79 空からの断末魔
まさか目の前にいるクズがリバース・オークションのバッジを持っているなんて。
いや、クズだからそのバッジを手にしているのか。
ローラは自問自答していた。
「でも待って、本当にリバース・オークションに入れたとしても、ウニベル草なんて相当な額で取引されているんじゃないの? それをどうやって」
「お嬢ちゃん。お前には目の前に光り輝いているお宝が見えないのか?」
「まさかこのお宝を探すのが条件で……」
「そうだ。正確には、ここを開けるのに必要なオルソ族の魔力が欲しかったんだ。まぁお互いのメリットの為に組んだ同盟とも言えるな。ガハハハッ! だがその同盟も終わりだ。俺に逆らった貴様はリバース・オークションに入るチャンスを失った! だが俺達は、このお宝を手にトンズラさせてもらうぜ! ヒョロイ、コーデブさっさと脱出するぞ!」
ボスの掛け声で、ヒョロイがポケットから何かを取り出した。
「あれは⁉」
そう。
ヒョロイが持っていたのは珍しい“移動アイテム”。そしてローラの記憶が正しければ、この状況では最悪。
あの移動アイテムは距離と使用制限があるが、どんな人でも物でも一瞬飛ばすことが出来る。
「あばよ! 万が一の為に用意しておいて良かったぜ! 元々宝が見つかったらこうしようと思っていたがな! 俺を裏切った事後悔しながら死んでいけ!ガーハッハッハッ!」
「行くっすよボス!」
「ヤバい! 逃げられる!」
「ガーハッハッハッ!」
崩れゆく洞窟の中で、地響きとボスの笑い声だけが大きく響いていた。
しかしその直後……地響き、笑い声とは別の、“第三の声”が唐突に降り注いだ。
「「…………ぅぁああああああああああああああああああッッーーー!!!」」
「え⁉ ……レイ!ランベル!」
なんと、上から“落っこちてきた”のはレイとランベルだった。
洞窟の地響きもボスの豪快な笑い声も凌駕する、圧倒的な断末魔。
「「わぁぁぁああぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁあぁぁ!!!」」
そして、崩れてくる瓦礫と共に落下してきたレイとランベルに、嘘のような奇跡が起こる。
――ゴチンッ! ゴチンッ!
レイはヒョロイの、ランベルはボスの脳天に、それぞれ自らの脳天同士が運命的な直撃をしたのだった。
「「「「――痛ッッてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」」」」
四人は頭を押さえ地面をのたうち回っている。
「何してんのよ……」
この緊迫した場面で、レイとランベルはさることながら、さっきまで心底怒りが湧いていたボス達にも、何故か今は「四人とも死ななくて良かったわね」と、思うローラであった。のたうち回る四人がさぞ不憫に見えたのだからしょうがない。
「グッ……痛ってぇぇ……! 何が起こったんだ。つか、お前等何処から湧いて出たクソガキッ!!」
涙目でレイ達に怒鳴るボス。
だが、レイもランベルもまだそれどころではなかった。
「痛い痛い痛い痛ぁぁぁい! 頭が死んだッ!」
「痛てぇぇぇぇぇ! 前にもこんな事がッ!チクショウ!」
「ボス~~~! 頭が砕けたぁぁぁ!」
ボスは相当石頭だったのか、回復が早い。残る三人は暫く悶絶が続いた。しかし事態は一刻を争う。
こうしている間にも、洞窟はどんどん激しく揺れ始めていた。
「さっさと逃げるぞバカ者!」
ボスは無理矢理ヒョロイを起こした。
「レイ、ランベル!そいつ等絶対に逃がさないで!」
「んん? そいつ等って……」
徐々に痛みが治まってきたレイとランベルが周囲を見渡すと、見慣れない顔を三人確認出来た。いや、ローラとリエンナの方にも一人デカいのがいるので四人だ。
当然の如く、レイとランベルは状況が全く理解出来なかった。
「早くしろヒョロイ!」
「そいつ等ぶっ飛ばして止めて!」
ボス達は急いで脱出を試みる。そしてローラ達はそれを阻止しようとする。
いまいち分からないが、何やら必死のローラの様子を見て只事ではないと察したレイとランベル。
「何か慌ただしい様子だな」
「って、ちょっと待って⁉ おいレイ! あれ見ろ! お宝だ!!」
「お宝? ……あ!ホントだ! お宝だ!」
気付くのが遅いが、レイとランベルは遂にお宝を発見したのだった。眩く輝く金銀財宝。それを見たレイとランベルは抱き合って喜んだ。
「「おっ宝!おっ宝!」」
「おい馬鹿二人! 早くしないとそいつ等が移動アイテムで宝ごと逃げるわよ!」
「「何⁉」」
浮かれたのも束の間。ローラのまさかの発言に驚いたレイとランベルは、見つけたお宝を守るべく瞬時に攻撃を仕掛けた。
「エグドーラ!」
――ボウゥンッ!
レイの攻撃がボス達の足元に放たれると、瞬く間に硝煙がボス達を覆った。
「ゲホッ……! ゲホッ!」
「何しやがるんだあのガキ!ゲホゲホッ……!」
「――それはこっちの台詞だろ」
「……⁉」
その硝煙を利用し、いつの間にか距離を詰めていたランベルが煙の中から現れ、ヒョロイの持つ移動アイテムを破壊しようと剣を振り抜いた。
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