Twitterian Wonderland
星野 驟雨
おわりはじまり、はじまりおわり
おかしな夢を見た。
異形の怪物、一言で言えばキメラに追い掛け回される夢。
目覚めた今でも鮮明に思い出せる。
古びれた遊園地の中に俺とソイツは立ってた。ソイツは一見するとローブを身に着けた人間なのだが、こちらを認めるや否やニタリと笑って、獣のように身体をかがめたんだ。異常な様相に身構えていると、そのまま首がコキリこきりと傾き始め、真横に倒れたところで弾かれるようにして元の位置に戻った。この時点で俺は逃げる為に後ずさったが、その化け物はそんな俺の反応を愉しむかのようにしてローブを膨らませてみせた。
これは比喩じゃない。本当にローブが膨らんだんだ。何かに持ち上げられるようにして。そのまま暫くすると、その真実が見えてきた。
ソイツには無数の腕と脚が生えていたんだ。蜘蛛を想像してもらえば良い。あるいは千手観音か。いや、どちらでもいい。ともかく異形だったんだ。そして、目を逸らせずに見てしまった。
ソイツの身体に生えてる腕と脚は、全部が違う人間のものだったんだ。
それを見てから俺は本気で走って逃げた。遊園地中を駆けまわって、息も絶え絶えになりながら全力で逃げた。逃げて、逃げて、逃げまくった先に、ようやく『遊園地の出口』を見つけた。そして、そこがダメならもうお終いだと思いながら飛び込んだ。結果、そうした瞬間に目が覚めて今に至る。
それにしてもおかしな夢だった。明晰夢といえばそうだが、なんだかそれよりももっと深刻な気がする。今までだって何度か拷問される夢や殺される夢を見たことはあったが、所詮それは夢でしかなくて、どれだけ現実感があったとしても直ぐに殆どを忘れてしまう程度だった。だが、今回のは”初めから終わりまですべてを覚えている”。それがなんだか引っかかっている。
特に気になるのはあの化け物だ。
怪談なんかで聞くような化け物や異形は想像上の恐怖でしかない。他人にとっての現実を言葉という媒体を介して空想する行為でしかない。だが、アレは違った。どこまでも立体的で、造形も細かくて、歪で。
何かの間違いだろうと思い込むことも難しいような、圧倒的な現実感。
今こうしてベッドの上で寝そべって天井を眺めている俺には関係ないことのはずなのに、どうも拭いきれない不安がある。それに向き合えるほど自分の中での整理もついているわけでもなく、かといって何をするでもなく手持無沙汰なままというのも落ち着かず、スマホの電源をつける。
日付は2021年11月30日。時刻は8時56分。完全に遅刻だった。
なんともツイていない日だと溜息を零し、気怠い身体を起こす。どうせ遅刻なんだし、授業の3分の2さえ出席すればいいのだからと考えながら慣れた手つきで準備を始める。シャワーを浴びるのは正直言って怖かったから、部屋の中で乾かしてある服を適当に着込み、お気に入りの外套を羽織って玄関へと向かう。
先週買ったティンバーランドの靴を履いて、ドアノブに手をかける。外は良い陽気なのだろうし、多少は気も紛れるだろう。なに、今日は帰ってきたら楽しい動画でも見ようじゃないか。アマプラなんかが良いだろ。
そんなことを考えながら扉を開いた。
が、すぐ後悔することになった。
――なんで、空が紫色で、目の前にあの化け物がいるんだろうな。
逃げることもできず、俺の意識はそこで潰えた。
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