第20話 生きる希望

「勇次、私ね。・・・妊娠したの。」




「・・え?」




「妊娠!に・ん・し・ん!」




先ほどまで深刻な顔をしていた君子。




それがどうだ。




に・ん・し・ん!って言ってる時の君子の顔。弾けるような茶目っ気たっぷりの笑顔。




「に、妊娠って、俺の子?」




思いがけない君子の言葉に、おかしな返答をしてしまった勇二。




「ねぇ!それって失礼じゃない!私が誰とそういう事するんよ!そう、紛れもなくアナタの子よ!」




「ほ、ほ、ほんと?」




弾けるような笑顔で頷く君子。




「驚いた?ちょっと勇二にいたずらしたくなって、ね!」




勇二は思わず君子を抱きしめた。




「い、痛い、痛い!赤ちゃんいるんだから!」




「あ、ごめん、ごめん!」




嬉しさに比例して、強く抱きしめ過ぎていた事に気付いた勇二はパッと君子から離れた。




「そうか!やったなーー!」




今度は赤ちゃんが苦しくないよう君子の手を強く握りしめた。




「そうか・・俺と君子の子か・・・」




「え?勇二、泣いてんの?」




なんか・・なんか知らないけれど、涙が出ていた勇二。




「だって、嬉しいやん。俺と君子に子供が出来るって。」




「・・やだ、私まで泣けてきちゃうやん。」




2人、手を取り合い涙した。




ここ1年くらいはセックスレスだった2人。




でも人間、命の危機を感じると自分の遺伝子を残したくなる本能だろうか?禁欲生活に入る1ヶ月前。無性に君子を抱きたくなった勇二。




まさか子供ができるなんて・・・神さま、粋な事しやがるな。




死ぬかもしれない試合。




生きる希望となる子供。




この相反する感情。




それも全てひっくるめて勇二は生きている実感をひしひしと感じていた。




試合まで残り15日・・・


















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