第7話・魔都の亡霊王
物音などで平地に居たスケルトンが一斉に自分達に向き襲ってくる。勇者が前衛で突き進み両手剣で邪魔なスケルトン達を盾をごと吹き飛ばしバラバラにした。細い十字の剣だが、長さのため重たいのだろう。スケルトンがどんどんバラバラになる。
「よし、まだスケルトンが集まってない。全力で魔都の中を走れ‼」
勇者の叫びと同時に自分達は瓦礫を乗り越えて走る、走る。魔都は瓦礫の山が散見されるが綺麗に町並みが残っており、昔は栄華を極めた都市だったのか素晴らしい建築技術だったのが伺える。エルミアが先頭に躍り出て、指を差した。
「奥にある王の間に扉があるはず。中に逃げ込めばスケルトン達は入ってこない。絶対、彼らはそんな不義を行わない」
エルミア嬢が先頭で走り、自分達はそれを追いかける。余は疑問を口にする。
「意識がないのではないのか?」
「もしかしたら、まだ彼らに意識があれば勝手に王の間に来ない筈。いいえ、感覚で来ない。それは魂に刻まれてる」
「わかった!! 王の間は分かるんだな!!」
「もちろんよ」
迷いなく、彼女は走り抜ける。走る後ろをぞろぞろ骨の兵士が集まり出した。
「ネフィア!! エルミア嬢!! 二人はそのまま、俺がここを押さえる!!」
「勇者!? あんな数を相手に出来るわけなかろう!!」
「トキヤ殿…………頼みます」
「ああ、ネフィアを頼む。後で追いかける」
勇者が止まり剣を構え直して逆走する。そして一団に斬りかかり、勢いよく吹き飛ばしていく。逞しい背中が何故か大きく見え、その場で立ち止まって勇者を見てしまう。
「ネフィアちゃん!! 走る!!」
「あ、ああ」
勇者を置いていくのが少し不安に感じながら先へ進んだ。後方で激しい金属音のぶつかり合いが聞こえる度に後ろが気になってしまう。しかし、激しい音とは裏腹にスケルトンが一切追ってこなくなり、安全になる。
「すごいね、彼。怖じ気づく事なく立ち向かう」
エルミア嬢が感心しながら歩を緩めた。追手がおらず、そのまま脇道に入り込み、案内してもらう。
「こっちの方が近い。さぁ行きましょう」
「うむ……」
迷いない歩みに少しだけ、余は疑問が生じる。なぜこんなに詳しい事に疑問を持つ。
*
「あー多い、しかも何故か俺ばっかり狙ってくる」
スケルトンを剣でバラバラに蹴散らしながら考える。本来は逃げた方にも一部でも追っていく筈なのにまったく目もくれず自分を倒そうとし、目の敵のようのしつこく戦いを挑んでくる。しかし、スケルトンには剣を振る。盾で守る等の簡単な動作しか出来ない故に弱く。人間の方が何倍も強い。しかし、アンデットは倒せども復活する厄介さが嫌われている。
「何故、こんなにも俺ばっかり狙う? それでいいが……」
剣で叩き付け、錆びた剣と錆びた盾を壊しながら考える。「何に反応しているのか? 何を敵と思っている」かを考えながら戦う。
「さぁ、どうするか。じり貧は避けたい」
戦いながらも糸口を探る。臭う、絶対にこいつらを誘うなにかが俺にあると考える。
「魔都は確か………滅んだ理由は魔物と長期の戦闘後。死霊術の副作用だったな」
心臓の辺りから熱いものが感じられる。力をつける方法の一つで試した人を辞める方法を思い出す。
「なるほどわかった。『魂』がお前らを誘う香りか」
スケルトンに近付き。一団の脇を走り抜けた。スケルトンの体に手を当てすり抜ける。すると触れたスケルトンを他のスケルトンが襲い出し、己の考えが間違いでない事を理解した。同じ事を繰り返すとスケルトン同士が相手を倒そうと同士討ちを始める。
「屍は何を見て襲うか分からなかったが。魂を見ているんだな。勉強になった…………では、あげよう少し。魔物から剥いだ魂を。俺はもう要らないからな」
俺はスケルトン1体1体に同じ作業を行うことにした。永遠に同士討ちをすればいい。自分には関係ないことだと割り切って行う。
スケルトンは魔物の魂を見つけて襲うようになっており、魂食いをした俺に反応し。そしてそれは森の中まで範囲が広がっていたのだろう。どうりで森に魔物の気配がなかった。
「一生戦ってろ、過去の亡霊ども」
俺は自分の魂を隠し、魔法でネフィアが何処へ行ったかを調べ追いかけた。
*
余は二人で歩き抜けた先で大きな扉が砕け、大きな白骨した魔物の亡骸と剣などの武器などが散らかっているのが見えた。
その瓦礫を乗り越え扉の中に入ると、今度は大きな柱が両脇でお出迎えし、中央の玉座に座る黒い物が見えた。黒い物をよく見ると黒い錆びた騎士が頭を垂れている物だとわかった。大きな錆びた剣のような鉄塊を掴みながら一切動きがない。
「マクシミリアン王…………」
そんな亡骸にエルミアが羨望な眼差しで見つめ名前を呼ぶ。
「マクシミリアン王!?」
「ええ、彼が私の探していた獲物です」
「肯定」と言うことはここは本当に玉座の間。王の謁見の場である。自分も同じところにい居たがここは重々しい空気が一段と漂っている気がした。
「生きているのか!?」
「いいえ、死んでいますが囚われてる。ここに最後の王として………魔物と盗賊から戦い続けてます。永遠に」
ザシュン!!
金属音が響く。玉座に座る騎士が立ち上がり、錆びた大剣を地面に突き刺す。昔は綺麗だっただろう大理石の表面は艶もないただの石となり、剣に砕かれている。
金属のこすれる音が玉座の間に響き、一歩一歩と彼は歩きだした。
「構えよ。魔王!!」
エルミアの声に賛同し剣を抜き、片手で構える。剣の持たない方で即席魔法を打ち出すために呪文を唱えた。
一定の距離で彼は歩みを止め顔を上げる。兜の中を覗き込むが目は見えず、兜の中は黒いモヤしか見えなかった。
ぎちっ………
鎧がきしむ音が響いた瞬間、王が走り出して一気に距離を詰められる。そのまま剣を大きく振りかぶった。余の目の前で。
「!?」
自分の目の前。速くて全く何も出来なかった。
「なっ!?」
体が、ブルッと震える。目の前でわかる殺意が背丈を倍以上に大きく見せる。プレッシャーで体が縮こまってしまう。
「死ぬ」と一瞬で沸き上がり。心が恐怖に震えた。初めて感じた絶対に殺される感覚。暗殺されるかもしれない過去の恐怖を思い出させた。
「何を!! ボサッとしているの!!」
「ファイアーボール!!」
激励で我に帰り、顔に向け覚えたての魔法を打ち出す。彼は顔を曲げかわしたあとに剣が降り下ろされた慌てて片手の剣で防せごうとする。動きについて行けた。
「んぐぅ!?」
ガッキン!!
大きな金属音。方手が痺れ、額に防いだ剣がぶつかる。頭に強烈な衝撃と痛みに声がでた。意識が飛びそうなのを我慢。剣がひじょうに重たい。「両手で防がないと…………こいつ!! 片手で剣を持ってる!?」と思い唇を噛んだ。力負けしてると。
そのまま「ふっ」と剣が軽くなる。しかし、次の瞬間右頬に拳の感触が触れた。視界が明後日の方向を向き、痛みと目の前が真っ暗になる。痛みはすぐにやってこない。
「ネフィア!!」
エルミアの声が耳元で聞こえた気がした。そのまま余は地面に転がり気絶した。
*
冷たい首輪と木の手錠。
ここは、何処かは考えない。
私は人形なのだから。
「おい!!」
「はい………なんでしょう………今日は何人ですか………」
「はは、一人だ」
「はい………ご主人様」
そう言ってご主人様は手錠と首輪を外し、服を破り。胸を揉み。いつもの事をする。
数分後、白くベタつく何かが体を汚した。
「さぁ水で体を綺麗にしろ。そしてこれを着ろ!!」
ご主人様に用意していただいた水で体を拭き、何か白い服を渡される。着方がわからないのでご主人様に着せて貰う。
「よし、では行くぞ‼」
布を被され、歩きだす。
「……………」
どこへ行くのか。興味はなかった。
いっぱい人の声がする。布の隙間から赤い絨毯が見える。「いっぱい人がいる。全員相手をしろと言われるのだろうか?」と考える。
ついていった先で、ご主人様が喋りだす。
「マクシミリアン様!! お時間を取らせてしまい申し訳ありません‼」
「ふん………気にするな」
男の重々しい声が響き渡る。
「では、マクシミリアン様!! 見ていただきましょう‼」
勢いよく、私の被せてある布が取られた。いっぱい人が集まり、皆が私を見る。
「なんと!! 魔国の住人。亜人のエルフの女の子です!! 拾った時は小さい子でしたが‼ 今では、胸も尻も足もしっかりした肉付きの人形です‼ どうでしょうか?」
自分は顔を下げたまま、ご主人様の言葉を聞く。何をすればいいのだろうか?
「顔をあげさせろ」
「おい、顔を上げろ。王様が見たいそうだ」
「はい………」
顔を上げ、目が合う。逞しい体にホリの深い顔が私に向いている。
「…………幾らだ」
「ははは、私どもに商売の出来る権限を頂ければ。無料でございます」
「よかろう。すぐ手配しよう。寝室へ連れてけ」
「はは………わかりました。ほら、行ってこい」
背中を押され、一歩前へ出る。一人の兵士に案内され豪華な部屋に閉じ込められる。ただボーっと部屋を見渡したあと。座り込んだ。
日が沈んでいく。
何もない。
ガチャ‼
「おわっ………な、何をしている。扉の前で」
今さっきのホリの深い人だ。
新しいご主人様だろう。
「………ご主人様。何をすればいいでしょうか?」
「なるほど。もうすでに調教済みか」
体をジロジロと眺めていく。
「体を洗ってこい兵士に聞いて………綺麗にな」
頭を撫でられる。優しい撫で方。
「あっ………う」
「では、行ってこい………ん?」
自分は手を掴む。撫でられた手を。
「……………わかった。もう少し撫でてやろう」
優しそうな声で、ご主人様は私に接する。
「そう言えばお前の名前を聞いていなかったな。名前は?」
「エルミアです。ご主人様」
*
「ごほ!? ゲホ」
金属の激しく打ち合う音が耳に届く。冷たい床に砂を少し噛んだのを吐き出す。気絶して夢を見ていたが、余は起き上がれた。
「エルミア?」
名前を聞いた、夢の中で。そんなことよりも体を起こしたのだ。顔もお腹も痛みを発するが寝ている暇じゃない。目の前で銀色の騎士と黒い錆びた騎士が剣を打ち合っている。それを余は……悲しい事だと理解する。
「マクシミリアン王!! 私をご存知ですか!! 覚えていますか‼ エルミアです!!」
エルミアが彼に何度も何度も繰り返し声をかける。至るところ鎧が壊れ、傷がつき、ボロボロとなっていた。自分が倒れている間に、相当の数を打ち合ったのだろう事が伺え、自分は焦りを感じる。互角じゃない。剣を弾かれ防戦一方だった。
「お願いです!! お声を聞かせてください‼」
ギャアアアアアアアン
「あっ!」
黒い錆びた騎士が大きく剣を振り上げエルミアの剣をはね除ける。胴ががら空きであり、そこに剣が突き入れられることを理解し、からだが勝手に動く。
「………あなたに殺されるなら」
「諦めるなぁああああ!!」
ヒョン!!
自分は転がっている錆びた剣を拾い投げつけた。エルミアの目の前に錆びた剣が回転しながら過ぎ去った。そして、何度も錆びた騎士に向け、近くにある錆びた剣を投げつけ続ける。それを彼はしっかりと弾く。
「ネフィアちゃん!! 起きたの‼」
「すまない!! 気絶してた」
剣を拾い、投げつけ続ける。とにかく気を反らせるしかできない。自分は弱い。彼に勝てない。一瞬で転がらされた。悔しいがわかる。エルミアは床にへたり込んでいる。疲れが顔を歪ませている。そう、生きてる者との差。体力が違う。
「くっ!! 魔法を………」
唱える時間が欲しい。いや、今唱える。
ギュルン
「ネフィアちゃん!! 避けて‼」
錆びた黒い騎士が錆びた剣を撃ち落とさず、空中で掴んだ。そして体を一回転し投げ返してくる。
投げ返された凶刃が目の前に迫った。魔法を使おうとする一瞬の差で自分は逃げ遅れる。これは、額に刺さる。心が恐怖で埋め尽くされた。嫌だ、死にたくない。 私はまたその場を動けなくなるのだった。
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