第31話 馬車の中
「見つからなかったでしょうね?」
「大丈夫です。あの塔は人が近寄ることはめったにないそうです。」
「ええ、大丈夫ですわ。私たちも普段は入ることができない場所ですから。
一緒にいた女官も閉じ込めてきましたし、しばらくは見つからないでしょう。」
「ならいいわ。」
一緒にいた女官を閉じ込めてきた?サージャさんを閉じ込めたの?
どうしよう。サージャさんは無事なんだろうか。
それにしても、この女性の声、聞いたことがある…どこで?
貴族の女性に知り合いなんて…あぁ、そうだ。
公爵家のリリアン様だ。どうして?
「ねぇ、どのくらいで意識が戻るの?」
「それほど強い薬じゃないそうですから、
着く頃には目を覚ましてもおかしくないですね。」
「そう、わかったわ。」
強い薬じゃないそうだから。
この文官に薬を渡したのはここにいる人の中にいない?
他にも協力者がいるってこと?
着く頃って、この馬車はどこに向かっているんだろう。
もっと会話から情報を知りたかったが、その後は誰も話すことは無かった。
しばらく走ると街の中に入ったらしく、
石畳に合わせて馬車がガタゴト揺れ始めた。
街の中に用があるのだろうか?それから少しして馬車は止まった。
「起きなさい。」
そう言われて肩を揺さぶられ、目を開けることにした。
目の前にいたのはやはり公爵家のリリアン様で、こちらを睨んでいた。
夜会の時よりおとなしめの緑色のドレスを着ているリリアン様は少し幼く見えた。
年齢は聞かなかったが、もしかして私より年下なのだろうか?
確かノエルさんの9歳下って聞いたような気がする。
あ、私ノエルさんの年齢を知らなかった…。
「まだ寝ぼけてるの?状況がわかってないの?」
イライラしたように話すリリアンさんに、私が返事をしないからだと気が付く。
でも、何を言えばいいんだろう?
「えーと、リリアン様ですよね?どうしてここに?」
「馬鹿なの?さらわれてきたのを理解してないの?」
あぁ、さらわれてきたって言っちゃった。
今なら関係ないって言えたはずなのに、リリアン様…。
もうあきらめて聞こう。
「私をさらうように指示したのはリリアン様ですか?」
「…何よ、急に。そうよ、私だけじゃないけど。」
「リリアン様だけじゃない?」
「あなた、他にも恨みを買ってるようね。協力を申し出てくれた貴族がいたのよ。」
「どなたでしょうか?」
「そんなのはどうでもいいことだわ。いい?
あなたは薬屋に戻って、そのまま平民として生きればいいの。
もう王宮には戻ってこないで。わかったわね?」
「…この馬車の外は街で、私の薬屋の近くってことですか?」
「そうよ。
ノエル兄様にはあなたが貴族の生活にあきて店に戻ったって言っておくわ。
もう兄様に関わらないで。私たちの邪魔をしないでちょうだい。」
そんなわけにはいなかいのだけど、とりあえず降りよう。
手足を拘束されているわけではないし、これ以上会話することもない。
無言で馬車を降りると、私だけを降ろして馬車は王宮に戻って行った。
降りた馬車は私の薬屋からほど近い大きな通りだった。これなら歩いてすぐだ。
王宮に戻るにしても、何も持っていないし、隣人のケガという情報も気になる。
あれが嘘だったらいいけど、一応おばさんが無事なのか確認して、
お店から王宮に連絡しよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。