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「随分と仲良しになりましたわね」


と。

不意に背後から掛けられた声に振り返ると……多くの顔がこちらを見ていた。


「アレ? みんな居たんだ」

「ずっと居ただろ……正直、数名から殺意の篭った目向けられて居心地悪かったんだが」


確かに。

自分を虫と言い張る幼女らやタンポポと言い張る美少女がブツブツと呪詛を送っていた。

幼馴染は「まぁこう収まるわよね」と謎の諦めの表情を浮かべているが。

毘沙ちゃんとおばぁは生温い視線。


「アレだけ仲違いしていた若い両者がこのように良好な関係を築けているのでしたら、桃源楼の未来は明るいですわね。安心して知朱ちゃんに明け渡せます」

「ならおばぁ! 今すぐ頂戴!」

「考え直せお袋! コイツ知れば知るほど危険過ぎるぞ!」

「危険な男とか女の子は大好きじゃん? 優しい彼より俺様系な彼が好きじゃん?」

「なんの話だっ」

「おほほっ。では、両者の意見の間を取って、桃源楼譲渡は『そのうち』という事で一つ」

「んのクソババア! 毎度毎度先延ばしにしやがって! かくなる上は今すぐ……!」

「(ガンッ)おらっ! コンビニ行く感覚で『アレ』しようとすんのはヤメろ!」

「(サッ)おっと。ヨシヨシ、君達(キッズ+タンポポ)、僕が攻撃されたからってウサギの姉ちゃんをブチ〇そうとするのはやめようねぇ」

「ッ!? コイツらいつのまにこんな近くにっ! ……お前の周囲危険過ぎんだろ……」

「いつも通りだよ。君こそ、大事な備品で殴んないでくれる?」

「誰が原因だと……」


僕はぶたれた頭をさすりながら、


「あいわかった。何故おばぁがとっとと僕にポストを譲ってくれないのか……それは、『理由』と『目的』が知りたいからだね?」


「ええ。それもありますわね」


頷くおばぁ。

僕はそれを、今まで自分の内に秘めていた。

いや、思い付いたのはつい最近だから熟成するほど秘めていたわけではないけれど。

その内容は、薄縁や膝丸も知らない。

だが、言えばきっと、みんな驚いてくれるだろう。

そしてその完璧な計画に感動し、協力不可避。


「では、丁度みんながいる事だ、話して進ぜよう」

「随分と偉そうね(薄縁)」


僕はピースするみたいに指を三つ立て、


「僕の計画には三つのフェーズがある。まずフェーズ1」


桃源楼の『宿泊事業』を『総合エンタメ事業』に改革。

才ある能力者達や桃源楼スタッフらで今の腐ったエンタメ界に殴り込みを掛ける。

芸能(映画・ドラマ、アイドル)、芸術(アニメ、漫画、小説)関係を、他には真似出来無い要素である異能の力で無双し、世界に桃源楼という名を注目させる。


「そしてフェーズ2」


ある程度エンタメ界を牛耳ったら、その後はとりあえず『国を作る』。

国民が皆、異能を使える【異能国家】だ。

エンタメ事業は更に昇華され、スポーツや産業など、凡ゆる分野で世界一になる。

そうして、徐々に、『異能の力を秘めた【道具】』などを他国に流通させて世界を『異能に染めて』行き──


「ちょ、ちょっと待て!」


「ん? なんだい卯月ちゃん、話の途中だぜ?」

「いや……流石に盛ってんだよな? てか、冗談、だろ? いきなり国て……」

「こんな面白い計画、冗談で終わらせちゃあつまらんだろお?」

「お、お前っ、こんなのマジにやろうとしたらどうなるかっ。敵は巨大国家の武力なんて『ちゃちなモン』じゃねぇ! お袋レベルの【ヤベー奴ら】の逆鱗に触れんぞ! つか、それ以前に、計画が形になる前に絶対潰されるっ」

「心配性だねぇこの子ったら。それとも何かい? 『本当に僕には実現不可能』と思ってるのかい?」

「……、……お前の独りよがりで終わるに決まってる。オイお袋、アンタもなんか言ってやれよ。流石に『桃源楼の役割』と百八十度反してるぞコレは」

「卯月。先ずは最後まで話を聞きなさい」

「……流石に厳しい顔してるなお袋も。流石の孫バカもコレは看過出来ねぇようだ」

「ん。じゃあ、最後に、フェーズ3の説明ね」


フェーズ3。

勘の良い子なら、フェーズ2で『他国に異能を広める』行動で察したと思うけれど。


「最終的に。世界の全生命体が『異能を使えるように』します。以上、終わり」


「……あ、あの」

「はい、ホコウちゃん。質問かな?」

「そ、それは、つまり、この世界をホコウの生まれ故郷のような『剣と魔法の異世界(ファンタジー)』にする、という事ですか?」

「(君の設定通りに言うなら)そうね。空飛ぶドラゴン、喋る世界樹、舞い踊る妖精、魔法学園……様々な要素を取り入れて行きたいね」

「で、では、細かいレイアウト等はアドバイス出来ると思いますっ」

「頼りにしてるよ」

「たのしそーっ」「ふぁんたじーっ」「ちあきしゃまっ、おてつだいするっ」

「わははっ、キッズ達も頼りにしてるよ。マスコット枠とかでね(ナデナデ)」

「……まさかお主、国の拠点をこの町にするつもりではあるまいな? 余所でやれよ?」

「そう言わないでよ毘沙ちゃん。ここは既に異能使いが多いから都合が良いんだよー」

「世界、ね……アンタは王様にでもなろうっていうの?」

「興味は無いけど流れ的にそうなるかもね。魔法の世界の初代魔王……悪く無いね。ベリー、大臣にでもなる?」

「興味ないわよ『その役職には』」

「ふんっ、思った通り無茶苦茶な計画だな。止めるのも面倒くせぇから勝手に野垂れ死にな」

「何言ってだ。手始めに、ベリーとホコウちゃんと卯月ちゃん三人で広告塔兼アイドル活動して貰うんだが? 動画化して拡散しまくるぞっ」

「手始めに変な事させようとすんなっ」「ほ、ホコウは構いませんが……」「一度了承するとエスカレートするわよ」


皆が称賛する、そんな空気の中。


「知朱ちゃん。貴方、一体どういう理由、いえ、どういう信念でこの計画を?」


最後に、おばぁの問い。

嘘偽りは通じぬ相手。

ただ、思った事を言えばいい。


「言ったじゃない、面白そうだからって。ただ、そうだな。キッカケを探すとするなら……おばぁが僕に課した『町の異能者を全員戻せ』っての。アレが面倒いから、かな?」


「……はぁ。だから、いっそ皆を異能者にすると? 飛躍し過ぎですわよ」

「そうかな? こじんまりと経営していた桃源楼の名前を世界規模にまで広げる良いアイディアだろ? こんな孝行孫、居ないぜ?」

「……もう好きにしなさいな」

「お袋!? だから考え直せ!」


卯月ちゃんが悲鳴に近い声で訴える。


「まぁ、なにはともあれ、そちらの壮大な計画よりも今は、貴方が始めたこのお祭り、責任を持って成功させなさいな。跡取りの話はそれからです」

「わーってるよ! てかそもそもおばぁに許可取るモンなんて一つも無いんだけどね! 僕は僕のやりたいようにするんだから!」

「その通り。いくら孫とはいえ、わたくしにお伺いを立てて媚び諂う必要などありません。絡新らしく、強奪(うば)いなさいな。お茶を用意して待っていますわ」


カラリと、おばぁは微笑って、


「期待してますわよ。わたくしは、知朱ちゃんの一番のファンなのですから」

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お坊ちゃんなので学校にも行かずツンデレ幼馴染とだらだら同棲してても許される 月浜咲 @tukihama

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