美食家

水野酒魚。

偽教授接球杯Story-1(偽教授さま送球分)

 暗い嵐の夜だった。




 目の前に、大きな建物がそびえ立っていた。立派な建物だった。正確に大きさを測って解説している余裕などはこちらにはないが、ざっと見ただけで縦に三つ明かり取りが見えるから、少なくとも三層以上の構造があるはずだし、奥の方でどこまで建物が続いているのかは、この場所からでは確認できない。




「誰か! どなたか!」




 正面の大きな扉を叩き、叫んだが、出てくる者は誰もいない。おかしい。建物には明かりが灯っているというのに、ここまで外で騒いで叩いて大声を出しているのに、誰も出てこないというのはさすがに不審だ。




「あっ!?」




 ふと、扉が開いた。誰かが中から開けたのかと思ったが、そうではない。叩いた勢いで自然に開いたのだ。どうやら、鍵などはかけられていなかったらしい。こんな大きな建物で、こんな夜更けなのに、鍵をかけていない? 何か様子がおかしいとは思ったが、こちらからすれば好都合ではある。




 ともかく、外は暗くて嵐なのである。とりあえず入り口の少し先までだが入らせてもらい、中から扉を閉じる。簡単な構造の開閉機構があった。勝手なことをするようで悪いが、また自然に開いてしまって風雨が吹き込んできたら嫌だから、閉めた。




「ごめんください! 勝手にあがってすいません! どなたかいらっしゃいませんか!」




 やっぱり誰も出てこない。




「なんか、いい匂いがするような」




 鼻を利かせてみたが、確かにそうだ。これは、なんだろう、あまりなじみのないものだが、間違いなく食欲を刺激する性質の芳香だ。




 誰も出てこない以上、まさかいつまでも今のこの場所に居続けるわけにも、ましてやここで夜明かしをするわけにもいかないので、進んでみる。正面を進むと、上に昇れるような構造になっていた。




 しかし感じ取れる匂いは上からではないという感じがしたので、回り込んでみる。扉を見つけた。それを、さすがに無駄ではないかとはいい加減感じつつも、とりあえずは叩いてみる。




「どなたかいらっしゃいませんか? 勝手にあがらせてもらっています。開けてよろしいですか? お返事がないなら、とりあえず開けさせていただきますが」




 返事はなかった。そして鍵がかかってもいなかった。




 薄々なんとなく、この展開を予想していなかったわけではないが、その扉の向こうには、御馳走が並んでいた。そしてより驚くことには、人やそれに類するものの姿は見えないのに、その御馳走はほかほかと湯気を立てていたのだった。

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