今を繋ぐ、そして生きる
シヨゥ
第1話
「今を感じるということは今を生きているということ。今を大事にしなさい」
今まさに焼け落ちようとしている城の最奥。倉庫の片隅で母は必死の形相でそう語りかける。
「父は死に、私も間もなく後を追うでしょう。そうなれば我が家であなただけが今を繋いでゆくことになる」
母は崩れ落ちた梁の下敷きになり、顔を歪ませながらもそう続ける。
「今を繋いでいけば必ず光指す時もある。それを信じて生きなさい」
「母上」
「今の辛さは過去のものになる。たがら今を生きなさい。過去を振り返って悲しくなることもある。だから今を生きなさい。振り返らず今を生きるのです」
何かが爆ぜる音がする。それと共に火の手が強まった。
「頃合いですね」
母はそう呟くや息を吸い込み、
「さあ生きなさい! ここで死んではなりません! 行くのです!」
そう声を大にして叫んだ。
「さあ!」
鬼気迫る表情に圧されて体が勝手に動く。そして咽る母を残し走り出した。
その後の記憶は定かではない。気がつけば火柱を上げる城を山一つ向こうから眺めていた。ただ眺めているということは生きているということ。僕はまだ今を生きている。
今を繋ぐ、そして生きる シヨゥ @Shiyoxu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます