたのか?」

 シルバーナの言動に驚く輪人。

 「はい、少しだけですがどうして私に乗ってくれないんだって感じてました」

 「そりゃ、俺はムーナ側じゃないからとしか」

 シルバーナの言葉に詰まる輪人。

 「でも、これからは一緒に戦えますから大丈夫です♪」

 シルバーナが笑顔になる。

 「まあ、宜しく頼むなシルバー」

 輪人は笑う。

 「はい、巨大戦でも頑張ります♪」

 シルバーナは良い子だった。

 

 「先輩、これはもう戦隊裁判物ですよ?」

 焼きもちを焼いた桃花が輪人を睨む。

 「たしかに、これは一度戦隊裁判をした方が良いかもですわねえ」

 ヴィクトリアが溜息をついて呆れた。

 「女の子ホイホイの輪人には、まさかの時の戦隊裁判だよ!」

 ヒナミも叫ぶ。

 「うん、私も異議なしかな弁護はできない?」

 純子も同意する。

 「えっと、戦隊裁判って何ですか?」

 シルバーナが首をかしげた。

 「シルバーナちゃんは、気にしなくても良い事です♪」

 ジーラがシルバーナに微笑む。

 「勇者ちゃん、たらしね~♪」

 ケトはケロケロと笑う。

 「私達もだけど皆、勇者ちゃんが好きなのよ~♪」

 エレトも微笑む。

 「ちょ! 俺の方は、わけがわからないよ~~っ!」

 室内に輪人の叫びが響く、その後開かれた戦隊裁判の結果で輪人に下された判決はメンバー全員とデートすると言うものだった。

 

 「デートの順番は、女子達で決めるで宜しいでしょうか?」

 桃花が仲間達に問いかける。

 「妥当だね、どんな方法で決めようか?」

 純子が同意しつつ仲間達に尋ねる。

 輪人は猿轡をされて椅子に縛られ、景品と言うタグが貼り付けられていた。

 「それでは、ゲーム対決で決めません?」

 ヴィクトリアが提案する。

 「くじ引きもありかと♪」

 ジーラがくじを虚空から取り出す。

 「神様パワーは禁止です」

 桃花が却下した。

 「……あの、皆でピクニックをするのは銅でしょう♪」

 シルバーナがキラキラした笑顔で提案した。

 「……な、何と言う清らかな笑顔だ」

 純子がシルバーナの笑顔に目を覆った。

 「何だか、心が洗われるよ」

 ヒナミも同じように目を覆う。

 「凄いピュアなオーラです、何ですかこの正統派なヒロイン力は!」

 桃花は戦慄した。

 「私は賛成よ~、お弁当は任せて♪」

 エレトはシルバーナに付いた。

 「私もそれでいいと思うわ~♪」

 ケトはケロケロと同意した。

 「では、私も同意で♪」

 ジーラもシルバーナに付いた結果、うやむやになった。

 

 「ピクニックの前に、これからの戦いについて話そうぜ?」

 解放された輪人が提案する。

 「誰が先輩の第一夫人になるか。と言う戦いですか?」

 桃花がジト目で睨む。

 「違う! 魔王軍やムーナとの戦いだ!」

 輪人が叫ぶ。

 「それは大事だけれど私達は戦う為だけに集ったチームじゃないんだよ、輪人君?」

 純子が輪人を窘める。

 「いや、俺達は結成当初はアクドーイと戦う為に集ったでしょ?」

 輪人がツッコム、大事な所だ。

 「アクドーイ、連中も倒しに行きたい所ですわね」

 ヴィクトリアが懐かしそうにつぶやく。

 「その内、こっちの世界にもアクドーイがやってきそうだよ」

 ヒナミも呟く。

 「あの、アクドーイって何です?」

 シルバーナが質問する。

 「そう言えば、度々聞くけど教えてもらってないわね?」

 ケトも疑問を口にする。

 「勇者ちゃん達の敵よね?」

 エレトが大まかに答える。

 「そのように聞いております」

 ジーラも頷く。

 「アクドーイ、秘密商会ひみつしょうかいアクドーイって悪徳や悪事は商売として悪さをする外道共だな」

 輪人が答える。

 「こちらで言う魔物のような怪人や兵器を作って悪さをしたり、作った怪人や兵器を他の悪の組織やら質の悪い国家や犯罪者に売ったり共謀したりと外道です」

 ヴィクトリアが続ける。

 「一般の商人に化けて、普通に店を出しつつの悪さもするから面倒な相手なんだ」

 純子が、フロント企業を異世界の住人にもわかるように語る。

 「だからこっちも、敵に対抗して他のヒーローと協力して戦ってたんだよ」

 ヒナミも語る。


 「なるほど、それはこの世界に来たら倒さないと駄目ですね!」

 シルバーナが気合を入れる。

 「確かに、魔王軍やムーナだけでも大変ですからね」

 ジーラが溜息をついた。

 「そんなのに来られたら厄介ね」

 ケトが想像して冷や汗をかく。

 「戦い方も考えないといけないわね~?」

 エレトも口調は伸びているが、不安げだ。

 「魔王軍やムーナと手を組まれると厄介です」

 桃花が呟く。

 「確かにムーナ様なら、そんな人達も利用しそうです」

 シルバーナがムーナの性格を考えて語る。

 「まあ、アクドーイの来寇も警戒しつつ魔王軍達と戦って行こう」

 輪人がまとめた。


 「え? こっちに来る前に倒した幹部のゴーダッツとの決戦の話はしないの?」

 ヒナミが輪人に尋ねる。

 「聞きたいです♪」

 シルバーナがせがんだ。

 「それじゃあ、シルバーナに俺達を知ってもらう為にも話すか」

 輪人が語り出した。


 時はしばし過去に戻り場所は日本に移る。

 カランカラン♪ とベルが鳴りドアが開く、六人掛けのコの字型のカウンター席と

 四人掛けのテーブル席が二つのこじんまりした茶色い木の壁の店内。

 「いらっしゃいませ~♪」

 黒い作務衣に白エプロンと店員姿の輪人が客を迎える、ここは和風かふぇ夕焼け。

 勇輝戦隊ユウシャインのアジトの一つだ。

 「大盛りクリームあんみつセットを頼むよ♪」

 客として来たのは黒のライダースーツ姿の純子。

 「かしこまりました~♪」

 接客モードで応対しカウンター席奥の厨房にオーダーを伝える。

 「オッケ~♪」

 「了解しました♪」

 その声に応えるのはキッチン担当のヒナミと桃花、丼状の黒い器に寒天を盛り次にあんことバニラアイスを盛りさくらんぼとみかんを加えて出来上がり。

 緑の湯飲みに熱い緑茶を注いだら、あんみつ共々盆に載せて輪人に渡す。

 輪人が受取りテーブル席の純子へと持って行く。

 「ありがとう、今日はヴィクトリアちゃんは?」

 純子が仲間の事を輪人に尋ねる。

 「あ~、そろそろ来るんじゃ?」

 輪人が呟くと同時にドアが開き、ヴィクトリアが入って来る。

 「皆様! 大取銀行に、スクランブル案件ですわ!」

 息を切らしながらヴィクトリアが仲間達に叫ぶ。

 「何があったんだ、ヴィクトリアちゃん!」

 大盛りクリームあんみつとの格闘を止めて、純子がヴィクトリアへ尋ねる。

 「取り敢えず水飲んで!」

 輪人がコップに水を入れてヴィクトリアに差し出すと、ヴィクトリアは一気に飲み干した。

 「お寛ぎ中の純子さんには申し訳ございませんが、アクドーイ出現ですのよ!」

 「問題ない、もう食べ終わってるから戦えるよ♪」

 ヴィクトリアの言葉に純子が答える。

 「よし、じゃあ地下へ急ごう! 奥の二人も出番だ!」

 放課後のバイトモードから戦闘モードになった輪人が叫び奥へと走る。

 ユウシャイン達が店の地下に向かうのと入れ替わりに、店舗営業用のスタッフが現れ店舗の運営に当たった。

 地下にある各自の専用のシューターを滑りながら自動操作で戦隊の証である制服に着替えて地下鉄のホームのような場所に降り立った一行。

 この店の地下にある専用ホームから、次元を越えて移動できる出撃コースターに乗り込むとコースターの列車に搭載されたAIが反応して発進した。

 空間に穴が開き、列車から放り出された五人が現場前に着地する。

 「ダ~ッツダッツ♪ 現れたのであるな戦隊共♪」

 戦隊を見て笑うのは全身が金庫で出来た黒いロボット型の怪人、アクドーイの幹部ゴーダッツであった。

 「またお前かゴーダッツ、銀行強盗なんかさせねえぞ!」

 輪人がゴーダッツに向けて叫ぶ。

 「現金、金貨、宝石に証券、この街の皆の貯金はしっかり守てみせる!」

 純子が続く。

 「お前達が今まで奪った金額、その命で弁償するね!」

 ヒナミも叫ぶ。

 「まずは四天王の貴方を倒して、アクドーイの戦力を崩させていただきますわ♪」

 ヴィクトリアは笑った。

 「皆さん、様子がおかしいです異空間化されてます!」

 桃花が空の色が赤く変化して異空間にされたと気付いた。

 「ダ~ッツダッツ♪ その通り、今日はお前達の決着をつける日ダッツ♪」

 ゴーダッツが笑い、胸の金庫を開けると黒ずくめの人型の人工生物アクドーイ戦闘員の群れが飛び出して来た。

 「そっちがその気ならやってやる! 皆、ユウキチェンジだ!」

 輪人が変身を宣言すると仲間達が呼応し変身を行なった。


 「太陽パワー、ユウシャレッド!」

 「海洋パワー、ユウシャブルー♪」

 「大地パワー、ユウシャイエローですわ♪」

 「闇夜のパワー、ユウシャブラック」

 「狼パワー、ユウシャピンクです!」

 変身したそれぞれが、個別の名乗りを上げる。

 

 「勇気を輝かせて悪を討つ!」

 レッドが、名乗りの後の台詞を切り出せば

 「「勇輝戦隊ユウシャイン!」」

 全員でチーム名を名乗るとお約束の戦闘開始の宣言を行う。

 「勝負の前に名乗りを上げ合うのは、戦士のマナーであるダッツ♪ ならばこちらも名乗り返すダッツ」

 とゴーダッツが切り出す。

 「奪って集金、集めよ現金! アクドーイ四天王、強盗幹部ゴーダッツ! 貴様らの命を奪ってくれようダッツ! かかれ戦闘員ども!」

 ゴーダッツが歌舞伎のような見得を切って名乗り、戦闘員をけしかけて戦いが始まった。

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