第30話 嵐の予感
「え?ノエルさんの両親が来ているの?」
「うん。何度か手紙をやり取りしていたんだけど、納得できないみたいでさ。
王宮の面会室に来ているらしい。
ユキ様からも一度は直接会って話しておいた方がいいだろうって。」
「もしかして、公爵家との婚約の話?」
「だと思う。もう何度も断ってるんだし、
俺は侯爵家に籍も無いんだからあきらめてくれって言ってるんだけど。
まぁ、今日はユキ様も立ち会ってくれるみたいだから、ちょっと行って来るよ。
ルーラはこの部屋から出ないようにしててくれる?」
「…私も行って謝った方が良い?」
私のせいだと思って一緒に謝りに行こうとしたら、
ノエルさんは笑って私の頭を撫でた。
私が不安そうな顔していたのか、大丈夫だよと撫で続けている。
「ルーラが謝ることは何もないんだよ。
俺が傷物になったって捨てたのはあっちなんだから。
今更何か言われても、はいそうですかとは言いたくないよ。
そんな心配しなくても大丈夫。すぐ帰ってくるから。」
「うん…。」
「ルーラ、今日は私と一緒にお茶していましょう?」
今日の担当はサージャさんだった。
ミラさんとヘレンさんは王妃様の手伝いに呼ばれているらしい。
サージャさんと二人でお茶するのも久しぶりだから、それは楽しみなのだけど。
「何か落ち着かない?」
「うん…もしかしてノエルさんに迷惑かけてるんじゃないかなって。」
「大丈夫よ。もし迷惑ならはっきり言ってるわ。
ノエル様って、ここだけの話だけど、すごく冷たいのよ。」
「冷たい?ノエルさんが?」
「そう。婚約者がいたからもあるんだろうけど、夜会に出ても令嬢とは話もせず、
ダンスを申し込まれても断るし。
令嬢側からダンスを申し込むって、すごいことなのよ?
それなのにあっさりと断っちゃうの。迷惑だって。
青の騎士は女嫌いで有名だったのよ…
なのに、ルーラを抱っこしている姿は衝撃的だったわ。」
「…えっと、ごめんなさい?」
「あら。ルーラのせいじゃないからいいの。
でもね、女官は秘密を守るのが当然と思って働いてきたけど、
あの時ばかりは苦しかったわ。
あの青の騎士が女の子を抱っこしてるわ!って思いっきり叫びたかった。」
「えええ~?」
「もちろん、そんなことしないわよ?
これでもうちの家は陛下付きの女官として有名なんだから。
私もそのうち王太子付きになると思うわ。」
「そのうち?」
「まだ王太子が決まっていないからよ。
陛下付きになる予定の女官が誰か一人の王子についてしまったら、
その王子が王太子だと思われてしまうでしょう?
だから、私や姉さまは今は王子以外についているの。
と言っても、王太子が決まるのは早くてもあと5年はかかるから、
それまではルーラと一緒よ。」
「良かった。すぐに変わっちゃうのかと思った。」
「大丈夫よ。次期王宮薬師長は重要な役目だから。
そう簡単に女官が変わることは無いわ。」
「うん、安心した。」
「新しい茶葉に変えてくるわ。ちょっと待ってて?」
そう言ってサージャさんが席を立った時に、
サージャさんに渡そうと思っていた物を思い出して奥の部屋に入った。
まだ魔力は安定していなかったけど、薬師室で処方した際にユキ様から、
もうかなり落ち着いてきたから少しなら処方してもいいと許可が出た。
女官三人にお礼として手荒れの薬を渡したくて、
昨日のうちにこっそり作っておいたものを取り出した。
三人がそろっている時に渡したかったけど、
さっき見たサージャさんの手が荒れていて痛そうだったから早く渡したかった。
小さな瓶に詰めた塗薬が三つ並んでいるうちの一つを持って、
お茶を飲んでいた元の部屋に戻る。
もうすでにサージャさんは戻って来ているだろうと思ってたのに、誰もいなかった。
「あれ?まだ戻って来てない。何かあったのかな。」
そうつぶやいた時に部屋をノックされた。
ノック?
誰が来たんだろう。
「どうぞ?」
「失礼いたします。」
中に入ってきたのは、文官と女官だった。
どちらも見たことは無いが、王宮の制服を着ている。
誰にもついていない文官と女官なのだろう。
「どうしました?」
「実はユキ様から緊急で呼んできてほしいと言われまして、迎えに来ました。
ルーラ様の薬屋が荒らされ、隣人の方がケガをしたそうです。
それでルーラ様にも立ち会ってほしいとのことです。
一緒についてきてください。」
「えっ。」
隣人がケガ?もしかして隣の店のおばさん?
急いでいかなきゃ。でも、サージャさんがいない。
「急ぎますか?私についているサージャさんがいないので、
話してからじゃないと動けないので戻るまで待ってください。」
「ああ、サージャさんの代わりに私が来たので大丈夫です。サリーと申します。」
「でも、私はこの部屋から出てはいけないと言われています。
せめてサージャさんが戻ってくるまで待ってください。」
ユキ様が何か指示を出すならノエルさんをよこすはずだ。
そうじゃなかったとしても、一人で判断すべきことじゃない。
サージャさんが戻ってくれば、どうしたらいいか相談に乗ってくれるはずだ。
そう思って、動かないことに決めた。
「…ちっ。めんどうだな。よし、連れて行くか。」
「その方が早いですね。」
目の前にいたはずの女官が後ろにまわったと思ったら、口に何かをあててきた。
ツンとする匂いで、意識を奪う薬だと気が付き、息を止める。
そのまま意識が無くなったふりをして床に崩れ落ちると、文官に担がれた。
え?また担がれてる。
二人に抵抗しても無駄だと思って意識を失うふりをしたものの、
このままどこかに連れて行かれたらどうしよう。
連れていかれた先は王宮の馬車乗り場だった。
そこには貴族の紋がついた馬車が待っていた。
貴族の紋が付いた馬車?私をさらおうとしているのは貴族?
馬車の中に乱暴に乗せられ文官と女官も乗り込んできた後、馬車は走り出した。
いったいどこに行くのだろう。閉じていた目を薄く開けた。
私と文官と女官の他に、もう一人が乗っているのに気が付いた。
…ドレスの裾が見える。女性?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。