第32話 今日もデイリークエストでサクサクレベルアップ

 ダンジョン61層。

 下へ行くほど光量が少なくなるダンジョンは61層からよりその暗さが増し、おぼろげな青い魔力光が妖しげに回廊を照らしている。



――本日のデイリークエスト


□ダンジョン61層に到達する(61/61)

■ダンジョン61層の魔物を10体討伐する(8/10)

□ダンジョン61層のマップを20%埋める(21/20)



「…………」


 回廊の壁に身を寄せ、息を潜める。

【隠密】スキルによって姿を消し、気配を薄め、獲物が来るのをただひたすらに待つ。




【隠密Lv1】

 消費MP1秒につき1。

 一定時間姿を消し気配を薄めるスキル。

 任意で隠密を解除することも可能。

 スキルレベルに応じて隠密性能が上がる。




『…………』


「(来た)」


 回廊の奥から一匹の虎型の魔獣が出現する。



【タイガーエンペラー】

討伐推奨レベル58

攻撃:S

防御:B-

速力:S+

魔力:なし



 全量4m程の巨体と獰猛な牙を携えたタイガーエンペラー。

 王者の貫録を見せる高いステータスも、この深層に置いては無限に沸き続ける魔物の1匹でしかない。


「(あと3歩)」


 ゆっくりとアイテムボックスからクナイを取り出す。

 忍者としての職業補正に、金属部分が一切ないアーティファクト防具によって無音を維持しながら、刃を構える。


「(あと2歩)」


 タイガーエンペラーは異常に発達した四肢に筋肉の筋を浮かばせ、俺の目の前で立ち止まる。


「(あと1歩)」


『…………?』


 何かを感じ取った魔物が、獣系魔物特有に発達した嗅覚を使い、鼻を動かし匂いを嗅いでいる。

【隠密】による気配遮断と、獣の嗅覚のせめぎ合いは果たして、忍者の勝ちに終わる。


 タイガーエンペラーは感じ取った匂いを気のせいだと判断し、顔を持ち上げ1歩進んだ。

 あと0歩。


「【強襲】」


――疾!


『グラァッ!?』


 突きだしたクナイが滑り込むように太い首に突き刺さる。

 生温かい魔物の体温が手首に熱を与える。


「【急所切り】」


――斬!


 手首を捻り、タイガーエンペラーの肉を抉り、切り裂きながら差しこんだクナイを抜く。

 意識外から急所への一撃を食らい、獲物はその巨体を横たわらせ、灰へと還る。

 急所への一撃に、クナイによるクリティカルダメージを重ねた一撃必殺戦法が綺麗に決まった。



――ピコン


――クナイが【Lv11】になりました。



「ふむ、油断すると武器に精神を支配されるっていうけど、今の所大丈夫だな。むしろ使うたびに強くなるから都合がいい」



――ピコン


□ダンジョン61層に到達する(61/61)

■ダンジョン61層の魔物を10体討伐する(9/10)

□ダンジョン61層のマップを20%埋める(21/20)



「あと1匹か……毎回ギリギリだな。虎の反撃食らってたら回復にかなりMPを割くことになってたな」


 俺のレベルに合わせて難易度を変えるデイリークエストはついに、現在人類が踏み入れたことのあるダンジョンの最先端、61層の魔物を狩れなどという無茶振りをしてくる始末になっている。


 61層で活動する冒険者などおらず、魔物の気配しか感じ取ることが出来ない。

 いるとすればブラックロータスが年に数度遠征攻略をするときくらいだろう。

 ルカを連れていける訳もなく、かと言って眼球が爆発して死ぬと脅されている手前デイリークエストを無視する訳にもいかず、ソロで61層に潜っている次第である。


「まあここの魔物はある意味、ソロの俺に都合がいいか?」


 この階層には群れで活動する魔物がいない。

【隠密】スキルで確実に先手を取れ、かつ一撃で屠ることが出来るなら、1対1という構図は非常に効率がいい。


「さて、このペースだと日暮れ前には帰れそうだ。今日はリエラとルカと一緒に、俺達の引っ越し祝いも兼ねて外食する約束してるからな。早く帰りたい」


 妹の病気が治り、かつ大量の魔石を売り払ったことでかなり経済的に余裕が出てきた。

 ついに貧民街を抜け出し、ダンジョンからは少し距離があるが、治安の良いエリアの下宿物件を借りることに成功したのだ。

 冒険家業で家を留守にすることが多いので、妹のためにも管理人のいる下宿物件がいいと判断した次第だ。


「あと1匹、また【隠密】で待ち伏せして――っ!?」


 ――殺気!


 頭上から強襲してくる新手。

 カマキリ型の魔物が、巨大な鎌のような腕で俺を貫かんとするが、鎌が切り裂いたのは俺ではなく1本の木の幹。


「【空蝉】……危なかった」


 忍者特有のスキル、【空蝉】を使い奇襲を受け流すことに成功する。



【空蝉Lv1】

 消費MP60

 木の幹を出現させ、同時に数メートル先まで転移する。

 Lvに応じてクールタイムが減り、転移可能距離が伸びる。

 クールタイム60秒。



「忍者が奇襲をかけられるとはな……【鑑定】」



【シノビカマキリ】

討伐推奨レベル61

攻撃:A+

防御:B-

速力:SS

魔力:なし

弱点:火属性



 身の丈2メートルを超す巨大なカマキリで、ステータスを見る限り非常に素早い。

 スピードを生かして攻撃を全て回避する俺のスタイルとは相性が悪い。


「仕方ない。正面からやるか」


 アイテムボックスから盗賊のダガーを抜き、クナイと合わせて逆手で構える。

 奇しくもシノビカマキリと同じ構えだ。


『シャアア!!』


「おらぁっ!!」


 硬質化しもはや刃物と化したカマキリの鎌を2本の短剣で捌く。

 刃が重なり、滑る度に火花が散る。

 カマキリの攻撃を時折俺の肉を浅く裂く。

 だがこの程度で俺は止まらない。


――HP2800/3950


 超高速で繰り出されるカマキリの攻撃をいなし続け、あえて隙を見せる。

 シノビカマキリは俺の誘いにはまり、大ぶりの斬撃を繰り出すも、切り裂いたのは【空蝉】によって出現した木の幹。


『ッ!?』


 背後に瞬間移動した俺は、6本あるカマキリの足から1本を奪う。


――斬!


 カマキリは背後に出現した俺に、振り向きざまの一撃を入れるが、


「【ダッシュナイフ――」


 それを上回る速度で回避する。


「――5連】」


 次いで完全に使いこなしたと言っていい愛用のスキルで、残り5本の足を全て切り落とした。


「トドメだ――【虫斬り】」


 カマキリの首が飛ぶ。



――ピコン


□ダンジョン61層に到達する(61/61)

□ダンジョン61層の魔物を10体討伐する(10/10)

□ダンジョン61層のマップを20%埋める(21/20)


――デイリークエスト報酬が受け取れます。



■任意のステータスを【+5】する

■HPかMPを【+50】する

■任意の【スキル】【魔法】のLvを【+1】する



「よし、終わった。早く帰るぞ~」


 前人未到だろう最下層のソロプレイを終えたが、今の俺は達成感よりも妹との夕飯の方が大切だ。

 報酬はエレベーターで1層まで上がる間に済ませようと後回しに、俺は鑑定眼から自動マッピングされるマップ板を出現させ、最短距離でエレベーターへ向かうのであった。



エドワード・ノウエン

レベル67

HP2800/3950→4000

MP2800/3200

筋力560

防御365

速力710

器用395→400

魔力320

運値340

スキル【短剣術Lv9】【双剣術Lv9】【隠密Lv2】【奇襲Lv2】【ダッシュナイフ・5連Lv6】【空蝉Lv1】【瞬歩Lv1】【鬼斬りLv3】【獣斬りLv2】【虫斬りLv2】【急所斬りLv3】【乱れ裂きLv4】【空刃Lv3】【開錠Lv1】【鑑定LvMAX】

魔法【回復魔法Lv3→4】【清潔魔法Lv1】【火属性魔法Lv3】【氷属性魔法Lv1】【雷属性魔法Lv1】【付与魔法Lv4】【強化魔法Lv4】

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