紺色のひだが揺れた。冷たく乾いたシャツが地肌を撫でる。窓から差し込む暖かい光が白い肌を赤く染めていた。下校中の子供達の笑い声が、家に帰るカラスの鳴き声が、近くの中学の運動部の掛け声が、耳を通って、心臓をグッと握りつぶす。

ひたすらに惨めだった。


「行ってきます。」

誰もいない家にそう告げて、玄関の鍵を閉めた。さっき着替えを済ました頃にはまだ夕陽が街を赤く染めていたのに、もうすでに陽は落ちていて青白い街灯がほのかに明かりを灯している。六時発の電車に乗り過ごすわけにはいかない。早歩きで、薄暗い住宅街を急いだ。冷たい風が髪を乱し、制服の裾をはためかせた。歩き慣れたその道に不安を覚えることは無かったが、冬の冷たい暗闇は彼女を大きな空虚感で包み込んだ。途中、何度か人とすれ違ったがどれも会社帰りのサラリーマンかと思われる風貌で、制服を着た高校生は見られなかった。ほっと、小さく胸をなでおろした。

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