第16話 説明をしてください

「さて、少し説明が必要なようだからね。全員揃ったかい?」


塔の部屋に戻ると、ユキ様はミラさんたちも全員呼んでいた。

この話は全員に知らせておいた方が良いということなんだろう。


「ルーラ。お前の正式な名前はルーラ・フォンディだ。

 間違いない。先日の儀式の署名もそうなっていたよ。」


「署名ですか?した覚えはないのですけど。」


「神殿に真名が登録されていれば、勝手に出てくるんだ。

 ミカエルはルーラが産まれた時に神殿に連れて来ていたようだね。

 後々のことを考えて、真名を登録しておいたんだろう。

 両親が亡くなれば、ルーラの身元を保証できるのは神殿だけだ。

 きっと、ハンナニ国に連れ戻されたくなかったのだろう。」


「神殿に登録ですか?」


「ああ。登録されているってことは、

 ルーラの両親も魔力の共生の儀式をしていたんだろう。

 その子どもだから、神殿に真名を登録できるんだ。

 神殿で認められる結婚は魔力の共生の儀式だけだからね。」


「両親もあの儀式をしていたんですね。」


父様と母様も儀式をしていた。

だから、父様が亡くなった後も母様は再婚せずに、一人で私を育ててくれたんだ。

母様のことだから儀式がなくても再婚しなかったとは思うけど。

父様を愛しているって毎日のように言っていたもの。


「ミカエルは結婚しないと思っていたよ。

 私の一番弟子だった。王宮薬師を輩出する伯爵家の当主だったが、

 薬師の仕事以外は興味ないって男でな。

 あまりに熱心過ぎて、自分の病気すら研究対象だったよ。

 それでも片足を無くしたことで、王城に来るのが難しくなった。

 辞めた後もどこかで研究しているだろうと思っていたんだが…。」


「そうだったんですか。

 でも、どうして私が父様の娘だと気が付いたんですか?」


「ルーラの処方の手順が、あまりにも私と同じだったからだよ。

 きっと弟子の娘に違いないと思って、調べていたんだ。

 ノエルから指輪の話を聞いて確信したよ。

 ミカエルの娘に間違いないだろうと。


 だがな、ルーラは貴族になりたくなかっただろう?

 ぎりぎりまで言わないでおこうと思っていた。

 あの侯爵があきらめが悪かったから、言うしかなかった。

 秘密にできず、悪かったな。」


「いいえ、ユキ様が悪いんじゃありません。

 私が平民の立場のままだったら、あのまま連れていかれていたでしょうし、

 ノエルさんまで一緒に連れていかれるところでした。

 あ!そういえば、ノエルさんも貴族!?」


ユキ様はそのままだったけど、ミラさんたちとノエルさんは目をそらした。

…これは、隠してたな?


「黙っててごめん。ルーラは貴族嫌いだと思ってたし、

 俺自身貴族とはもう関わり合いたくなかったから、言う必要も無いかと。

 侯爵家の次男で、騎士として子爵位を持ってる。

 だけど、侯爵家は出てるし、俺は貴族とかどうでもいい。」


「そうだったんだ…。」


「ごめんなさい。

 私たちも知っていたのだけど、言わない方が良いと思ってたの。

 陛下とあんなことがあった後だったしね。貴族に良い印象ないでしょう?

 でも、そうね。ルーラ様はやっぱり貴族のご令嬢だったのね。」


「ミラさん、今まで通りルーラって呼んでください。

 伯爵家の当主になってしまったみたいですけど、

 だからと言って、王宮薬師の見習いなことに変わりは無いですし。

 みなさんに様つけされると、離れたみたいで…さみしいです。」


「あーわかったわ!泣かないで!

 ルーラ、ごめんなさい。わたくしが悪かったわ。

 これからも今までと同じように、妹だと思ってるから。ね?」


ノエルさんが貴族だとわかって、ミラさんに様つけされて、

なんだか急にひとりぼっちに戻ってしまった気がして。

知らない間に泣いてしまっていたようだ。

ミラさん、ヘレンさん、サージュさんに抱き着かれて、

かわるがわる涙を拭かれる。うう…良かった。今まで通りで良いんだ。


「ごめんな、ルーラ。俺も何か変わるわけじゃない。

 今まで通り、一緒にいるから、泣き止んでくれないか?」


ノエルさんにまで神妙な顔で謝られる。

そっか。お互いに貴族だと思わなきゃいいんだ。今まで通りで。


「うん。もう大丈夫。

 今まで通りで良いんだって思ったら、すごく安心した。」



あれ、でもいいのかな?

私、いつまでこの塔で暮らしてていいんだろう?


「ユキ様、私の魔力って、いつ落ち着くんですか?

 いつまでもこの塔にいさせてもらって、

 ミラさんたちにお世話されてるわけにはいかないですよね?」


ん?といった顔でユキ様が不思議そうに言う。


「塔にいつまでって、ずっとだぞ?」


「え?ずっと、なんですか?」


「ああ、そうか。王宮薬師の説明をしていなかったな。

 王宮薬師は他国から狙われる存在だ。

 だから、普段から王城の中に部屋を持って住んでいるんだ。

 王宮内に住む者もいれば、敷地内に家を持っている者もいる。

 この塔は魔力が強くないと使いにくいから、住んでいる者がいないだけだ。

 ルーラの魔力が落ち着いたら、他の王宮薬師にも会わせるぞ?」


「え?じゃあ、店には戻れないんですか?」


「そうなんだよなぁ。最初に修業させるときは、無理だと思ってたんだ。

 街の薬屋をやってるくらいじゃ、王宮薬師にはなれないだろうと思ってな。

 あふれている魔力を使わせるのにちょうどいいから修業させるつもりだった。

 まぁ、どっちにしても今のルーラが作る薬は卸せない。

 魔力が落ち着くまでは、あと3か月はかかるだろう。

 落ち着いたら薬はルーラが作って、店番は誰か雇って続ければいいよ。」


そうなんだ…店には帰れないんだ。残念だけど、仕方ないな。

薬が作れるようになったら、隣の店のおばさんに頼もう。

あんな小さな店だけど、無くなったら街の人が困るだろうから。


「わかりました。」


「あ、ルーラ。わたくしからも説明するわ。

 王宮薬師には女官や護衛が付くことが決まっているの。

 王宮薬師は伯爵の位を持つ上、敬われる立場の者たちなのよ。

 だから王城内に住んで、女官が最低でも3人はつくことになってるの。

 ルーラが王宮薬師になっても、このまま変わらないのよ。」


「そうなんですか。じゃあ、ミラさんたちともずっと一緒なんですね。」


「そうよ。だから、安心して王宮薬師になってね?」


「はい、頑張ります!」


「俺もルーラの専属にしてもらったから、近衛騎士の仕事はもう無い。

 これからは基本的に一緒にいるから、安心して守られてくれ。」


「ノエルさん、良いんですか?近衛騎士じゃなくて。」


「ああ。俺の力はルーラにもらったもんだ。

 お前を守るために使うのが一番だろ?」


「…ありがとうございます。」


なんだか安心したらお腹がすいてきた。

それに気が付いたのか、ミラさんたちが食事を運んでくれた。

朝食も食べずに応接室に行ったから、昼過ぎの今はペコペコだった。



悩んでいたことが解決されたし、

みんなそろっての食事は楽しくて、心までお腹いっぱいになった気がした。





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