コタツでアイスクリーム食べる感覚で

烏川 ハル

第1話

   

玲子れいこ絹恵きぬえも、今週末は予定ないよね? みんなでハイキングに行こう!」

 と忠代ただよが言い出したのは、昼休みの出来事だった。

 教室の机を合わせて弁当を食べている最中さいちゅうであり、「みんな」がこの場の三人を示しているのは明らかだ。忠代が突拍子もない提案をして玲子と絹恵を引っ張っていくのも、よくある話だった。

 それでも玲子は、眉間にしわを寄せて聞き返す。

「ハイキング? こんな時期に?」

 既に冬真っ盛りの12月だ。少し前ならば紅葉シーズンかもしれないが、もはや外で遊ぶには寒すぎる季節だった。

 しかし忠代は、ケロッとした顔で頷く。

「うん、ハイキング。バスで1時間半くらいのところにね、面白い心霊スポットがあるんだって!」

「ただちゃん、それ、ハイキングじゃなくて肝試し……」

「それこそ『こんな時期に』じゃないの。そういうのは夏のイベントでしょう?」

 絹恵がボソッと呟くのに続いて、玲子もハッキリと告げるが、忠代は意に介さなかった。

「玲子がいるから大丈夫! コタツでアイスクリーム食べる、みたいな感覚で行きましょう!」

「どういう意味よ、それ……」

「あっ!」

 玲子の言葉を聞き流し、忠代は叫びながら立ち上がる。

「アイスクリームの話をしたら、食べたくなっちゃった! 私、ちょっと買ってくる!」

「お昼休み、あと10分しかないよ……」

 絹恵の忠告を無視して、教室を飛び出していく忠代。

 玲子はマイペースな彼女に少し呆れながら、何やら言いたそうな絹恵に目を向けた。

「何かな?」

「えーっと……。コタツの暖かさでアイスクリームの冷たさに逆らいながら食べるのと同じでね、れいちゃんの能力があれば心霊スポットも怖くない。そう言いたかったんだよ、ただちゃんは」

 先ほどの「どういう意味よ」に対して、忠代に代わって答えてくれたようだ。

 玲子にしてみれば、あれは質問ではなくツッコミのようなもの。あんな言い方はしたけれど、何となく意味は理解できていた。

 それを今さら律儀に説明しようとするのは、いかにも絹恵らしい態度だ。苦笑いする玲子の前で、絹恵はさらに言葉を続けていた。

「ほら、れいちゃんは除霊ハンターだからさ。ただちゃん、れいちゃんを頼りにしてるんだよ」

「そんな大層なもんじゃないよ、私は。それに……」

 軽く手を振りながら、玲子は否定する。

「……前にも言ったけど、その『除霊ハンター』って言い方。『馬から落ちて落馬する』みたいに、変だからね?」

   

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