魔法の基本
「それであのー」
「何よ?」
走って進む私の後方から、エヴァンが先程からずっと気になっていたであろう疑問を投げかけてくる。
「将軍ってどういうことです?」
「どうもこうも将軍ってことよ!」
「そこん所もう少し詳しく……」
面倒くさいから端折ったけど、気になって集中力が切れた状態で戦っても死ぬだけかも知れない。
仕方がないので口を開く。
「去年、直属の上司に言ったのよ。『疲れたので辞めまーす』ってね」
「え、ヴァネッサ様って宮廷魔道士でしたよね……? てことは上司って」
「あぁ、国王ね」
「それ不敬では……」
いちいちツッコミの多いやつだ。
別にヨントの1人や2人くらいに適当な口をきくことくらい、別になんでも無いでしょう。
逆にアイツのが私への不敬だわ。
「そんな事はどうでもいいの! 続き話すわよ? 聞きたくないなら止めるけど??」
「あっ、すみませんでした…… 止めないで下さい! 続き聞きたいです!!」
「ふふっ、それで良いのよ。 まぁ別に何かがあった訳では無いんだけどね。『戦力のお前に辞められると困るから、北方大将軍として国境守っててくれー! 有事以外は休んでていいからー!』って言われたから、あそこに住んで日々を謳歌してただけよ」
「なるほど……」
「なのにこんなのに駆り出されちゃってまぁ大変」
「すみません……」
「ま、終わったらまたあの怠惰な日々に戻るわ。1年に実務時間1時間っていうならアトラクションみたいなものでしょう」
言外に宣言する。このスタンピードを1時間で終わらせると。
だがしかし、私は重要な事を忘れていた。
……数を聞いていない!
数やその強さによって、必要な時間は10秒~4時間と幅広い。
せっかく騎士団が偵察に行ってくれたんだし、情報くらい仕入れなければ。
「1時間、ですか。でもいくらヴァネッサ様だとしてもあの数は……」
「うんうん。で、魔物は何匹くらいいるの?」
「計測不能、です」
「え?」
「大雑把に2万を数えた所で軽い戦闘が起こり……」
これはコイツを責めるべき場面ではないだろう。まぁ2万以上ということは分かったんだし、5万想定くらいでかかれば大丈夫だろう。
「じゃあやっぱ1時間で大丈夫ね」
「何を仰ってるんです!?」
2万~なんて数は、か弱い種族人間でさえ1地方を取れる程だ。
エヴァンの驚き様も納得が行く。
が、私は普通の人間じゃあない。
「ふふっ、見てなさい」
家を通り過ぎ、森に入り5分。
音が相当近くなってくる。
そして……
「「ギギガッガ!!」」
談笑の最中。
大人ほど大きい、緑色の人型生物が10匹、草むらから飛び出してきた。
「ヴァネッサ様下がってください!!」
「ふー、先鋒がホブゴブリン…… やっぱ50年物は違うわね!」
相手の正体は、2匹で騎士1人に相当すると言われる強さのホブゴブリン。
普通のスタンピードなら中ボスレベルだ。
棍棒を掲げて、前に出たエヴァンと私の周りをグルっと囲みこんでくる。
「早く下がって下さいって! 前衛は僕がやりますから!!」
ジリジリと近寄ってくる敵、剣を構えて焦るエヴァン。
相手は数的に有利だ。すぐに飛び掛ってきて……
「魔法使いって後衛でしょ!? 貴女は僕が守りますから!「うっさい黙れ」 って……え?」
次の瞬間。
エヴァンが剣を構えるよりも早く、10匹だった魔物は20個の肉へと変わる。
「あのね、エヴァン?」
「な、なんです!?」
―――――超一流の魔道士は、自分で道を切り拓くものよ
雷を纏う│
「あんた、魔法を習いたいって言ってたわよね?」
「は、はい! 小さい頃からの憧れで……」
「教科書はちゃんと読んだの?」
頷く姿に、ちょっと心が暖かくなる。
「うん、じゃあいいわ。見てなさい! 見て覚えなさい! ここから1時間、最っ高の魔法を見せてあげる!」
「え、へ!? あ、ありがとうございます!」
地響きは大きくなり、木々の隙間は魔物で溢れかえる。
大きなイノシシが歩いた跡は更地が広がる。
逃げ遅れた野生動物が喰われ、あちこちに血が飛び散っている。
そんな中を私たちは散歩する。
「まったく…… 環境破壊はやめなさいよ!!」
言いながら刀を突き、突進してきたイノシシの鼻にぶっ刺して電流を流す。
「魔法の基本その1! 杖に魔力を込める!」
「……杖?」
「刀だって棒でしょ!! そういうこと!」
そしてイノシシの身を縦横に貫いた稲妻は、皮膚の至る所から飛び出し周りの魔物にも殺到する。
「魔法の基本その2! なんかこうなれー! って祈る!」
「……今のは?」
「焼け! 貫け! 周りの奴らもついでに殺せ!」
木々の周りを縦横無尽に迸る雷光は、幾千もの命を一気に刈り取って行く。
「一撃一軍。これが最高の魔道士の大規模破壊魔術よ」
スっと何処からともなく現れた鞘に、雷刀を収納する。
胸を張って誇る私の周囲には、ホブゴブリンを初めとした先鋒の魔物は1匹も残って居なかった。
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