友人に可愛い女の子紹介してって言ったら、グリフォンを紹介されました

鯨井イルカ

第1話 見間違えじゃなきゃ、彼女グリフォンだよね?

 都内某所にある、マンションのリビングにて。


 会社員の佐藤ヒロシは深いため息をついた。


「あのさ、このあいだの飲みで、可愛い子紹介してって言ったよな?」


 問いかけた先では、友人の山本アツシが爽やかな笑みを浮かべていた。


「うん。『猫っぽい目と、鳥っぽい口元の子』っていう、けっこう具体的な注文だったよね」


「ああ、そうだよ……」


「だから、彼女を連れてきたんじゃないか」


「たしかに、見方によっちゃあ条件を満たしてるのかもしれないけど……」


 ヒロシはアツシの隣に、視線を移した。


 獅子のような瞳。


 猫耳のような純白の飾り羽根。


 大型の猛禽類のようなクチバシ。



 そこにいたのは、まぎれもなく――




「……どう見ても、グリフォンだよね?」


「ピィー!!」



 

 ――そう、グリフォンだった。



「うん。まあ、目は猫っぽいていうか、ライオンっぽいけど……、同じネコ科だし大目に見てよ」


「いや、気にしてるのはそこじゃなくてだな……」


「じゃあ、クチバシのほう? 水鳥っぽいの方が好みなら、河童になるけど……、河童だと猫要素はないしなぁ」


「そこでも、ねーよ!! なんで、女の子紹介してって言われて、当然のようにファンタジーな生物つれてきてるんだよ!?」


 ヒロシが激昂すると、アツシはキョトンとした表情で首をかしげた。


「えー、でも、女の子だし、可愛いよね?」


「たしかに、可愛いかもしれないけど、グリフォンだぞ!?」


「あ、よかったね、ぐり子。ヒロシが可愛いって」


「ピィー!」


「発言の一部だけ抜き取るな! あと、そんなお菓子メーカーみたいな名前なのかよ!?」


「うん。一羽ばたき、三百メートルくらいの速度で飛ぶよ」


「どのくらいの速度か、いまいちわかんねーよ!」


「えーと、音速よりちょっと遅いくらい」


「だいぶ速いな!?」


「あ、また褒めてもらえたよ。よかったね、ぐり子!」


「ピィ!」


「褒めてねーよ!」


 全身全霊でツッコミを入れ終えると、ヒロシは大げさなため息を吐いた。


「色々と言いたいことはあるけど……、どっちかって言うと、ペット枠だろ。いや、グリフォンをペットにするのも、どうかとは思うけど……」


「ピィ! ピィィ!」


「ふむふむ。えーとね、ヒロシ、『ぐり子的には大切にしてくれるなら、ペットでも構わないよ!』だって!」


「俺的には構うんだよ!」


「えー、でも、このマンションって、たしかペット可の物件だったよね?」


「そうだけど、世話の仕方とか分かんねーよ! 大体、グリフォンって何食うの!?」


「ピィー! ピィィィ!」


「馬肉とか、牛肉とかが主食だって。一日、五キロぐらいは食べるってさ」


「一日五キロって……、けっこう高額だぞ!?」


「ピィ!」


「ふんふん。『ちゃんと、狩猟免許を取って猟師として働いてるから大丈夫!』って言ってるよ」


「それはすごいな!?」


「ピィィィ!」


「うん、たくさん褒めてもらえてよかったね、ぐり子」


 得意げな表情を浮かべるぐり子とアツシとは対照的に、ツッコミに疲れたヒロシはげんなりとした表情を浮かべた。


「ともかく……、お付き合いするのは難しいので、お引き取りください……」


「そっか……、この様子だと、本当にダメっぽいね……」


「ピィ……」


 かくして、リビングには、ぐり子の悲しそうな鳴き声が響いたのだった。

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