82 死人に口なし

ズロースのそんな表情を見て、ローラは何か力になってあげたいと思ったが、それは同時に、自分の無力に気付かされた瞬間でもあった。


「でも、アイツ等何でお宝“持っていかなかった”んだろ?」


「あの状況だから焦ったんじゃねぇか?それか全部じゃないにしろ少しは持っていったかもな」


「まんまと逃げられたか」


「でも可笑しいわね。アイテムがしっかり発動してたならお宝も消えていた筈だけど……」


「欠陥品だったんじゃないか?」


「まぁ悪い事はするなって事だろ結局は。アイツ等も取り敢えず命が無事ならそれでいいんじゃないかな」


「間違いない。それに……」


話が終わりかけていた時、徐にランベルがポケットから何を取り出した。


「今ローラ達の話聞いて“まさか”と思ったんだけどさ、ひょっとしてコレ使える?」


「え⁉ それって……⁉」


ランベルが取り出した物……。

それはなんと、ボスが持っていたリバース・オークションの通行証であるバッジだった。


「ちょっと! 何でアンタそれ持ってるのよ!」


「コレか? まぁ全くの偶然だけどよ、俺がアイツ等のアイテム斬ろうとした時に、外した代わりにボスとか言う奴の服を掠めたんだ。その時にコレが転がったんだよ。アイツ多分気付いてないけどな。

それでその後直ぐに地面が崩れただろ? その時にもまた偶然だけど、コレが俺の目の前に飛んできたから反射的に拾っといた。そして今その存在を思い出したって感じ」


淡々と話すランベルだが、ローラはまだ驚きが収まらない様だ。

そんなローラを他所に、ランベルはそのバッジをズロースに向けた。


「ズロースさん。役に立つか知らないけど、コレ良かったら上げるよ」


「――⁉」


「そのオークションに出るんでしょ? 娘を助けられるかもしれないっていう魔草が。だったらコレはズロースさんが使うべきだと思うよ」


「いや、でも……」


「なぁレイ。別に俺達使わないからいいよな?」


「逆に使う理由を教えてくれよ」


「ハハハ。だよな。って事ではい。別に俺達の物でもないけど、ズロースさんが使ってくれたら嬉しい。いいでしょ? アイツ等悪者と違って、将来大団長になる俺から貰ったなら、使うのに負い目感じないと思うけど」


笑いながらそう言うランベルに、ズロースは何も言葉を返せなかったが、再び微笑みながらランベルからそのバッジを受け取った。


「ありがとう。何故かな……君とは会ったばかりで何も知らないが、何故か大団長として活躍する君の姿が目に浮かぶよ」


「そりゃズロースさんの目が正しいな! 何も不思議がる事じゃないぜ」


「どこまでお気楽なのよアンタ」


「フフフ。そこがランベルさんの持ち味ですからね」


「甘いのよリエンナは」


皆でそんな会話をしていると、レイがズロースに訪ねた。


「ズロースさん。俺もその魔草の事はよく知らないんだけどさ、リバース・オークションに出品されるって事はそれなりのお金が必要だよね? お宝を見つけたらそれを資金にしようとしてたって事は、まだ足りないんじゃない?」


「ちょっとレイ、アンタさっきから失礼な事ばっか聞いてるわよ」


「いいんだよ。実際君の言う通りだからね。このバッジは本当に有り難いよ。けど、確かにウニベル草を買えるかは分からない。僕が手を出せない程高額なのは確かだからね」


「そんな……」


重い空気が流れる中、レイは更に話を続ける。すると、レイもまたポケットから何かを取り出してみせた。


「ズロースさん。俺はあなたに助けてもらった。だからさ、そのお礼に“コレ”も受け取ってよ!」


勢いよく出されたレイの手には、沈んでいった筈の金貨が数枚乗せられていた。


「金貨! それひょっとしてさっきのお宝⁉」


「当たり! 実は俺も落下中に偶然掴んでたんだよね」


ランベルに続き、レイも悪戯っぽく笑いながらそう言った。


「しかもコレさ、俺が城に閉じこもってる時、暇つぶしで読み漁った本で見た事あるんだよ。オルソ族とこの海賊のお宝の事! 本当にあるなんて思いもしなかったけど、実際に見て手にしたんだからもう疑い様のない事実だよな」


「うっそぉ⁉ って事はやっぱろ凄いお宝なのコレ⁉」


「多分な。まだ分からないけど、売れば相当な値打ちになると思うぜ」


「魔草買えるぐらいか?」


「いや、だからそれは分からないけど……。兎に角、コレも貰ってよズロースさん。はい」


レイは金貨をズロースに渡した。

受け取りはしたものの、ズロースの表情はまた険しくなってしまった。


「一族のお宝を使ってしまって良いのだろうか……」


「死人に口なしだから何とも言えないけどさ、ご先祖様が隠した宝なら、同じ一族の人が使うなら本望じゃない? 見ず知らずの人達に持っていかれるよりさ。だって本当に自分の為だけだったら、こんな所に隠す必要も、わざわざ扉を開けるのにオルソ族の魔力が必要なんて事するかな? 言い伝えとはいえ、お伽話まで残して」


「確かにな。あのお宝が置かれた場所には、ズロースさんの言ってた通り逃げ道もあった訳だし。きっと本物の海賊だから、自分の一族に本物の宝探しでも残したんだろ」


「まぁ全部憶測だけど、その可能性は十分あるわね」


「ご先祖様も、大事な一族の小さな命を救う為なら、きっと喜んで力になってくれると私も思います」


レイ達の言葉に、いつの間にかズロースの目には涙が滲んでいた。

都合の良い捉え方かもしれないが、ご先祖様がそう思ってくれている事を願いながら、ズロースはご先祖様とレイ達にお礼を言うのだった。

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