第35話 ノア様と共に未来に向かって
ポセイドン様に真実の鏡を返してから、1ヶ月が経った。この1ヶ月、毎日の様に王都の海に行っては、キキやリンリン、オクトたちと泳いでる。もちろんノア様も一緒だ。たまに王妃様も付いて来る。
それにしても王妃様は本当に泳ぎが上手く、言葉が分からないものの、いつの間にかキキやリンリン達とも仲良くなっていた。そんな王妃様を岸から心配そうに見つめる陛下。陛下はどうやら泳げないらしい。
「ステファニーちゃんの力があれば、私も皆と話しが出来るのに…」
そう言って寂しそうな顔をする王妃様を見たら、つい少しぐらいならいいのでは。と思ってしまうが、すかさずノア様に
「絶対に母上に口付けをしては駄目だからね」
そう釘を刺されるのだ。今日も3人で海を泳いだ後、岸へと上がった。すかさず王妃様の側へと駆け寄る陛下。陛下と王妃様を見ていると、なんだか自分とノア様を見ている様で、少し複雑な気持ちになる。
そう、陛下とノア様は本当に性格もしぐさもそっくりなのだ。さすが親子ね…
4人で王宮に戻ると、陛下とノア様の執事やお父様が待っていた。
「陛下、それに殿下も。一体どこに行っていらしたのですか?今日は1年後に迫ったノア殿下の国王就任式と結婚式の打ち合わせを行う事になっていたでしょう。それからステファニー、なんだその格好は。お前は仮にも次期王妃になるんだ。それなのに、そんな薄着でウロウロとするとは」
相変わらず顔を真っ赤にして怒るお父様。そんなお父様を見て、王妃様が
「本当にステファニーちゃんの言った通り、エディソン公爵はタコのオクトにそっくりね」
そう言ってくすくすと笑っている。ちょっと王妃様、火に油を注ぐようなことを言わないで。案の定
「ステファニー、お前は王妃様に何を吹き込んでいるんだ。誰がタコだ!」
そう言ってさらに真っ赤な顔をして怒っている。
「お父様、ご自分の顔を鏡で見てみてはいかがですか?本当にタコみたいに真っ赤ですよ。それでは私は着替えて参りますので」
これ以上お父様の小言は聞きたくない。そんな思いから、さっさと自室へと戻る。ふと周りを見ると、皆お父様の顔が面白いのか、必死に笑いを堪えていた。
先日、正式に私とノア様は婚約を結んだ。そして1年後、私とノア様は結婚する。そのタイミングに合わせて、王位も陛下からノア様に移る事も正式に決まっている。
そう、1年後には私は王妃様になるのだ。と言っても、まだ1年も先の話しだ。正直まだ実感が沸かない。それでも1年後には、ノア様と家族になれる。そう思ったら、嬉しくてたまらない。それまでに、しっかり王妃教育を終わらせないとね。
~1年後~
「ステファニー様、そろそろ王宮にお戻りください。殿下にバレたら大変ですよ」
岸から私を呼ぶのは、私の専属メイドのエリーだ。
「エリー、もう少しだけ」
再び海に潜ると
“ステファニー、今日はあなたとノアの結婚式でしょう?まだ泳いでいていいの?”
心配そうな顔で聞いてきたのはキキだ。
「ええ、まだ大丈夫なはずよ。その為にノア様に内緒で朝早くに海に来ているのですもの」
そう、今日は私とノア様の結婚式だ。実はここ1ヶ月、ノア様が猛烈に忙しい為、ノア様に内緒でこっそり早朝に泳ぎに来ているのだ。最初は怒っていたセアラも今はもう諦めている。もちろん護衛騎士たちも諦めモードだ。
しばらく海を泳いだ後、岸に戻る事にした。
「それじゃあキキ、私はそろそろ行くわね」
“ええ、今日は頑張ってね。ノアにもよろしく伝えて”
「ありがとう、それじゃあまたね」
急いで岸に上がる。
「エリー、お待たせ、急いで帰らないとね」
あら?いつもならすぐにタオルを持って来てくれるエリーなのに。一体どうしたのかしら?ゆっくり顔を上げると、そこにいたのは…
「お帰りステファニー、海は楽しかったかい?」
腕を組んで仁王立ちしているノア様と目が合った。後ろには申し訳なさそうな顔のエリーとセアラの姿も。これはまずいわね…
「えっと…おはようございます、ノア様。今日は随分といい天気ですわよ。ほら、雲一つない青空が広がっていますわ」
何とか海に行った事を誤魔化そうとした。でも、もちろん誤魔化せれる訳はない。
「そうだね、今日は僕達の結婚式だからね。君が1ヶ月前から僕に内緒で海に行っていた事は知っていたよ。僕も忙しくて海に連れて行ってあげられていなかったら、多めに見ていたんだ。でも、まさか今日という特別な日にまで海に行くなんてね」
呆れ顔のノア様。
「ノア様、私にとって海は、一番落ち着ける場所なのです。今日という特別な日に海に行かなくてどうするのですか?」
そうよ、今日は私とノア様にとって大切な日。だから、尚更海に行きたかったのだ。
「は~、本当にステファニーは海が大好きなんだね。まあ、君らしいと言えば君らしいけれど…」
ノア様がため息を付く。その時だった。
“ステファニー、待って。渡したいものがあるのだったわ。あら、ノアもいるじゃない。良かったわ”
海面から顔を出したのは、キキやリンリン、オクト、さらに海の仲間たちだ。その瞬間、私に口付けをするノア様。
「皆、どうしたんだい?急に海面から顔を出して」
“ノア、ステファニー、結婚おめでとう。これ、私達からのお祝いよ”
そう言うと、私とノア様に貝殻で作った可愛らしいネックレスをくれた。さらに、キキ率いるイルカたちが、華麗なジャンプを披露。他にも魚たちが、ハートのマークを海面に作ってくれた。
「ありがとう、皆。まさか海の皆から、こんな素敵な祝福を受けられるなんて思っていなかったわ」
「本当だね。皆、ありがとう。君たちが末永く幸せに暮らせる様、ステファニーと一緒に海を守っていくよ」
“どういたしまして。きっとノアとステファニーなら、ずっとずっと美しい海を守って行ってくれると思うわ”
「それじゃあ、そろそろ行こうか、ステファニー」
「はい、ノア様」
差し出された手をしっかり握り、馬車へと乗り込む。しっかり握られた2人の手は、これからも決して離れる事はないだろう。
おしまい
~あとがき~
これにて完結です。
今回海の話が書きたくて書いてみました。
最後までお読みいただき、ありがとうございましたm(__)m
孤独な王子の世話を焼いていたら、いつの間にか溺愛されていました @karamimi
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