第37話 渉がデート?! そして幸せの味(晴日視点)
「隼人さん、大変です。渉に彼女ができたかもって」
「渉くん、小学校六年生だろ? 早すぎないか……?」
私は「古いですねえ」とうちの会社が作っている小学校から中学生をターゲットにしてる雑誌を出した。そこにあった『初カレとチューはどこでする?』という記事を見せる。
今の小学生は、早熟な子だと5.6年生から彼氏がいるのだ。
隼人さんはその記事を見て、眉間に皺を入れている。
私は楽しくなってその皺に指をつけて引き延ばしてみた。
伸びた! ……でも手を離したら……戻る。今度はなでなでしてみる。
「晴日、何を遊んでるんだ」
「だって真剣に読みすぎですよ」
「いや……小学校の時なんて……」
「プリン作ってたんですよね、劇団で。あ、そういえば今も家に牛乳って……ないですね」
「ヨーグルトがあるぞ」
「……今も嫌いなんですね」
隼人さんは私の質問に答えず、どっこいしょと私を膝の上に乗せた状態で、また雑誌を読み始めた。
毎日雑誌を作っていると、別に今読みたくない。
私は膝の上でくるりと回転して隼人さんの顎の下に入って、首筋にキスをしてしがみつく。
隼人さんの首から肩にかけて……なんていうの? 骨のカタチ? ものすごく太くてカッコイイの。
分厚くて、そう肩がしっかりしてるの。……好き。
私がよじよじのぼってキスしていると、隼人さんはまた私をクルリと回転させて膝の上に戻す。
もおおお~~~~。
するとソファの上に転がしてあったスマホに楓さんからLINEが入った。
思わず私は読み上げる。
「隼人さん、明日、渉が都内にデートに来るっぽいですよ!! 見に行きましょう!!!」
「邪魔だろう」
「いーんです! そんな小学生でデートなんてけしからんですからね。お母さんからの見張り指令です!! ……てのは嘘ですけど。都内のデパートに行くみたいなので、少し心配してるみたいです。むしろ彼女ちゃんのママを安心させたいみたいですね。まあ渉はいつも都内の塾に一人で来てますけど、彼女ちゃんは親なしであまり遠出したこと無いみたいで」
「そういうことか」
「変装しましょう、変装。あ、紅はダメですよ。美和子さんにLINEしよっと」
「……やめておいた方がいいと思うが」
隼人さんは呆れていたが、私はさっそく美和子さんにLINEして、黒髪ロングのウイッグを借りた。
つけてみたら、わりと似合って感動した。髪質的にどうしてもふわふわしてしまって前髪も作れず、新しい髪型にチャレンジも出来ないんだけど、こういうのは楽しい。
どうですか? と隼人さんに聞いたら「オデコが出てないと淋しい」と言われてモゴモゴと抱き着いてしまった。
隼人さんは飾りがない言葉を、ものすごくシンプルに、迷いなく伝えてくれる人だ。
それにいつも目をみて話をしてくれる。
私はウイッグをかぶった状態で隼人さんの頬にキスをしたら、隼人さんは若干戸惑った感じで苦笑した。
変装楽しいぞー?!
会社の衣装部に行って、少し大人っぽい服を借りて、6cmヒールを履いたら、隼人さんに予想以上に近くなった。
そしてメイクは得意分野なので、今流行りの中国風メイクで大人っぽく仕上げて……。
「どうですか?! 完璧です!!」
「いや、隠れてついて行くのに、そんなに目立ってどうするんだ」
「……その通りですね」
正直途中から気が付いてた。でも楽しくなっていただけだ。
結局私はウイッグと帽子だけ被って、渉たちが来るであろう店で待った。
隼人さんとコーヒーを飲んでいたら、渉と女の子が店に入ってきた。
渉は塾のリュックを背負ったままで、なんというかデート感が全くないが、女の子はワンピースにベレー帽に小さいリュックで、ちょっとメイクもしている。
というかこの状態だと渉は女の子を一人で帰して、塾に行くのでは……?
それは女の子が淋しいパターンなのでは……?
私はクッキーをザクザク食べながら思った。横を見たら、野球帽をかぶってべっ甲メガネをしている隼人さんが私を見て小さく笑った。
めっちゃカッコイイ~~~~あああ~~~。
私は隼人さんのメガネ姿に恐ろしく弱い。というか、ガタイが良い男のメガネ姿が嫌いな女子がこの世界に存在するのだろうか、イヤ居ない。
腕にしがみ付くと、隼人さんは優しく微笑んだ。
渉たちは雑貨屋を冷やかし、帽子屋でお互いに「これが似合うんじゃない?」と笑いあい、階を登っていく。
なんとも完全なデート……オムツを変えていた渉が女の子とキャハハウフフしている姿を見るのは変な気分だ。
影から見ていたら、隼人さんがスッ……と私の横に立って言った。
「……可愛いな」
「隼人さんが子ども好きですよね、紅の時も懐かれてて笑いました」
子どもたちは本気で一緒に遊んでくれる人が無条件で好きだ。
隼人さんが子供たちと遊んで朗らかにほほ笑んでいる姿を見ると『家族のカタチ』を考え始める。
もちろん隼人さんとの子どもはめっちゃほしい。
でも社員生活長いと「はい産みます!」というわけにはいかない。
最速復帰でも半年だし、それに旦那さんが自営業の場合、よほどのことがない限り社員をやめないほうがいい。
まずは仕事を細分化して、誰にでも出来る状況を一年かけて作る。そこからだ。
……仕事のことになると、めっちゃ冷静なんだけど……横にいる隼人さんをチラリとでも見ると飛んで行ってしまう。
ま、細かい事は後で考えよ~っと。
渉たちは本屋を冷やかし、最上階へのぼっていく。どうやらそこが目的地のようだ。
二人は大きな手芸店に入っていく。手芸? 学校の授業で布を持ってこいとか色々あるけど、それの何かだろうか。
私と隼人さんも「こんな布が売ってるんですね」とか「これ衣装で使うやつですか?」とか興味を持って店内に入った。
そして渉たちは、店内の一部、ワークショップゾーンにいた。
そこに出ていたワークショップ名は『フェルトで花束を作ろう』だった。
渉と女の子は白やピンクなど、可愛い色のフェルトと何枚も選んでいた。
そして渉は言った。
「結婚式に持つ花束を作りたいんですけど!!」
あ、これは私が一番見てはいけないものだ。
私と同時に隼人さんも気が付いたようで、私たちはそこから出た。
ビルを出て、かなり遠くのカフェに二人で入った。
見ると、隼人さんの目は少し赤い。
でも私なんて変装用に付けた濃いマスカラが、パンダ状態になっている気がする。
私の顔をみて隼人さんは慌てて表にあるドラッグストアでメイク落としを買ってきてくれた。
私はもう開き直ってメイクをグイグイ落とした。
「……隼人さん、結婚式の打ち合わせしてるから、聞いてたんじゃないんですか?」
「いや……全然知らなかった。普通のブーケの予定で……楓さんも花の発注をしていたと思うが……」
「じゃあ渉が考えたのかな……うう、なにそれ可愛い」
そしてLINEに『フェルトでブーケを作ってた(涙)』と送ったら『やべぇ、ハンバーグ作る(涙)』と返って来た。
楓さんの作るハンバーグ食べたさに一瞬実家に帰ろうかと思ったら隼人さんが「俺が作るのも美味しいぞ」というので秒で帰るのを止めた。
そして隼人さんがつくってくれたハンバーグは、お肉がとろっとろのふわふわで最高にジューシーだった。
うう、結婚式がすっごく楽しみになってきた!
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