第8話 難破船で小さな箱を見つけました
“ステファニー、何をしているの。早くいらっしゃいよ。あなたにも難破船を見せるのは初めてよね”
向こうの方で叫んでいるキキ。そう言えば、難破船があるなんて初めて聞いたわ。なんだか私も気になって来た。急いで皆について行く。
“ここよ、結構大きな船でしょう?”
確かにこれは船ね。でも、随分昔の物の様で、船のあちこちに海藻が付いている。早速中に入ってみる。
あちこち浸食していて、なんだか気味が悪いわ。これのどこが素敵な場所なのかしら…怖くてキキにしがみつく。
“ステファニー、もしかして怖いの?”
そう言ってクスクス笑っているキキ。もう、そんなに大きな声で言わないでよ。殿下に聞かれるじゃない!そして案の定
「へぇ~、ステファニー嬢でも怖いとか言う感情があるのだね。驚いたな。怖いならこっちにおいでよ。リンリン、ステファニー嬢も一緒に乗せてもいいかな?」
“もちろんよ、ステファニーも私の背中に乗っていいわよ”
「別に怖がっている訳ではないわ。だからだいじょう…キャ」
断ろうと思ったのだが、そのまま殿下に腕を掴まれ、リンリンの背中に乗せられてしまった。そしてなぜか殿下の前に座らされる。ちょっと!距離が…距離が近いわ…
「ちょっと殿下、あまり近づかないで下さい!」
「どうしてだい?怖いのだろう?」
そう言ってクスクス笑っている。何なのよ、この男!また私をからかっているのね!やっぱり文句を言わないと気が済まないわ!そう思ったのだが
“2人共私の背中でじゃれあわないで。それよりこの箱、何だと思う?”
「別にじゃれ合っていなわよ!」
リンリンったら、何て事を言うのよ。顔を真っ赤にして抗議をする私をよそに
「へぇ~、随分古びた箱だね。でも、鍵が掛かっている様だ」
箱を手に取り、観察している殿下。ちょっと、私1人アタフタして、バカみたいじゃない!もう、勝手にして!プイっとそっぽを向いた。
“そう言えば、この引き出しに鍵の様な物が入っていたわ。ステファニー、そんなところで拗ねていないで、この鍵を取ってくれる?”
そう言うと、器用に引き出しを口で開けたキキ。
そもそも、誰が拗ねているですって!もう、キキまで殿下の失礼っぷりが移っちゃったのかしら?本当に嫌になるわ!
動かない私を見て
「僕がとって来るよ」
そう言ってキキの元まで泳いで行く殿下。て、泳げるの?華麗な泳ぎを見て、皆目を丸くしている。
“ノアは泳げるんだね”
“本当だ、それもあんなに上手に”
他の皆も同じ事を思ったのか、殿下の泳ぎを褒めている。
「ありがとう、それよりも、少し息苦しくなってきた。多分、口付けの効果が切れかかっているみたいだ。ステファニー嬢、もう一度口付けを…」
「絶対にしません!早く海上に出ましょう」
リンリンの背中から降り、急いで海上を目指す。全く、私の唇を何だと思っているのかしら?そもそも、殿下は口付けに抵抗がないのかしら?全く理解できないわ。
一足先に海から顔を出す。すると、リンリンの背中に乗った殿下を始め、キキやオクトも上がって来た。
“ねえノア、その箱を開けてみて”
「そうだね、早速開けてみよう」
殿下が鍵を入れ、開けようとするが…
「あれ、開かない。クソ!」
中々開かない様で、かなり苦労していた。悪戦苦闘しながらも、やっとの思いで鍵を開けた殿下。中に入っていたのは…
「これは何だろう。でも、とても奇麗だね」
中には今までに見た事も無いほど、大きな真珠のネックレスが入っていた。
「殿下、これは真珠だと思います。それにしても、大きいですね。こんな大きな真珠は初めて見ました。それもこの真珠、光の加減で七色に輝いている。本当に不思議ですわ」
“本当ね、私も初めて見たわ。それ、ステファニーとノアにあげる。だって、私たちが持っていても仕方がないもの”
そう言ったのはキキだ。
「えっ、いいの?こんな高価そうなもの」
“ええ、もちろんよ”
こんな高価な物、頂いてもいいのかしら?そう思っていると
「ねえ、なんて言っているんだい?もう僕には皆の話している言葉がわからないんだ」
効果が切れてしまった殿下が、リンリンの背中の上で騒いでいる。
「キキがこの真珠を私たちにくれると言っているのです。でも、かなり高価そうなものだから…」
「せっかくくれると言っているのだから、素直に貰っておこう。僕はアクセサリーには興味がないから、君にあげるよ」
そう言うと、私の首に真珠のネックレスを掛けてくれた。殿下もそう言っているし、ここは有り難くもらっておこう。
「ありがとうございます、殿下。それから皆もありがとう。大切にするわね。それにしても、随分沖合まで来てしまった様ね。そろそろお昼ご飯の時間だわ。一旦戻りましょう」
箱の中身も確認できたし、きっとエリーや護衛騎士たちも私たちの事を探している頃だろう。とにかく早く戻らないと!そう思い、急いで岸を目指す。やはり予想通り、心配そうな顔のエリーと護衛騎士たちが待っていた。
「それじゃあ皆、また後でね」
「リンリン、背中に乗せてくれてありがとう。キキやオクトもありがとう。また案内してくれるかな?」
“こっちこそ楽しかったわ。ノアもまた後でね”
「えっと…なんて言ったのかな?」
「“こっちこそ楽しかった、また後でね”とリンリンが言っていますわ」
困った顔をしている殿下の為に、通訳する。
「ステファニー嬢、通訳してくれてありがとう。それじゃあ、また後でね」
リンリン達と一旦別れ、屋敷に戻り昼食を食べる。ここでも
「ステファニー嬢、毒見をしてくれ」
当たり前の様に私に毒見をさせる殿下。でも、なぜかフォークを拭く事はなく、そのまま私が使ったもので食べている。
「あれだけ入念にフォークを拭いていらしたのに、拭かなくてよろしいのですか?」
気になって聞いてみると
「ああ、君とは口付けをした仲だからね。そんな小さな事、もう気にならないよ」
大きな声ではっきりと告げた殿下。ちょっと、そんな事を言ったら皆が誤解するじゃない!
案の定
「お嬢様、殿下と口付けとは、一体どういう事ですか?」
凄い勢いで詰め寄って来るエリー。他の使用人や護衛騎士たちも、こちらを見ている。
「いや…違うの…あれは不可抗力で…ちょっと殿下、あなたからもきちんと説明して下さい」
アタフタする私をよそに、さっさと食事を済ませ
「僕は事実を言ったまでだよ。ごちそうさま。今日の料理も、とても美味しかったよ。それじゃあ僕は一旦部屋に戻るから、ステファニー嬢、また後でね」
そう言って去って行った殿下。ちょっと!私1人残さないでよ!
結局その後、1人残されたステファニーは、使用人たちに状況を説明する事になったのであった。
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