かたくり
なんて楽しそうに走っているんだろう。
好きで、好きで、大好きだって。
全身から感情が迸っていた。
あーゆーのを持っているやつだけが生きてられるんだろうな。
第一印象はきっと、最悪で。
できることなら、もう視界に入れたくさえなかったはず。
なのに。
二度目の邂逅は一度目よりもずっと近くの距離で。
仕事仕事でめったに帰らない両親への寂しさや悲しさ、怒りが抑えきれずに公園のベンチで泣いていた時。
あいつに気づいた。
草むらに這いつくばって何かを探しているようだ。
どうせ四葉のクローバーでも探しているに違いない。
頭が花畑で埋め尽くされてそうだもんな。
見つけたらいいことがあるって大喜びするんだろう。
なんて莫迦らしい。
心中で毒づいて、視界に入れまいと上瞼を下瞼に押し付けた。
少し離れたところで見守ってくれているジイには悪いが、せめて涙を出し尽くすまで待っていてほしい。
早く。
はやく、
身体から全部涙など出し切ってしまえ。
今後二度と流してしまわないように。
「あー、ごめん。君の足元に咲いている花を取りたいから、ちょっと右側に移動してくれたら助かる」
「………」
自分に話しかける前に阻止すべきだろうとジイの職務怠慢を憤りながらも、素直に身体を移動させた。
「ありがとうな。いやー。この花をすっごく必要としていたから助かった」
陰鬱な感情など微塵もない、いきいきとしている声。
(ああ、いやだいやだ)
聞いていたくない。
目に続いて耳も塞いでやろうか。
反面。
顔が見たい。
欲求が生まれる。
サイダーの小さな泡のように。
微かに揺らめきながら浮上して、空に飛び出た途端、飛沫を上げて戻る。
サイダーの中に。
空気の中に。
何度も、何度も、何度も。
(出し切れねえし)
内心で、乾いた笑い声を一度だけ立てて。
ゆっくりと上瞼を押し上げたのに、瞬時に上瞼を押し付けた。
眩しかったのだ。
とてつもなく。
「ジイ。なんの花だったんだ?」
「かたくりの花です」
「そうか」
根ごと持ち去ったのだろう。
掘り返した跡を見下ろしていたが、ふと気になってジイに調べさせた。
(初恋に、寂しさに耐える、か)
花言葉を知るなど、うすら寒いことをしているのは百も承知だ。
「
「ああ」
下瞼に滲む涙はまだ当分乾きはしないだろう。
(2022.1.7)
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