アヴァランチピード 凍てつく山の白雪ムカデ

武州人也

第1話 害虫駆除業者の噂話

 山は眠り、降り積もった雪が木々を覆う。その一面の銀世界をくり抜くかのように、その山荘は経っていた。


「おい、知ってるか?」

「何を?」

「ここの幽霊話だよ。丑三つ時に三階の廊下を歩いてるとさ、存在しないはずの304号室があって、そこに入っちまうと自殺した女の幽霊に出くわすって話」

「何だよそれ、学校の七不思議じゃあるまいし」


 白い防護服に身を包んだ二人の男が、廊下の壁にもたれかかって雑談していた。彼らは害虫駆除業者であり、たった今この山荘での薬剤散布作業を終えたところである。

 この山荘は企業の研修施設で、つい最近持ち主が変わったのだという。その新しい所有者の依頼で、彼らは仕事をしに来ていた。


「それでな、女の幽霊を見ると、そいつに連れ去られちまうんだってよ」

「出た出た、お決まりのパターン」

「……まぁ、俺もそんな話信じちゃいねぇけどな。でもここで以前に自殺者が出たのは本当だぞ」

「げっ、マジかよ。事故物件ってやつ?」

「しかもそんなに前の話じゃないぞ。何年か前に女が首吊ってたんだってよ。ここが企業の研修用施設に改装されたのはその後らしい」

「はえ~そりゃ知らなかった。なんか寒くなってきたぞ……」

「そりゃ冬だから寒いのは当たり前だろ。でもまぁ、気味悪いし、さっさと仕事済ませて帰ろうぜ」

「あと別棟だけだしな、ぱぱっと終わらすか」


 この害虫駆除業者は、依頼された仕事を済ませるなり、そそくさと車で山を下りて行ったのであった。

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