90 ヨハネとドーラン

(これが子供の放つ殺気か……⁉ 何という冷たい目じゃ。どうやら王家の事を口にするのはタブーの様じゃな……)


レイはDr.ノムゲから再び視線をヨハネに移した。


「お前がアイツと同じ部類だという事はよく分かった。自分のお陰で俺が生きられているとわざわざ言いにきたのか? それだけを。

流石王家、相変わらず中身のねぇ無駄な時間を過ごしている様だな」


「それは君の方だとまだ分かっていない様ですねレイ」


「何……?」


「無駄な時間なんて思っているのは君だけですよ。何不自由ない、しかも世界最高位のロックロス家に生まれながら、出て行く事を望むなんてそれこそ人を馬鹿にした愚かな行為。君が一番人を見下しているじゃないでしょうか。

王家が可笑しいのではなく、対応出来ない君に問題があるのです。これじゃあ父上が落胆するのも頷けます。ここまで無知な挙句に魔力が0なんて前代未聞の欠陥品ですからッ……「――テメェ!!」


我慢出来なくなったランベルがヨハネに斬りかかった。


「よせランベルッ!」


横一閃。

素早いランベルの一太刀はヨハネを捉えたかに思えたが、そのまま空を切った。


「――⁉」


「危ないですね。さっきは不意を突かれましたが、僕も決して弱くはありませんよ」


ランベルの攻撃に反応したヨハネは身を反らしてそれを躱した。


「チッ、自分で動けるのかよ。子守りされてるだけじゃないみたいだな」


「君がランベル・モレ―だね。その程度じゃ大団長はおろか、入団試験も合格出来ませんよ。そもそも、我がロックロス家の力でそんなもの簡単に合格させてあげてもいいですし、逆に一生入団できない様にする事も可能ですよ」


不敵な笑みで淡々と話すヨハネ。

この態度に更に憤りを感じたランベルは再び攻撃態勢に入った。


「ふざけた事ばっか言ってんじゃねぇ……!」


 ――ガッ……!

「……ッ⁉」


ヨハネとランベルの間に割って入ったポセイドンと呼ばれた男。

そのポセイドンが今度はランベルの攻撃を止めてみせた。


「ヨハネ様に手を出すなと言っているだろう――」


(ぐッ……コイツいつの間に動き出していやがった……⁉ しかも何だこの力は……動かねぇ……!)


ランベルがヨハネに剣を振るおうとした寸前、ポセイドンは片手で剣の鍔を掴み止めた。

対するランベルはそれを振り払おうと、全身に力を入れて動かそうとしているのにビクともしない様子。


「その腕のマーク……もしかしてお前、“聖十三護衛王団”の奴か」


レイがポセイドンの腕のマークに気が付きそう言った。


「流石元王家の人間。やっぱり知っていましたか」


「当り前だろ。それにしても、まさかお前に護衛王団を動かす権力があるとはな……」


「当然です。君と違って僕は父上に信頼されていますから。実の息子とはいえ、君程度の人間では流石の父上もそんな事許してはくれないでしょう。僕だから認められるんです。残念でしたね」


「勝手に落ち込ませるな。お前から見ても、俺はアイツに認められていないと分かって誇らしい気分だぜ。あんな奴に認められた時点で人間失格だ」


――ブンッ……ズガァンッ!


レイとヨハネが言い合っていると、攻撃を止めていたポセイドンがそのままランベルを投げ飛ばした。


「ランベルッ!」


「……ッ痛ってぇ。とんでもない馬鹿力だな……」


レイと同じ様に壁まで飛ばされたランベルであったが、どうやら無事な様だ。


「大丈夫かランベル! ……おいヨハネ。結局何が目的だ。これ以上俺の仲間に手出すなら許さねぇぞ」


「ここで全員片付けるのは訳ないですが、君の言う通り、王家は意外と時間を持て余す。僕の暇つぶしにまだ付き合ってもらいたいので殺すのだけは止めておきましょう。“フェアリー・イヴ”と無理に争いたくもありませんから」


<――イヴだと……?>


「「――⁉」」


ヨハネのその言葉に反応したのはドーランだった。

レイの後ろに姿を現すドーランを見たヨハネ達は驚いた。


<話は微妙に聞かせてもらったぞ>


「何だよ微妙って、この状況でまた寝てたのかお前は」


相変わらずのドーランに、少しばかり場の緊張が緩んだ。


<主がロックロス家に拾われた奴か>


「これは……ドラゴン……? しかもその姿、まるでレイと一体化でもしてる様ですね。話には聞いていましたが、これは少々驚きです。しかもそのドラゴンが僕に話しかけてるのですから」


「なんじゃこれは⁉ どうしてドラゴンが急に現れるんじゃ……! しかもこのドラゴン……ま、まさか……“古代黒龍”じゃなかろうな……」


<ほう。我を知っているとは中々感心したぞ人間>


Dr.ノムゲも、突然現れたドーランに驚愕している。しかも伝説とまで語られている竜の王である古代黒龍だと認識するや否や、Dr.ノムゲは全身を震わせて腰を抜かした。


「古代黒龍……。それは本当ですかDr.ノムゲ」


「あ、ああ、ま、間違いない……このドラゴンもそうじゃと言っておるしのぉ……」


腰を抜かしたDr.ノムゲはただただ目を見開いてドーランを見上げていた。

全身の震えのせいで声まで震えあがっている。


「まさか本当に古代黒龍などが存在するとは……フフフ。俄に信じ難いことだらけです。今日は驚かされてばかりですが何故だがとても楽しくもありますね。“実体”のない所を見ると、どうやら千年決戦と語られている話も一気に現実感が出てきましたね。

成程。となるとロックロス家の古魔法や異空間にも繋がってくるわけですか。……面白い。面白すぎますよコレは。まだまだ不可解な点が多いですがこれはかなりの収穫です。フフフフフ」


普通の表情なのか笑っているのか全く表情が読めないヨハネ。

しかし、今だけは確実にこの事態を楽しんでいる事がよく分かる。


<偉そうにレイの前に現れた割には、全く我らの事を知らぬ様だ。力を持ったと勘違いしている主が軽々しく口にしてよい名ではない。我の事も、そして……フェアリー・イヴもな>


ドーランがギッとヨハネに視線を飛ばすと、目には見えないが、確実な威圧がヨハネを襲い、ヨハネは反射的に一歩後退したのだった。


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