第22話 ユキ様への報告

ノエルさんが謁見室に呼ばれていたころ、

王宮薬師の修業をしながらユキ様に寵妃さまとのお茶会の報告をしていた。

今日はミラさんがお世話係としてついてくれている。


「寵妃は納得してくれたかい?」


「はい。私のことを新しい側妃だと勘違いされて困りましたけど、

 ミラさんがちゃんと説明してくれて。

 ミラさんについてもらっていて良かったです。」


「そうか。ミラは陛下の妃への教育係でもあったからな。

 ミラの説明なら寵妃も話を聞くだろう。」


「教育係ですか?」


「ああ。ミラが陛下の乳兄弟なのは知ってるな?

 小さい頃から陛下のそばにいるから、好みだとか色々と妃に教えるんだよ。

 婚姻する前に一月位かけて。

 だから妃たちは陛下のことで困ると、ミラに相談するんだ。」


「そうだったんですか。だからミラさんがついてきてくれたんですね。」


「他に何か困ったことは言われなかったか?」


「薬を処方してほしいって言われましたけど、今はまだ無理なのでお断りしました。

 王宮薬師になって、仕事としてなら全力で務めますと答えました。」


「ああ、それでいい。妃が王宮薬師個人に処方を求めるのは禁止されている。

 食事や薬はすべて後宮のほうで管理されているからな。

 薬も後宮からの要望で処方することになっているから気を付けるんだ。

 で、寵妃は何の薬を欲しがったんだ?」


「…避妊薬です。

 でも、私は避妊薬の処方って知らないんですけど、あるんですか?

 母から教わった処方には無かったと思うんですけど。」


「避妊薬だと?」


それまで穏やかに私の処方を見守りながら話していたユキ様の声色が変わった。

低い声に驚いてユキ様を見ると、何か考え込んでいるようだ。


「…王宮薬師の処方に避妊薬は無い。

 だいたい、妃が避妊してどうするんだ。子を産むのが仕事だろうに。

 ミラ、本当に寵妃はそんなことを言ったのか?」


「そうですね、たしかに言ってました。

 王宮薬師個人に処方を頼むのも禁止されていますし、

 寵妃さまもそれは知っているかと。

 なので、あり得ない話だと思って聞いておりました。

 ただ、寵妃さまですからね…どこまで本気だったのか。」


ん?そういえば寵妃さまって変わってる人だって言ってた?

避妊薬はないのに処方してほしいって言っていたんだ。

本当に欲しいから?それとも子どもを産んでないことで自虐的な何か?

笑顔で話してたし、そんなわけは無いか。


「避妊薬ね…わかった。少し気にしておこう。

 寵妃が避妊薬を欲しがるとか、ありえないからな。」



今日の確認する処方も終わり、ここまで何も問題ないと言ってもらえた。

母様から教わった処方も、もう残りわずか。

それが終わったら新しい処方を教えてもらえるんだろうか。

今の私が処方した薬は使えないので、事故防止のために焼いて処分する。

ひとまとめに片付けていると、帰ろうとしていたユキ様から声をかけられた。


「あぁ、そうだ。

 次の夜会が再来週にあるが、ルーラも出席するように。」


「へ?」


「夜会。フォンディ家当主だろう。一度は顔出しておかないとまずい。

 それに、ルーラを王宮薬師としての任命もする。

 ノエルも次の夜会は出ることになるはずだ。一緒に出席しなさい。」


「王宮薬師に任命してもらえるんですか!」


「ああ。来週あたり他の王宮薬師にも会わせておこう。

 夜会の準備はミラに頼むといい。」


「ルーラ、ドレスとかはわたくしたちと相談しましょうね。

 大丈夫よ、夜会と言っても出席するだけでいいから。

 貴族になったものは一度顔見せしなきゃいけないルールがあるのよ。

 それさえ終われば夜会に出なくても大丈夫だから。ね?」


「わかりました。」


夜会か…貴族相手はまだ苦手だな。

でもノエルさんも一緒なら、なんとかなるかな。




午後のお茶の時間になってからノエルさんが戻ってきた。

謁見室の後、お世話になっていた騎士団に挨拶に行っていたらしい。


「もう一度魔剣騎士として任命されてきた。青の騎士だ。」


「それって、寵妃さまが言ってた?色付きの騎士に戻ったってこと?」


色付きの騎士。魔剣騎士の中でも特別な存在。

元に戻ったってことは、元の仕事に戻ってしまう?

騎士団にはその挨拶に行ってたってことなんだろうか。


「ああ。だけど、騎士団には戻らなくていいそうだ。

 このままルーラ付きの騎士で良いと。

 陛下から許可が出たから、誰も文句は言えない。」


「それって、いいの?魔剣騎士の中でも色付きってすごいんでしょう?

 王宮薬師見習いの私についていていいの?」


「ルーラは、ユキ様の後継に指名されるそうだ。」


「え?」


「王宮薬師長に育てる気らしい。」


「だって、まだ王宮薬師にもなっていないのに。

 次の夜会で王宮薬師の任命はするって言われたけど、本当に?」


「くわしくはユキ様からまた話があるだろう。

 そうか、夜会か。それも出なきゃダメなのか。

 俺もまた侯爵になるから顔出ししないといけないんだ。」


「ユキ様が、ノエルさんと一緒に夜会出なさいって。」


「ああ。俺もそのつもりだ。護衛も兼ねてエスコートしよう。

 貴族に詳しくないルーラが一人でいたら、どうなるかわかったもんじゃない。

 俺がちゃんと守るから安心しろ。」


「うん。わかった。ありがとう。」


貴族たちが集まるっていうだけでも嫌だなと思ってしまう。

それに王宮薬師としても、フォンディ家当主としても認めてもらえるのかどうか。

不安しかないけど、ノエルさんが守ってくれるっていうなら大丈夫な気がする。

一度出てしまえば、もう出なくていいって言われたし頑張ろう。




「ノエルは騎士服よね?

 じゃあ、ルーラはノエルの騎士服に色を合わせましょうか?

 ノエルは何か希望ある?」


ミラさんがさっきからドレスのデザインを見ては、

ヘレンさんとサージュさんとあれこれ相談している。

ドレスなんて着たことないから、私に聞かれても何もわからない。

全部お任せします、とは言ったのだが。ノエルさんの騎士服に合わせる?

一緒に出席するからなのかな?


「…希望ですか。では、青のドレスで。」


「あら。ふふふ。そうなのね、わかったわ!

 装飾品はどうする?こっちで用意していいの?」


「いえ、俺が用意するんでいいです。」



嬉しそうに笑うミラさんと、やる気を出したサージュさん、

次々とデザインを持ってくるヘレンさん。

もう何が何だかわからず、少しぬるくなってしまったお茶を飲んでいた。


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