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「てかおばぁー、そろそろ『若い連中』に会わせてくんない? ガキどもめ、一度も自分から僕に挨拶に来やしねぇし。噂じゃあ好き勝手ヒトの悪口言ってんでしょ? シメなきゃ……」
「アンタ小物過ぎるでしょ」
ガキ呼ばわりしてるけど、殆どが同世代だ。
まぁ、絡新の跡継ぎからしたら、正当な要求。
しかし、いくら知朱の頼みとはいえ、カアラ様は『受け入れない』だろう。
「オホホ。残念ながら今、若い子達は『よその現場』で仕事中ですわ。またの機会に」
「ええー。いつになったら会えるんだょォ?」
そも、会わせる予定はあるのだろうか?
なにせ、カアラ様が自身の妖術で『両者を邂逅せぬよう縛ってる』ほどだ。
知朱はその限りでは無いが、若い衆は知朱の『顔も知らない』。
写真などでも確認出来ぬよう、因果レベルでカアラ様の術が制限している。
何故そこまで? と思うだろう。
単純な話、両者らが出会ったとして、まず『穏やかな流れ』にはならないからだ。
……いや、別にいざこざ自体は大した問題じゃない。
絡新は血の気が多い者ばかり。
殴り合いで語る事は日常茶飯事だし、誰も止めはしない。
だが──若い衆らの前に、知朱を晒すのはまだ『早過ぎる』。
最悪、桃源楼内の『均衡』が保てなくなる。
荒れるならば荒れるでそれでもいいが、しかしまだ時期では無い、というのがカアラ様の判断だ。
思えば、若い衆らと知朱の不和も、カアラ様が狙った結果だろう。
因みにだが、若い衆らと言っても見た目では判別出来ない。
先程ここに来た従業員三人も、見た目こそ十代ではあるが、その実古株で、中には数百歳の者も居たりする。
「ったく。じゃ、ガキどもを〆るのは今度にして、カニが茹で終わるまで大浴場でひとっ風呂浴びて来ましょうかね。おらっ、お前らも行くぞっ」
「つ、付き合いますっ」
擦り込みされた鳥のヒナのように知朱の後ろをついていくタンポポと虫達。
「ほらっ、毘沙ちゃんもっ」
「我もか!? ……ふん、まぁ風呂にも入りたかった所じゃし、付き合ってやるわ」
「ベリーもー」
「え? え、ええ、」
「ごめんなさい知朱ちゃん、少し薄縁に話がありますので」
ツゥ
背中に冷たい汗が伝う。
「ああん!? ババアベリーに説教でもするつもりか!? パワハラだ! 労基労基!」
「ふふ、別に、いじめたりはしませんよ。ただの業務連絡です。すぐに終わらせてそちらに向かわせますので」
「ホントぉ? ベリー、いぢめられたらすぐに報告するんだよ?」
「アンタどんだけ過保護なのよ。普段そこまで心配したりしないでしょ。ほら、早く行きなさい」
シッシと手を仰ぐと、
「コンニャローご主人様に対してっ。メッチャ怒られろ!」
と手の平を返し、ペシリと人の『背中を叩いて』勢い良く部屋から出て行った。
ッ……アイツ……! はぁ……ホント、騒がしい。
「ふふ、愛されていますね」
「か、からかわないで下さい……」
「絡新本家を離れ、ひと月、でしたね。どうです? あの子との同棲は」
「え、ええ、そうです、ね……」
思い返してみて、
「昔からお世話係をしているので慣れてはいましたが、相変わらず洗濯物は脱ぎっぱで、お風呂も泡まみれにしてだらしなくって」
「うんうん」
「ご飯も好き嫌いが多くて、寝る時はすぐに布団を蹴っ飛ばして」
「それで?」
それで。
「この日々が続くなら、私はもう何も要りません」
ただただ、求めていた至福の時間。
「それが、出会った頃からの貴方の夢、でしたものね」
けれど。
この方がわざわざこんな事を確認して来るという事は……
「しかし。その立ち位置は『不動』、というわけではございません。当然、理解しているでしょうが」
「……はい」
「貴方の立ち位置を狙う者は多い。知朱ちゃんのお付き、という立場は『強者』でないと勤まりませんわ」
絡新の決まりとして、本家の者の側には『本人と関わりのある一番強いお付き』を置く事となっている。
一 誰をお付きに置くか、主人本人の希望は通らない。
一 お付きは主人を選べる。
一 家事スキルは主人が満足するレベルでなければならない。
一 強いお付きを置く理由は、凡ゆる害意から主人を守る為、『では無い』。
「先程の虫ちゃん達にも『覚悟』は問いましたよ。『貴方の時同様』、間髪入れず了承しましたわ」
「……口だけではどうとでも答えられますよ。妖がゼロから積み立てて行くのは、簡単な道ではありません」
「それすらも平気で耐えられる程の魅力が知朱ちゃんにあると、貴方も解っているでしょうに」
……苦しい修行も苦ではないと、私自身体験した事だ。
「ふふっ。まぁ、色々と脅しはしましたが、ただの喝と思って下さいまし。隙を見せれば、一瞬で別の子が割り込んで来ますので」
「隙など見せませんよ。影すら踏ませません」
「ふふ、そうでしたわね。十年近く守っている貴方には愚問でした。それほどの気概が無き者に孫は任せられませんし」
私の答えに満足したように、カアラ様は「行っていいですわよ」と、殆ど無い湯呑みのお茶を口に含んだ。
「……、……あの」
「ん? どうしたのです? まだ何か?」
「あの場所に【肉塊】を置いたのは、もしかして……」
「おや、黒幕が『分かって』? 是非、お教え頂きたいですわ(ニコッ)」
「い、いえっ。早とちりでした。もう少し、調査を続けますっ」
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