メス堕ち魔王の冒険

水銀✿党員

第1話・全ての始まり


 ここは魔国の都市イヴァリース。魔王城の玉座の間。誰の玉座? もちろん余である。


 そして今日は命知らずの勇者が目の前に立っている状況。他の部下は勝手に逃げ出した。「使えないやつらだ」と言えばいいだろうが余の立場はそんなに強くもない。


 問題の暗殺者の勇者はここまで来る者で衛兵等では敵わないであろう事も考えられる。


「初めてだ。わざわざ敵国に潜入し我を倒そうとする者が現れるとは……」


 余は自虐をのべて玉座から立ち上がる。魔剣を肩に担ぎ赤い絨毯を歩いて構える。人間は勇者と言うものをたまに輩出し、魔王を倒そうとする。それが伝統なのか、使命なのか知らないが。無様と思う。一人で暗殺して来いと言われ使い捨てるのだから。


 たった一人で他国に来るのだ。


「ふふふ、ここまで来たのだ。名を聞こう、人間の勇者よ」


 偉くもない余は偉そうに声をかけた。


「トキヤって言う。魔王さん」


 皮の軽装に黒のローブを羽織った勇者トキヤが不敵に笑う。嬉しそうに……そして……優しそうに。泣きそうな声にさえ聞こえた。


「なぜ笑う?」


「いや、なんでもない。なんでもないんだ。それよりも名乗らないのかい? ネファリウス」


「知っているじゃないか勇者よ!! さぁ構えよ!! 余はここにいる」


 自分は魔剣を構える。魔法より、剣のほうが得意だ。得意と信じたい。余は強いと信じたい。例え……長く閉じ込められて、傀儡だとしても。今を生きたいなら……戦うしかない。


「構えろって……これのこと?」


 勇者が一本のナイフを取り出す。それはあまりにも小さく、10センチ程度で拍子抜けしそうなほどだった。


「冗談はよせ。そんな小さい剣でどうやって戦う」


「すまん、今はこれしかない。重いのは持ってこなかった」


「はっ?」


「この一本しか持ってないと言っている」


「その一本でここまで来たのか!?」


「ああ」


 勇者とは恐ろしく強いものだとこの瞬間理解する。あのナイフでどうやって魔物を狩ってきたのがわからない。どうやって旅をしてきたのかわからない。わからないからこそ恐れる。背筋が冷える。「果たして自分は勝てるのか? いや……勝つしかない。勝つしかない」と言い聞かせる。


「まぁいい。そんな武器なぞ、死ぬ奴には関係ない」


「そうかな? 俺はこれからだと思う。これから始まるんだ」


 余裕を見せた勇者に私は身体の異変を感じた。


「いったい何を……うぐっ!?」


 体が熱いく全身が痛み、その痛みで身を捻る。


「な、何をした!!」


「『今』は何もしていない」


「今は!? どういう……ぐぅ」


 カランカラン!


 魔剣を落し乾いた金属音が部屋に響く、膝が折れ、床に手をつき。胃がむせ返るような頭痛に苛まれる。「こんな終わり? 自分の人生はこんな終わり方なのか? こんな……何もない人生」そう頭で悲しんだ。


「いや、だ……」


 余は苦しみながら「何も知らず、この世を去るのかと 幸せも何もかもわからずに」と何度も何度も考える。


「はぁはぁはぁ、卑怯だぞ!! 勇者!!」


「うん、そうだね。卑怯だ。でも、我慢してくれ……」


 勇者が我の肩を優しく撫でた。その勇者の後方に人影が見える。


「まだ死んでいなかったのですか?」


「お前は……トレイン!! 逃げ出してたのではないのか!!」


「ええ、お伺いに来たのですよ。いやー苦戦しているようで……なにより」


 赤い絨毯を彼は堂々と歩く。トレインは優秀な部下であり、四天王を選び。魔国首都を大きく強くした。そして……余を閉じ込めて管理していた人物でもある。余が傀儡で、彼が主人だ。


「トレイン!! 勇者を倒せ!! こんな卑怯者なぞ消してしまえ!!」


「そうですか? わかりました」


 トレインが杖を構える。私に向けて、そして……「ああ、そう言う事か」と納得もする。


「一緒に消えろ、魔王!!」


「トレイン!! 裏切るのか!!」


 裏切るとか叫んでも意味はない。そう言う存在だ。


「いいえ!! あんたは勇者に討ち取られた。そういう話ですよ!!」


「トレイン!! きさまぁああああ!! どれだけ余を不幸にすれば……」


 杖に魔力が集まり。黒い魔法球を打ち出す。それが迫る瞬間に目の前に勇者の余裕をぶった顔が見えた。目の前が暗くなっていった。そこで自分は死んだと知り……失意のまま。余は意識がなくなった。

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