第22話 ポセイドン様に会いに行きます

そっと部屋を抜け出し、屋敷の外に出る。その時だった。


「ステファニー、僕を置いてどこに行くんだい?」


この声は…

恐る恐る後ろを向くと、そこには怖い顔をしたノア様が…


「あの…ノア様、ちょっと街を散策に行こうかと…」


「へ~、海に入る時用のワンピースを着てかい?」


「えっと…これは…」


視線をそらし、今にも雨が降りそうな空を眺める。どうしよう…


「君が考えている事はお見通しだ。海に入り、ポセイドンに会いに行くつもりなんだろう?僕ももちろん付いて行くよ!」


「駄目です!危険です。それにノア様は怪我をしているのですよ。ここは私1人で…ンン…」


行きます!と言いかけたところで、唇を塞がれた。そしてそのまま唇の中に舌が入って来た。ちょっと、キャパオーバーよ!そんな思いを込めて、ノア様の背中をバシバシ叩く。


解放された頃には、その場に座り込んでしまった。そんな私を抱きかかえ、海の方に向かって走り出したノア様。道行く人がこちらを見ている。王都はとにかく人が多いのだ。


「ノア様、自分で歩けます。恥ずかしいから降ろしてください」


「駄目だ、僕に内緒で1人で行こうとした罰だよ。とにかく、海に着くまでは絶対に降ろさないからね」


そう言って頬に口付けをした。その瞬間


「若いっていいわね~」


「よっ、ラブラブカップル」


等の言葉が飛び交う。止めて…お願い…恥ずかしい…


恥ずかしすぎて、ノア様の胸に自分の顔を埋めた。そうしている間に海に何とか着いた。


「ステファニー、海に着いたよ」


そう言うと、やっと降ろしてもらえた。相変わらず私の顔は真っ赤だ。て、顔を赤くしている場合ではないわ。気を引き締めて行かないと。


それにしても、汚水が流れてきているせいか、表面はヘドロで汚れている。それに、変な臭いもするわ。こんな海に入るなんて、かなり勇気がいるわね。でも、今はそんな事を言っている場合ではない。


「ノア様、ポセイドン様は海底の神殿にいらっしゃるはずです。早速参りましょう」


意を決して海の中に入る。やはりヘドロが髪や顔にくっ付いて気持ち悪い。


「ステファニーの可愛い顔や美しい髪にヘドロが!クソ、あの工場、何とかしないと!」


そう言って私の髪と顔を拭いてくれたノア様。私もノア様についたヘドロを取り除いた。気を取り直し、海の底へと向かう。


それにしても、本当に海の生き物がいない。こんな不気味な海は初めてだ…本当にこんな海に、ポセイドン様はいるのかしら?そんな不安を抱きながら、どんどん海の底へと潜っていく。


そう言えば、領地の海でもこんな底まで来た事はなかった。それに海の底に向かうにつれて、どんどん暗くなってきた。


「ステファニー、これ以上行くのは危険だ。暗くて何も見えない。一旦陸に上がろう」


確かにこれ以上進むのは危険だ。でもこのまま諦めるなんて…その時だった。胸にぶら下がっていた真珠が、急に光だしたのだ。さらに1筋の光となり、海を照らしている。


さらに、どこからともなく声が聞こえる。


“ポセイドン様はこっちよ。さあ、早く行きなさい”


聞いた事のない女性の声。この声は一体誰かしら?不思議に思い、真珠を見つめる。すると、光の先に私にそっくりの人魚が…でも、透けている。これは幻なのかしら?


「ノア様、光の先に人魚が見えます…」


「ああ、僕にも見えるよ。ステファニーにそっくりな人魚が…」


固まる私たちに


“何をボーっとしているのです。早く行きなさい”


そう叫んだ人魚。もしかして、私のご先祖様の人魚かしら?きっとそうだわ。なんだかそんな気がした。


「ありがとうございます。行って来ます」


そう声を掛け、光の指す方へと向かって泳ぐ。いつの間にか、ノア様の手をしっかり握っていた。海の底は何が起きるか分からない。とにかく、この手を離してはいけない。そんな気がしたのだ。


と、次の瞬間、急に大きな渦巻が現れたのだ。どんどん周りの水たちを飲みこんでいく。必死に泳ぐが、もちろん私たちも飲み込まれてしまった。


「ステファニー!」


「ノア様!キャァァァァァ」




♢♢♢

手から伝わる温もり…この温もりは…


ゆっくり目を開けると、隣でノア様が倒れていた。それでも、手だけはしっかり握られている。


「ノア様、大丈夫ですか?ノア様」


ノア様を揺すると


「う~ん…」


ゆっくり目を開けた。よかったわ!


「ここは…まさか、ポセイドン…」


目を大きく見開き、ポツリと呟いたノア様。ノア様の視線の先に目をやると、そこには私たちの20倍はあろうかと言うくらい、大きな人魚の男性がいた。金髪の髪に金髪の髭、さらに王冠を被っている。間違いない、きっとこの人が、ポセイドン様なのだろう。


その迫力に、正直ひるんでしまいそうになる。でも、ここで逃げる訳にはいかない!気を引き締めないと!

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