第9話 7年前の過去・・・
7年前の過去・・・
勇二は18歳で上京し、プロデビュー。デビュー戦を1RKO勝ち。その後も全てKO勝ちで連勝。6戦6勝(6KO)無敗で東日本の新人王になった。
ところが、全日本新人王決定戦で初めて判定負け。
後に聞いた話だと、相手の西日本新人王陣営はハードパンチャーの勇二に手を出させないくらい手数を出しつづけるという作戦だった。その術中にまんまとハマり、手数の少なかった勇二は判定負け。
相手のパンチ力がなかったとはいえ、数をもらってしまうと、やはりダメージは蓄積されてしまう。1Rで左耳の鼓膜を破かれ、右目はバッティングで眼筋麻痺になってしまい相手が2人に。平衡感覚が狂い、2人になった2択の相手もハズレ続け、ズタボロになりながら最終ゴングが鳴り試合終了。
相手の選手は、試合後、あまりの疲労で脱水症状となり病院に運ばれたらしい。勝ちにこだわる執念の差が出た試合だった。自分のパンチ力に慢心していた勇二にとって、この敗戦は価値のある負けであった。それからは、パンチ力だけに頼るボクシングから脱却し、テクニックも身につけた。
そして、日本ランキング入りをかけた賞金トーナメントで優勝。10戦10勝(10KO)1敗。日本スーパーバンタム級10位になっていた。
プロとして最も勢いがあったある日。
「勇二!ビッグチャンスが巡ってきたぞ!」
いつものように練習の為、ジムに着いた勇二に、トレーナーが興奮した様子で駆け寄ってきた。その手には雑誌が握りしめられていた。
「この選手知ってるか?」
トレーナーが開いたページには、ある外国人ボクサーの記事が一面に載っていた。
“ヘスス・ゴンザレス”
メキシコのスーパーバンタム級の選手で、デビューしてから10戦10勝(KO)無敗。しかも全て1RKO勝ち。あまりのパンチ力に、負けた選手のダメージが甚大で、再起不能になった選手もいるという記事を以前、読んだ事があった。
世界ランキングにも入っており、破竹の勢いでスターダムに現れた選手だった。
「このゴンザレスが日本の選手と試合がしたいと、日本チャンピオンから順番にランキング上位に声をかけていって、皆、選手生命が断たれるかもしれないと恐れて断って、10位のお前に声がかかってきたんだ!おまけにファイトマネーと別に、1Rもったら100万円の賞金をくれるそうだ!」
その時、勇二は日本スーパーバンタム級10位だった。
「勝ったら世界ランク入り、おまけに1Rもったら100万円?めちゃくちゃおいしいじゃないっすか!」
ダウンした事のなかった勇二は本気で勝つ気でいた。日本チャンピオンですら避ける程の危険な相手。勇気のあるボクサー、侍ボクサーだとマスコミにも取り上げられた。取材も殺到し、一躍時の人となった勇二。あまりの話題に、タイトルマッチでもないのに異例のテレビ放映も決まっていた。
だが、神様は残酷な結末を用意していた・・・
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