第21話 任命(ノエル)

正式な騎士服で謁見室に来いと言われて、何事かと思っていたが…。

目の前にはため息をつきながら、じぃーっとこっちを見ている陛下。

何か用があって呼んだのなら、早く言ってほしい…。

いつまで黙っているつもりなんだろう。



「陛下、いいかげんにして話を始めてください。」


しびれを切らした女官長が陛下に進言する。

うわ。笑顔の女官長…怖い。

陛下もそう感じたのだろう。姿勢を正して、話し始めた。


「あ、ああ。すまんな。考え事をしていて。

 呼んだのは、ノエルをもう一度青の騎士に任命するためだ。」


「え?」


思わず聞き返してしまった。

青の騎士、それは俺が4年前に返還したものだ。

魔剣を扱えないものは魔剣騎士を名乗れない。

ましてや色付きの騎士を名乗るようなことは出来ない。

そう思って、与えられていた魔剣を陛下に返したのだった。

それを、また任命?


「ユキ姉様から話は聞いた。魔剣を扱えるようになったのだろう?」


「はい、それはそうですが…。」


「よい、心配しているのは、騎士団に戻りたくないからであろう?

 ルーラ付きの魔剣騎士として任命する。」


は?王宮薬師付きの魔剣騎士なんて聞いたことないぞ?

それも、まだ見習いのルーラ付きで?


「驚くのも無理はない。

 だが、お前に話をしたうえで、任命は受けてもらう。」


「話、ですか?」


「ああ。ルーラは王宮薬師になるのと同時に、次期王宮薬師長に指名される。」


「同時にですか?」


「ユキ姉様が言うには、もうどの王宮薬師と比べても、

 ルーラのほうが圧倒的に優れているらしい。

 あのユキ姉様が完璧だと言ったんだぞ。驚くしかない。

 それに、ユキ姉様がいくら長命だと言っても、終わりが来ないわけではない。

 そろそろ次の指導者を育てたいと言っている。

 ルーラは王宮薬師として教えることは無いそうだ。

 だから、王宮薬師長としての教育をする。終わるまで数年かかるだろう。」


ユキ様の後継として指名する…まだ16歳のルーラが。

どれだけ反発がくるか、予想できない。


「魔剣騎士が守らないといけないほど、危険だということですか?」


「そうだ。それに、ルーラの母方のハンナニ国があきらめたとは言い切れない。

 油断していたらさらわれてしまう可能性もある。

 それに…あの容姿では、普通の令嬢だとしても危険だ。」


…普通の令嬢として、ドレスを着て夜会になんて出席したら。

今まで貴族としてのつきあいもない、守ってくれる両親もいない。

成長したとはいえ、小柄なルーラが狙われるのは予想できる。


「…わかりました。青の騎士、任命を受けさせてください。」


「それでいい。新しく魔剣を用意させた。前回とは魔力が違うのだろう?

 もう一度契約し直さなければいけないからな。」


差し出された魔剣は、まだ誰にも契約されていない、真っ白な剣だった。

左手首を噛み切って、魔剣に血をたらす。

流れて行くように剣に血が吸い込まれて行く。

剣と血がつながるように共鳴し、左腕の中に剣が収まった。


身体の中にある魔剣を感じ、魔力を流す。

浮かび上がるように身体の前にあらわれた剣を右手でつかんだ。

青白い光で包まれた魔剣を見て、前よりも剣に力が込められているのを感じた。

これが、新しい俺の魔剣。いや、俺とルーラの力でできた魔剣だ。


「見事な魔剣だ。ここまで力を持つ魔剣騎士は騎士団にもいないだろう。

 だがな、ルーラを守ることは、この国を、この国の王家を守ることにもなる。

 その辺の話は、いずれユキ姉様がノエルとルーラに話すだろう。

 …ルーラを守れ。頼んだぞ。」


「はい。」


言われるまでもない。俺の力はルーラのものだ。

また青の騎士に戻れるとは思わなかったが、だけど、前とは違う。

ルーラのためだけの騎士だ。

名誉だというなら、ルーラを守れることが名誉だと思う。

それが認められたことはうれしい。その感謝の気持ちで礼をし、謁見室から出た。







「言われるまでもない、って顔してたぞ。」


「でしょうね。自分の奥さん守るんですから。」


「いいよな~ルーラが奥さんって。ずるいだろう。」


「陛下?それ、他で言ったら…またしっかりお話しすることになりますわよ?」


「…言わない。」


これ以上何か言ったら、本当に女官長の説教が始まりそうだ…。

はぁぁぁ。仕事するか~。



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