坪庭
謎めいた熱に操られるように一直線の廊下を突き進んだ先で壮史を待っていたのは、囲み廊下に守られているかのような、こぢんまりとした坪庭だった。
月明りか、照明か。
淡く照らされたそこを認識した途端、忙しなかった足の動きを鈍くさせながら近づき、坪庭とこちらを隔てる硝子窓にゆっくりと両の手を当てた。
ひんやりとした冷たさに微かな不快感を抱きながらも、けれど離す気にはなれず、そのままの体勢で注視する。
淡い光を漂わす、小さな灰色の石灯籠。
一面に敷き詰められた白く尖った小さな石。
中央に植えられている石灯籠と同じ高さの花無き植物と、四方の廊下からそこに辿り着くまでの道となる、黒くざらついた飛び石。
あれはなんだ、と、僅かに疑問が頭を擡げるも。
植物を特定しようとは思わなかった。
興味がなかったから。
近づきたくなかったから。
会話の種の一つになると思ったから。
顔は、全身は火照ったまま。
けれど、平常心は取り戻していた。
「神路。凛香は」
ジイと共に追いかけてきた神路に名を呼ばれて、振り向かずに尋ねた。
好きだったらいいと思いながら。
(2022.1.19)
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