97 ドーランからの提案

ローラ、ランベル、リエンナの思いを改めて聞いたレイは深く溜息を付きこう言った。


「――ふぅ……。分かった。皆の意見を聞かずに勝手な判断をした事は謝る。悪かった」


レイは軽く頭を下げた。


「本当に悪いと思ってんの?」


「確かに。反省してる奴ならもっと深々頭を下げるもんだよな」


「いいじゃねぇかよ別に」


「フフフフ」


さっきまでの険悪な雰囲気が嘘かの様に、四人はいつも通りに戻っていた。


「……本当にいいのか?」


「しつこいぞ。騎士団に二言はねぇ」


「あ、忘れてた。アンタ騎士団受けるのよねそういえば」


「おい、忘れるなよ。それも重要な事だぞ」


「勿論ランベルさんの騎士団の事も大事ですが、さっきの方達の言い方だと、私達を監視していたって事ですよね? ランベルさんが騎士団受ける事も知っていましたし……」


リエンナの表情が少し不安さを物語っている。


「ああ。それは確かにそうだろうな。イヴの事も知っていたから、恐らく俺達の目的も知っていると思う。だけど、奴らもきっと異空間の居場所を知らないんだ。キャバルの野郎のやり方じゃない。全部あのヨハネとかいう奴の思惑だろう多分。実際、母さんを消した時に奴も飛ばした先は知らないと言っていたからな。


それだけじゃなく、アルカトラズに閉じ込めていたイヴにも何か秘密があるんだ。ロックロス家が、キャバルが知られたくない様な何かが……」


レイの言葉に、皆が頭を悩ませたが、起きている事が大き過ぎて誰も思いつかなかったのか、直ぐに考える素振りを止めたのだった。


「うん。その辺は全然考えても分からねぇな。スケールがデカ過ぎるし陰謀論だ。それに、確か前にも一度あったが、俺は未だにそのフェアリー・イヴという名に現実味がまるで持てん。お伽話じゃなくて本当にいるの?」


「いるわよ。私も驚いたけどね」


「ドーランさんのお友達なんですよね?」


<――友達ではない>


今まで会話に入っていなかったが、リエンナの問いに即座に否定したドーランだった。


「まぁイヴの話は置いといて……確かにランベルの言う通り、キャバル達にとって何が不利益なのかは分からないが、結局奴らの目的も俺らの目的もほぼ同じという事になる。こっちが動けばまた奴らも動くし、奴らが先を行くなら何としても食い止めないといけない」


「そうね。幸い、向こうも直ぐ動いてくる感じではなかったし、まだ私達の動きを探っているからそこだけが救いね」


「あんな強い奴がいるとはな……流石王家とでも言うべきか」


「王家が本気になれば戦力の数は桁外れだろうが、さっきのポセイドンがいる護衛王団は警戒しなくちゃいけない」


「ポセイドンみたいなのが十三人もいるんだろ?」


「四人で何とか逃げ切ったぐらいですからね……」


<答えは一つしかなかろう>


レイ達の幸先が暗くなりかけた瞬間、再びドーランが入ってきた。


<全員“強く”なる――。元から方法はそれしかない。この状況を打破するのも、リバースダンジョンを攻略するのも、異空間を見つけるのも、奴らと渡り合うのも全て……主達が強くなる他手段は無いのだからな>


究極にシンプルな答え。

だが、それがイコール全ての解決となるのもまた事実。


余計な不安を削ぎ落し、ある意味開き直った様子のレイ達の表情は軽くなった。


「……そうだな。ごちゃごちゃ考えても仕方ない。最初からやる事はそれしかなかったんだよな」


「そうね」


レイ達は顔を見合わせて頷いた。


<本格的にロックロス家と向き合う時が来た様だ。レイ、ローラ、ランベル、リエンナ。どうだ? 本気でその覚悟が出来たのならば、我から一つ提案がある――>


思いがけないドーランの言葉に皆は驚いている。


「何だよ、その提案って」


<ああ。その護衛王団とかやらは少々厄介だ。先の奴と同等の人間が十三人もいるとなると、レイ達が一番よく分かっているだろうが、今のままではまず勝てぬ。

まぁ我が本来の力を使えればまとめて瞬殺出来るがな。レイの実力ではそれはまだ叶わぬ。そうなってくるまた今回の様な事が起きた時に窮地に立たされる。

前置きが長くなったが、我からの提案というのは……>


その先の言葉にレイ達は固唾を飲んだ。


<“解散”だ――>


「…………ん??」


どんな提案が来るんだと待ち構えていた四人の頭には「?」が浮かんでいた。


「解散って……どういう事?」


<そのままの意味だ。主達のこの“パーティ”を解散するんだ>


「………ん??」


「前から思ってたけど、ドーランって説明下手というか主語が抜けているというか、分かりづらいよな」


「全くだわ。どういう事よ」


意味を理解出来ないレイ達は遂にドーランに当たり始めるのだった。


<そう急ぐ出ない。解散といっても“一時的”だ。このおよそ一年、毎日クエストを受けて確かに実力は付いている。各々がな。しかし、それでは全然足らぬのだ。特に急ぐわけでもなかった昨日までとは状況が変わった。主達は更に強くならねばならぬ。今までと同じではダメなのだ>


「だから具体的に何をすればいいんだよ」


<暫くの間パーティを解散し、全員実力を上げろ。より厳しい環境に身を置くのだ>


そのドーランの提案に、レイ達は困惑を隠せなかった。

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