11
──プール更衣室の前まで戻る僕達。
クンクン
「ちょ、なに急にウチらの匂い嗅いでんのよっ」
「く、くさいですか……?」
んー……やっぱりプール後だから、ほのかに染みつくカルキの香り。
「そういえば、スク水ってどうやっておしっこするの? 横からポロンって?」
「また急に何の話よ。それ出来るのアンタだけでしょ。早く話進めなさい」
「股間部分にチャックあったら楽だろうになぁ、いや、それはそれでいかがわしいな……(ガチャガチャ)ふむ。当然ながら、更衣室の鍵は掛けてあるな」
「?? こ、更衣室に用があるのですか?」
「まぁね。鍵は……そうだ。軍曹、内鍵、イケる?」
コクリ 手の甲に居た軍曹は頷いた後、地面まで降りて行き、扉の下の隙間を通って カチャリ 鍵の開く音。
「おー、凄い。膝丸が居たら頼むつもりだったけど、ノーマルなクモちゃんも中々ヤるもんだね」
「……ほら、入るなら早くしなさい」
「なにイライラしてんの? 情緒不安定な子だねぇ(ガチャ)」
扉を開けると──『別のモノ』がまず目に入ったが、『そんなの』より、今一番興味をそそられたのは『内鍵部分』。
「むむ? 『知らないかわい子ちゃん達』がいるぞ?」
ギチギチ カサカサ シュッシュ
内鍵のサムターンの所には、軍曹の他に【クワガタ 】や【ハチ】や【カマキリ】が、樹液スポットのように集まっていた。
「ふむふむ成る程。軍曹のフレンズ達だね。僕のお願いの為に駆け付けてくれた、と。サムターンも、軍曹一匹じゃ硬いから、協力して回してくれたという事か。よしよしっ」
両手でワシャワシャしてやると、かわい子ちゃん達はクネクネと喜んだ。
「きょ、今日初めて会った子達ともすぐ仲良くなれて羨ましいです……」
「重要なのは愛だよホコウちゃん。よぉし、じゃあ引き続き、僕のお仕事を手伝ってくれよなっ」
「ちょっと、いつまで脱線してんのよ」
構って貰えないから薄縁が拗ねた。
「もうこの子達と触れ合う物語が本筋でいいでしょ」
「いいから早く『こっち』来なさいっ」
これ以上いぢわるすると後が面倒なんで渋々彼女の元に。
「で、この『倒れてる野郎』はなんだろね?」
女子更衣室の中央。
海パン一丁の野郎がだらしなく仰向けに気絶していた。
まるで轢かれたカエルだ。
「どう見ても『窃盗犯』じゃないの。ほら、右手」
野郎の右手。
そこには『黒い布切れ』が。
「ど、どこかで見た気が……?」
「あらやだっ、女物のパンツじゃないのさっ」
「……『アンタが履いてたヤツ』でしょ」
「あらやだっ」
カアアッと顔が熱くなる。
「ま、まぁ黒い下着は存在がエッチぃからね。『誰のでもいい』からと持っていこうとしたのかな。この年頃の男子の性欲は『木の股』でもイケるくらい旺盛だしなぁ」
「き、木の……(赤面)」
「さぁね。狙って盗んだかもでしょ。ロッカー内にはアンタの名前入り私物が入ってんだし」
「その前提で考えると、多くのきゃわわな女生徒や今日転入して来た君ら美少女じゃなく、敢えて僕を選んだってわけだね。自分の可愛さが恐ろしい……」
「全く羨ましくはないけどそのドヤ顔はムカつくわね」
さて。
「真面目な話、この野郎はどうやってここに入ったんだと思う?」
「こ、更衣室にはしっかり鍵が掛けられていました。天井など、他に入り口は無いと思います」
「それは『この子達』に訊いた方が早いでしょ」
薄縁が指差すのはバグズ(虫達)。
「確かに。そもそも、軍曹に渡していた【毒針】でこの野郎はぶっ倒れてたんだった。『怪しいのが来たら刺してね』って頼んで」
僕が虫ちゃん達においでおいですると、ブーンと飛んで来て僕の手の平に着地。
「この野郎はどうやって現れたの?」
虫ちゃん達は顔を見合わせて。
それからすぐワシャワシャと手足を動かし、打ち合わせらしきものを始め──
カシャン! カシャン! カシャン!
なんてSEは無いけれど、三匹の虫ちゃんらは組体操のように縦に重なって虫タワーを作った。
まるでブレーメンの音楽隊。
そして、軍曹が一匹だけ、その横をスッと通り過ぎ──
チラッ チラッ チラッ チラッ
同時に、虫ちゃん達は僕を見る。
どうやら、再現終了のようだ。
「意味、解った?」
「う、うーん……ええっと……」
「成る程。『壁を擦り抜けて入って来た』と」
コクッ×4
「なんで解るのよ。てかどういう正解よ」
薄縁の突っ込みは最もだ。
「か、壁の擦り抜け……ホコウなら体を『種子に戻す』などして体積を少なくすれば、扉の隙間から出入り出来ますが……流石に擦り抜けは無理ですね」
「何言ってんだこの子は。ぅーん、本人に聞いた方が早いかな」
「え!? お、起こすんですか!? (バッ)」
「なんだい胸元を隠して? さっきもだけど、ホント野郎が苦手なんだなぁ。ほい、体に巻くタオル」
「あ、ありがとうございます……(マキマキ)」
さて──
ペチペチと野郎のほおを叩く……も、起きる気配無し。
「うーん。『ベリーの毒』が強過ぎて死んだ?」
「人を犯人みたいに言わないでよ。ほら、その毒針抜きなさい」
「んーと、あ、首のとこか」
スポン 1センチ程の針を引き抜くと、数秒後──
「んん……んぁ……?」
野郎の寝起きシーンとか全く価値ねぇな。
どうせなら美少女の寝起きの喘ぎを聞きたかったぜ。
「起きた? ほら、意識戻ったんなら色々と全部まるっと吐いて貰おうか」
「……す」
「す?」
「スク水美少女達に囲まれてる!? ここは天国か!?」
「望み通り送ったげるわよ」
ピッ!
薄縁が我慢出来ず、野郎の『首を裂いた』。
「あーあ」
バタンッ 再び倒れる野郎。
首筋には1センチほどの引っ掻き傷。
その目に生気は無い。
「し、死んぢゃいました?」
「コノヒトゴロシー」
「残念ながら生きてるから。イラッとさせた相手が悪いのよ」
フッと指先に息を吹きかける薄縁。
その右手の人差し指の爪は、紫色に変色していた。
彼女は、爪先から凡ゆる『毒』を出せる特異体質。
人差し指は『神経毒』。
軍曹に渡していた毒針も、薄縁から抽出した毒を用いている。
少量であるならば、麻酔でも打たれたように気絶するだけで後遺症も無いが……ブチ切れた彼女に大量にブチ込まれたら……まぁ言わずとも察してくれ。
因みに、僕は昔から薄縁にブスブス刺されたり引っ掻かれたりしてるが、少し眠くなるくらいなので、耐性でもあるのだろう。
「あーあ、こりゃ暫く起きないな。大事な事を訊きそびれたじゃないか」
「う、うっさいわねっ、気付けの毒ブチ込めばすぐ起きるでしょっ」
「そんなん立て続けに一般人に使ったら心臓発作で死ねるわ。ま、そこまで急いでないからいいよ」
で、だ。
「け、結局、すり抜けて来た云々は何だったのでしょう?」
「それな。この子達(虫)の話は嘘じゃ無いだろうし」
「さぁ。『超能力』でも使ったんじゃ無い? (投げ槍)」
「超能力! それは夢のある話だねっ」
そんなオカルトめいたモノを認めて良いとなるなら、
学校……悪意……理不尽な事件……ふむ、少し形が見えて来たぞ。
「本気に取らないでよ。第一、アンタ魔法だの精霊だの妖怪だの『そういう非現実』は認めないんでしょ」
「『超能力』は現実的でしょや。秘められた人間の気の力……欲しいもんだねっ」
「ほ、ホコウは『木の精霊』ですよっ?」
「やーん、ホコウちゃんは不思議ちゃんで可愛いなぁ。可愛い顔じゃなかったらビンタしてたよー(ナデナデ)」
「え、えへへ……」
「(チッ)で、この伸びてる奴の処遇は?」
自分でやった癖に、この子は何を苛立ってるんだか。
「このままここに放っておくとどうなると思う?」
「状況証拠で問答無用で豚箱行きでしょうね。男が履いてた女物パンツ窃盗未遂とかいう頭のおかしな捜査記録になるけど」
「そ、そもそも、この方はここの生徒さんです? 若いし、学校指定の水着姿ですし……」
「かもねー。と、なると、学校は大騒ぎだ」
僕は顎に手を添え、一考し、
「警察は勘弁してやろう。学校にも報告はしない。寛容だろぉ?」
「はぁ? アタシがスッキリしないんだけど? 『何もお咎め無し』ってのは筋が通らないわ。『そういう世界』で生きる者としてね。その上アンタに手を出したんだから尚更よ。カアラ様に申し分が立たない」
「証拠、ってんなら現状少し弱いでしょ。過去、警察は似た事件の時でも解決出来なかったから弱腰だろうし」
「本人に吐かせりゃ一発よ。そういう『脅し』は得意なの知ってるでしょ」
「大抵廃人にしちゃうでしょや。ベリーなそんな繊細な拷問は無理」
「……だからって」
「ま、流石にお咎め無し、は無いよ。そこまで甘くしちゃあ、調子に乗って別の被害者が出すかもだし」
「……ぐ、具体的に、どんな罰を?」
「そうさなぁ」
僕らは妥協点を話し合う。
すると、ホコウちゃんがオドオドした性格とは裏腹に割とエグい罰を提案。
僕と薄縁は『まぁいいんじゃない?』と頷いた。
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