第15話 謁見室

気が付いたら謁見室に連れていかれていた。


「こうなってしまったら、ちゃんと陛下に挨拶しておかないと。

 大丈夫、話は私がする。」



謁見室で礼をして顔を上げると、あの日私を担ぎ上げた人がいた。

平民服ではなく王様らしいきらびやかな服を着ているけれど、

穏やかそうな顔に見覚えがある。

金髪って、そういえば貴族でもめったにいないんだった…。

ほとんど貴族に会うことなんて無かったから、そういうの忘れていた。

本当に陛下だったんだ…。


「それで、ユキ姉様。説明してくれますか?」


ユキ姉様…。

どう考えても年齢が離れすぎているし、本当の姉様じゃないですよね?


「ルーラ、あの指輪を見せてくれるかい?」


「はい。」


この指輪がどうかしたのだろうか。

不思議に思ったけれど、ネックレスごとユキ様に手渡す。

ユキ様はその指輪を受け取ると、手をかざし指輪に光を当てる。

指輪にあたった光が反射して壁にうつった。

光の中に何かが見える…家紋だろうか?


「これはフォンディ伯爵家に伝わる指輪だ。

 結婚相手に渡すんだと、見せてもらったことがある。

 ルーラの父親はフォンディ伯爵家当主ミカエルだ。

 ミカエルは私の弟子だ。

 一時期、ミカエルに王宮薬師長を任せていたこともあった。

 だが、ミカエルは病気で片足を失ったことで王宮薬師をやめている。

 その後は静養すると言って姿を消してしまった。


 まさか魔女と結婚して薬屋をしていたとはな。」


「その魔女がハンナニ国の貴族だというのですか?」


「そのようだな。黒髪黒目はその証だと言っていた。

 ジェンギニー侯爵家当主の妹で、リエンディ公爵の婚約者だったらしいよ。

 おそらくあの国が嫌で逃げてきたんだろう。

 魔女になるくらいだ。才能も行動力もあったから逃げることができたんだ。

 そして、ミカエルと出会って弟子入りし、結婚してルーラを産んだ。」


「それではルーラはフォンディ伯爵家の直系ということになるのですか?」


「ああ。神殿で真名の登録はしてあったようだ。

 確認したらルーラ・フォンディとなっていた。

 その上、王宮薬師として完璧だ。

 教えはきちんと受け継がれている。当主として何の問題もない。」


「わかりました。

 では、ルーラ・フォンディをフォンディ伯爵家当主として認める。」


なんだかわからないうちに、私が伯爵家の当主にされている!?

ユキ様に助けを求めようとすると、にっこり笑って念を押される。


「もうハンナニ国の公爵と侯爵にも認めさせたからね。

 これで他国に連れていかれる心配は無くなったよ。」


そう言われると納得するしかない…。


「…わかりました。」


「うん、それじゃ塔に帰ろう。

 あとの書類は任せたよ。」


促されるまま謁見室から出る。

陛下との謁見って、こんな感じでいいのだろうか。

ついてきていたノエルさんも、少し複雑そうな顔をしている。

部屋に戻ったら、ユキ様からもう少し説明してもらおう…。







「なぁ、伯爵家の令嬢だったら、

 俺の妃にしても問題なかったんじゃないか?」


近くにいた近衛騎士のジョンと女官のラミーアに問いかけてみる。

あの日ルーラを連れてきた後、ユキ姉様に無理やり薬を飲まされ、眠らされた。

平民の子どもを無理やりさらって来るとは何事かと、

いろんな者に説教されて、かなり反省したのだが。


連れてきたのが伯爵家の令嬢で、結婚できる年齢なんだとしたら、

何にも問題ないんじゃないだろうか。

なんだったら、今からでも俺の妃に…。


「何言ってるんですか、陛下。無理ですよ。」


「なんでだよ。黒髪黒目はめずらしいし、あの美貌だ。

 伯爵家と侯爵家から産まれている令嬢なら、血筋も問題ないし。

 見たか?あの所作。平民育ちにはまるで見えん。

 妃としてやっていけるだろう?」


「陛下、どうやって王城に連れて来たのか忘れてませんか?

 承諾も得ずに担ぎ上げて連れてきたんですよ。

 攫ってきたのと同じじゃないですか。」


「う…。」


ジョンに痛いところを突かれる。

あの日、護衛でいたジョンを巻いてから一人で街に行った。

そのことをまだ根に持たれているのだろうか。


「陛下、いいですか?サージュから話は聞きましたが、

 あの時のルーラ様は死を覚悟して抵抗する気だったようですよ。

 16歳になったばかりで両親もいない令嬢に、なんてことするんですか。」


え?死んだほうがましなくらい嫌だったのか…知らなかった。


「そんなに嫌われてた?」


「そういうことじゃありません。

 あの時のルーラ様は平民だったのです。

 平民がお妃になれるわけが無いと考えていたのです。

 一夜の慰み者にされて放り出されるくらいなら、

 殺されたほうがましだとお考えだったようですよ。

 何てけなげな…。」


あ、まずい。ラミーアがうるうるし始めた。一度泣いたら長いんだ。

その上、泣いている間中ずっと文句を言い続けられるし。


「わかった、わかった。俺が悪かった。

 魔力にひかれていたとはいえ、16歳の少女にしていいことではなかった。」


「陛下、次に妃にしたい方がいたら、先に言ってくださいね。

 勝手に連れてくるのだけは止めてくださいよ。」


「うん、そうだな。見つけたら言うよ。」


もうぐったり。あぁ、でも惜しいな。

フォンディ家か…そういえば手を出してはいけない家の一つだった。

ルーラ…綺麗だったなぁ。

手は出せないけど、声かけてみるくらいならいいよな。

お詫びだって言って、お茶に呼んでみようかな。

もしかしたら今から仲良くなれるかもしれないし。


「あ、ルーラ様はもうノエルと結婚しているので、

 ちょっかい出すのは止めてくださいね?」


「ラミーア、それを先に言ってくれないか…?」





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