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「(目線を合わせて)ねぇお嬢ちゃん。さっきまでここにいたデッカイムカデ知らない?」
「むー! それは我ぢゃ!」
「んー、なるほど」
そういう『設定』か。
多分、この子は奥の神社管理者の娘(若しくは孫)さんか何かだろう。
てかあのババア、僕を美少女で釣りやがって……可愛くても流石に幼女はノータッチじゃい。
「こやつ、露ほども信じとらんな? 絡新というあの環境で生まれて、何故こう育つのか……」
「(コクコク)」
「おめーはなに同意したように頷いてんだ膝丸ぅ。──まぁオオムカデの件はおいといて。ええっと、君は……」
「毘沙(びしゃ)、じゃ」
「じゃ、毘沙ちゃん。誰かに聞かされてるかな? 僕がここに寄越された理由」
本題。
おばぁの真意。
「さぁてな。じゃが。我がカアラに頼もうとしていた話、ならばある」
「それそれ。おせーて」
「……まぁ、奴の孫であるならば良いか」
ゴロゴロゴロ── 不意に、本殿の下からバランスボールのような何かが転がって来たかと思えば、それは毘沙ちゃんの真後ろで止まる。
「どっこらしょ」
彼女が胡座で腰かけたのは、巨大な【ダンゴムシ】。
「いーなー。ここはデカい虫いっぱいでいいねっ」
「ならば特別にヌシにも何か寄越そうか」
「んー……(本殿の下を遠目で見て)じゃ、あの子っ」
指差すと、ウネウネ下から這い寄って来たリクエストの子。
デカくて茶色い毛布みたいな【毛虫】。
「よいしょ(ポフンッ)わぁフカフカやぁ(ゴロン)指名料払ってもいい価値あるよぉ(ゴロゴロ)」
「……! ……! (ペシペシッ)」
「んー? どしたの膝丸。モフモフ浮気だってー? もー、君とは違うタイプのモフモフだから浮気じゃないよー」
「……それは猛毒を持つネコ毛虫(プス・キャタピラー)なんじゃが……まぁ、絡新にはクッションと変わらんよな」
「でー、話はー? (ダラダラ)」
「コイツ、寝転んだまま……まぁよい。──我が『ソレ』の気配を感じたのは、ひと月前の事」
毘沙ちゃんは、キリッと真面目な顔付きになって、
「話、というのは、『この町に迫る危機』についてじゃ」
「危機?」
最近越して来たんで詳しくは無いが、普通の町、って感覚しか無い。
「我はこの町を護る神じゃからのう。迫り来る悪意には敏感なんじゃ」
「神様ねぇ。因みに、どんな危機が迫って?」
「これ、とハッキリ言える危機ではない。『悪意』は特定の形を持たず、様々形を変えてこの町を侵食しようとしている。最初は一人の被害でも、それはねずみ算のように徐々に、そして瞬く間に広がるであろう。放っておけば、この町だけに留まらぬ」
「フワッとしてんなぁ説明が。毘沙ちゃんは、その解決をおばぁに頼もうとしたの?」
頷く毘沙ちゃん。
なのに僕が来てガッカリしただろう。
「因みにそれは、毘沙ちゃん自身じゃ解決出来ないの? 神様()なのに」
「……言うてくれる。我とて『力のあった頃』ならば指先一つで危機など払えたわ。寧ろ弱まったから容易に侵入を許した、ともいえるが……昔の世と違い、周囲の我に対する信仰の思いも減った。信ずる者無き神など、霞のように儚いモノじゃ」
「なら、またここを人で一杯にする方向に動こうか? そしたら、わざわざ人に頼まなくても、力を取り戻した毘沙ちゃんが全ての問題をさ」
「それはいいや」
「いいのか……」
あまりにフランクな回答に、僕はびっくりした。
「今更力を取り戻してものぅ。他の者に頼んだ方が楽じゃし」
「うーん、気が合う意見だけど、いざ自分に厄介が降り掛かると途端ムカつくなぁ」
「──というわけで、頼んだぞ、絡新のヌシよ。仕事の詳細は判明し次第、遣いの者を寄越す。町を脅かす魔を払ってくれ」
話が終わったようなので、僕らはお暇する事に。
「む? どこに向かう気じゃ? 其方は崖じゃぞ?」
「真面目に歩いて帰るのも面倒いし」
「……まさか?」
僕は膝丸を持って天に掲げ……ピョン!
飛び降りた。
──と、同時に糸を吐く膝丸。
糸は傘のような形になって フワリ 風を捉えた。
『バルーニング』
蜘蛛の幼体や一部の成体が使う、糸を使った飛行手段。
風や、空中の電場を利用して飛んでいるらしいが、詳しい事はよう分からん。
「無茶をするのぅ。別に、甲虫や蛾などの空を飛ぶ虫を貸しても良かったのに」
「え! 何それ乗ってみたい! 膝丸戻っ……ちょ、行っちゃやあああぁぁ……」
別の虫に浮気すると思われたのか、僕の声など無視して落ちるような速さで飛行を続ける膝丸。
「では頼んだぞー!」
毘沙ちゃんの声が、遠く離れて行った。
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