第6話 海を案内します

早速2人で屋敷の外に出て海を目指す。と言っても、屋敷のすぐそばが海なので、目指すほどでもないのだが…


「殿下、あれが海ですよ」


海の方を指さし、殿下に教えた。


「うん、王都にも海があるからね。見れば分かるよ」


とう言ってスタスタ歩いている。何なのよ、こいつ!感じ悪いわね。て、駄目よ、怒ったら。穏やかによ、そう、穏やかに。


何度も自分に言い聞かせた。そうしている間に、あっという間に海に着いた。海風が頬を撫で、波の音だけが聞こえる。相変わらず静かな海だ。


「王都の海とは違って、とても静かなんだね」


ポツリと呟いた殿下。


「そうでしょう。とても静かで穏やかで、だから私はこの海を気に入っていますの。王都の海は、人や船でごった返していて落ち着きませんわ。そうだ、早速殿下に私のお友達を紹介しますね。こちらに来て下さい」


殿下と一緒に、岩場の方へと向かう。


「少しお待ちください」


そのまま海に飛び込んだ。


「おい、ステファニー嬢」


後ろから殿下の叫び声が聞こえるが、とりあえず今はキキを呼んでこないとね。


「キキ、どこにいるの?私よ、ステファニーよ」


キキの名前を呼ぶと


“ステファニー、おはよう”

“おはよう、ステファニー”


やって来たのはキキ、さらに子クジラのリンリン、他にもたくさんの海の生き物たちがいた。


“ごめんね、王子の話をしたら、皆が見たいと言いだして。それで王子様はどこ?”


「海の上よ。殿下は生粋の人間だからね。私みたいに海の中で呼吸が出来ないのよ」


“そうだったわね。ごめんなさい、忘れていたわ”


「それじゃあ皆、付いて来て」


皆に声を掛けつつ、急いで陸に上がる。


「うわ、びっくりした。君、随分長い事海の中で呼吸せずにいられるんだね。このまま上がってこないんじゃないかと思って、びっくりしたよ」


地上で待っていた殿下が、かなり興奮気味に話しかけて来た。


「私は人魚の末裔なので、海の中でも呼吸が出来ますわ。それから、私のお友達達を紹介いたしますね」


次々と海面から顔を出す海の仲間たち。


“初めまして、私はキキよ。あなたが王子様なのね。あら、結構可愛らしい顔をしているじゃない”


“僕はもっと凛々しい姿を想像していたんだけれどな…でも、君に会えて嬉しいよ。僕はオクト。よろしくね”


“私はリンリンよ。よかったら背中に乗せてあげるわ”


次々と自己紹介をしていくが、なぜか固まっている殿下。そうか!生粋の人間でもある殿下は、この子達の言葉が分からないんだった。


「皆、殿下は生粋の人間だから、あなた達の言葉が分からないのよ。殿下、イルカがキキ、あなたに会いたいと言った張本人です。クジラがリンリン、背中に乗せてあげると言っていますわ。それからこちらが、昨日のお父様によく似ている…じゃなくてタコのオクトです。他にも皆私の友達です」


「へ~、君は海の生き物とも話が出来るのか。凄いな。僕はノア・バハル・マール。よろしくお願いします」


皆に律儀に挨拶をした殿下。私にはこんなに律儀に挨拶してくれなかった気がするが…まあ、いいか。


“せっかくだから、王子様を海に案内したいわ。早速私の背中に乗ってもらって”


クジラのリンリンが、殿下が乗りやすい様にギリギリまで寄ってきてくれた。


「殿下、リンリンの背中にお乗りください。一緒に海に出掛けましょう」


「えっ、このクジラが乗せてくれるのかい?」


「リンリンですわ。さあ、どうぞ」


恐る恐るリンリンの背中に乗り込む殿下。早速出発だ!海の上を泳ぐリンリンに、キキや私、さらに海の動物たちも付いて来る。


「殿下、海の中を見て下さい。あそこに魚の群れがいますわ。あそこにはイソギンチャクもいますよ。あれは珊瑚ですね」


「本当だ、船の上からだとあまり見えないけれど、こうやってクジラの上からだと良く見えるんだね」


「海の中は海面から見るよりも、ずっと奇麗なのですよ。殿下にも見せてあげたいくらい」


ついポツリと呟いてしまった。それを聞いたリンリンが


“それなら任せて”


そう言って、あろう事か殿下を乗せたまま海の中に潜ってしまったのだ。急に海の中に引きずり込まれた殿下。


「ちょっとリンリン、何て事をするのよ。すぐに地上に…」


そう言いかけた時、殿下がリンリンの背中から落ちてしまったのだ。どうしよう、このままだと殿下が…

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