78 万物の秘薬

ズロースの言葉に少し驚きを見せるローラとリエンナ。

ボスは凄い剣幕で睨み付けている。


「貴様、自分の言ってる事が分かってるのか?」


「ああ。脅してももう気持ちは変わらない」


「何急にまともぶってやがる。“娘"が助からなくてもいいってのか?」


ボスのその発言に、ローラとリエンナは眉を顰めた。


「娘って……」


「ズロースさん……」


ローラとリエンナは再び嫌な予感がした。いや、予感よりも確実な嫌悪感。

自然とローラは、ボスに鋭い視線を送っていた。


「おいウィッチ。その何か言いたそうな目は何だ? そうさ、貴様らが察している通り、この怪物は娘を助ける為に俺に手を貸しているのさ!本当にいいのかズロース?娘がどうなっても」


ガハハハと笑いながら言うボスに、更に不快感を増すローラ達。


「娘が助からないって、アンタ達もしかして人質にしてるの⁉︎ どこまでクズなのよ」


「おいおい、勘違いしてもらっちゃ困るぜ!人質を取るなんて卑怯な真似しねぇよ。なぁズロース」


信じ難いが、ズロースが黙っている所を見るとどうやら本当らしい。


「一体どういう事……」


「ガハハハハ!わざわざ人質なんか取らなくても勝手にくたばるさ!そいつの娘はもう命が持たねぇ。病気だからな!」


「え……そんな……」


ローラもリエンナも困惑の表情。

何か事情があると思っていたが、あまりの衝撃に言葉を失ってしまった。しかし、人の気持ちを弄ぶ非情なボスの姿や態度に、ローラは怒りが収まらなかった。


「ズロースさん。あなたがアイツ等の言いなりになっていた理由は分かったわ。本当に……ズロースさんの娘は本当に助からないの? アイツに手を貸したって事は何か方法があるのよね?」


「よく分かってるじゃねぇかお嬢ちゃん。そうさ、娘の病を治すにはかなり貴重な魔草が必要なんだ。その魔草を手に入れる為にコイツは俺と組んだのさ」


「貴重な魔草って……」


「万物の秘薬とも言われている『ウニベル草』さ」


「ウニベル草⁉」


「ローラさん知っているんですか?」


魔草の名を聞いたローラは驚いた。それもその筈。ボスの言った通り、ウニベル草はかなり貴重な魔草である。

この世界に、現時点で治療法が見つかっていない病はいくつもある。その中で、そんな病の人にとって最後の秘薬とも言われているのがウニベル草だ。


この魔草は、いわゆる不治の病と言われているものに効果的らしく、まだ確認された例も少ないが、本当に病が治ったと記録が残っているのだ。


「ええ。魔草の中でもレア中のレア。あれは見つけようと思っても簡単に見つけられるものじゃない。アンタまさかそれを知っててズロースさんを利用したんじゃないでしょうね?」


「そこまでコイツが馬鹿ならこっちだって苦労してねぇさ。ただ確実ではないが、少なくとも俺はそのウニベル草を手に入れる可能性は持っているがな」


「どういう事⁉ 何でアンタが!」


「“リバース・オークション”さ!」


「――⁉」


リバース・オークション。


それは、限られた人間のみが参加出来ると言われているオークション。

その名の通り、公で正式な取引が行われるオークションとは違い、表には出しにくいレアな魔草やアイテムを自由に取り扱っているオークションである。


このリバース・オークションには昔からいくつもの王家が絡んでおり、表向きには違法オークションとして認知されているが、その実態はかなり闇が深く、何か問題が起きても“多少の事”なら王家が揉み消してくれるという暗黙のルールが生まれている程。


そんな中で、何も知らない中途半端な参加者がこのオークションを「違法だ」と訴えても、それは当然無意味。

王家に消されるのがオチである。


そしてこのリバース・オークションに参加するには、通行証ともなる特別な“バッジ”が必要だと言う。


噓か誠か、そのバッジには数に限りがある為、ある者はそれを高額な金銭で売り買いしたり、またある者は力尽くで奪ったりと、物騒な噂が絶えないらしい。


「リバース・オークションって……確か専用のバッジがないと入れないんじゃ……」


「勿論そうさ! あれは選ばれた者のみ入る事が許される。この“俺の様に”な!」


ボスはそう言って羽織っていた服をめくった。すると服の裏側、胸裏の辺りに付いているバッジが一瞬キラリと光った。


「それは……⁉」


「ガハハハッ!偽物じゃねぇぞ。正真正銘、これはリバース・オークションのバッジなのさ!」


堂々と、優越感に浸りながら見せびらかしてくるという事は、アレは本物なのだろうと悟ったローラだった。

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