第3話 シスターの少年
「それじゃリエラ。お兄ちゃん仕事してくるから」
「うん、行ってらっしゃい、お兄ちゃん」
朝から咳をして体調がすぐれない妹を置いていくのは心配だが、俺が金を稼がないと妹共々飢え死んでしまう。
リエラの頭を撫でてから、俺は集合住宅を出た。
「あれ? エドさんじゃないですか!」
冒険者協会へ行く道すがら、貧困層の露店街を横切っていると、冒険者の知り合いに声をかけられた。
「ルカか。おはよう」
「おはようございます!」
ちんまりとしたシスター服を着た聖職者。
僧侶のルカ・カインズ。
俺より頭一つ分低い背丈でかなりの童顔だが、年は俺と同じ16。
シスター帽から覗く金色の髪に、白い肌。
金色の髪は生まれつき回復魔法の才能がある傾向があり〝天賦〟と呼ばれているのだが、ルカの僧侶としての実力は下の下。
俺と同じ底辺冒険者である。
ちなみに性別は男。
青い瞳の中に十字架模様が浮かんでいる不思議な目をしているが、これといって特殊な技能を持っている訳ではないらしい。
ちなみに俺は黒髪黒目。なんの才能もない農家出身の平凡男だ。
いや、平凡以下か……?
ルカ・カインズ
16歳
性別:男
職業:僧侶
レベル5
HP25/25
MP30/30
筋力3
防御2
速力3
器用3
魔力10
運値3
スキル【ポーション作成Lv1】
魔法【回復魔法Lv1】【清潔魔法Lv1】
ルカを凝視すると、鑑定スキルが発動してルカの頭上に板が出現する。
「……お前、本当に男だったのな」
「今更なんですか。それより僕のお手製ポーション買っていきません? 1000Gでいいですよ?」
「いやそのポーションってお前のおしっこじゃん」
「効果は変わりませんよ。ついさっき魔導具屋のおじさんも通常の三倍の価格で買ってくれました」
「そのおじさんとあんま仲良くならない方がいいよ」
魔導具を扱う店主が普通のポーションとさして効果の変らないルカのお手製ポーションを通常の三倍で購入する理由など一つしかない。
友人の貞操を守るために忠告しておかねば……。
――ピコン。
【ポーション】
HPが100回復する。
※ルカ・カインズの尿から精製。
「……ん?」
ルカが押し売りしてくる小瓶に入ったポーションの上にこのような文章が浮かび上がる。
そうか、鑑定スキルは人物のステータスだけでなく、アイテムにも有効なのか。
……本当におしっこじゃん。
「それで、エドさんは今日も荷物持ちですか?」
「ああ。前衛で雇ってくれるパーティもいないし、ソロで潜るより戦利品が山分けされないとしても荷物持ちとして雇って貰った方が稼げるからな」
「だったらウチと組みません?」
「いやルカと二人で組んでもさして効率変らんからな。お前ヒール一回しか打てないし戦闘能力俺以下じゃん」
「うう……確かに」
ルカはMPが少なく、一日一度しか回復魔法が使えない。
そのためパーティにも雇って貰えず、もっぱら荷物持ちとポーション販売で生計を立てている貧乏僧侶である。
それでいて道端で怪我している子供にその貴重な回復魔法を使ってしまうお人よしでもある。
「それじゃあ俺はもう行くから」
「はーい」
――ピコン。
――デイリークエストが更新されました。
■仲間を見つける(0/1)
■ダンジョン五層まで潜る(0/5)
■ダンジョン五層の魔物を10匹倒す(0/10)
――デイリークエストを全てこなすと報酬が支払われます。
「……なんだよこりゃ」
視界の向こうに見える時計台が八時を知らせる鐘を鳴らしている。
そのタイミングでデイリークエストなる文章が書き連ねられた板が出現する。
これもロリエルフの手によるものか?
一つ目と二つ目のクエストは、運よくどこかのパーティに荷物持ちとして雇って貰えればなんとかなるが、三つ目が難しい。
5層の魔物であれば移動時間含めて半日使えばなんとか10匹くらいなら倒せそうだが、五層の魔物10匹から手に入る魔石では、妹の薬代を含めれば1日分の生活費は賄えない。
あのロリエルフが何を考えているかは不明だが、明日生きるので精一杯な生活をしている俺からしたら、よく分からないものに付き合っている暇はない。
――ピコン
――デイリークエストに失敗した場合眼球が爆発して死にます。
「怖いわ!!」
畜生。
どうやら拒否権はないということか。
「エドさん? どうかされました? さっきから何もない場所を見てぶつぶつと……」
ルカが不思議そうに金色のまつ毛に縁取られた青い瞳を上目遣いにしてこっちを見てくる。
「……ルカ、今日は一緒にダンジョン潜るか」
「え! いいんですか! ぜひとも喜んで!」
デイリークエストとやらを全てこなせば報酬が貰えるらしいが、それが大したことなかったら恨むぞロリエルフめ……。
――ピコン。
□仲間を見つける(1/1)
――デイリークエストを一つ達成しました。
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