ニャルさまと不思議な草

ニャルさま

孫権はよいと思う

 三国志の人物について。

 子供のころは関羽かんうが好きだったり、若いころは孫策そんさくが好きだったりしましたが、最近は孫権そんけんをよいと感じます。


 孫権の主な能力は以下でしょう。


①変幻自在の外交術

②適材適所の人材活用

③戦えば弱い、弱いけど前線に立ちたがる


 ①では、しょくの対立につけ込み、有利な状況を生み出しました。彼にとって天下三分とは、両者が相争い、自らは漁夫の利を得ることだったのです。

 三国鼎立に向かう物語を牽引したトリックスターといえるでしょう。


 ②では、「呉下ごか阿蒙あもう」に学問を薦め、「三日会わざれば刮目してまみえるべし」と言われるほどの成長を遂げさせたことが有名です。

 また、魯粛ろしゅくの大言壮語に乗って赤壁の戦いにのぞむ決断をしたことも、部下を正しく活用した例といえるでしょう。


 ③こそが私の好きなところです。

 ①②で挙げた能力は治者にふさわしいものですが、孫権は覇者になりたかったのだと思います。海賊退治で成り上がった父・孫堅そんけんや、三国志の君主で唯一不敗を誇る兄・孫策の背中を見ていたのだから当然かもしれません。

 しかし、悲しいかな! 孫権に戦いの才能はなく、前線に出るたびにコテンパンに負けるのです。


 武勇伝もいくつか残っています。

 曰わく、張遼ちょうりょう(「泣く子も黙る」の語源となった怖い人)とニアミスして悔しがられたとか。

 曰わく、矢を受けすぎて船が沈みそうになったので、旋回して反対側にも矢を受けてバランスを取ったとか。(この話が後に、諸葛亮しょかつりょうが100万本の矢を奪取した伝説に転化したという)

 どことなく間抜けさが漂うのが孫権の持ち味です。


 こんなエピソードもあります。

 若いころの孫権は金遣いが荒く、自分の立場を利用して役人に無心していました。ある時、ふたりの役人を訪ねますが、ひとりは融通をきかせ、もうひとりは公的な金だから渡せないと拒否します。

 孫権は恨みました。ですが、実権を握ってから重用したのは、無心を断ったほうの役人でした。


 この話からは、ワガママで調子に乗りやすいが、反省して成長することができる、孫権の人間性が見えてきます。

 曹操そうそう劉備りゅうびほどのカリスマ性はないかもしれません。しかし、学習し、悩み抜き、部下の力にも頼り切ることで、あのふたりと対等に渡り合ったのだとすれば、なんだかいい話に思えてきませんか。

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