LAPSE TOWN

飛永英斗

プロローグ 

 街は今日も、何も変化がない。異変が起きている事に気づいてないだけかもしれないが、気づけないという事は幸せなのかもしれない。


「それではここで、本日のラプスタウンの様子を見ていきましょう。ハンベル濃度は20パーセントと、安全圏になっております。また、ここ一週間の間ケガ人の報告は無く、関係者は安心して立ち入る事が出来るでしょう」


 街行く人々は暗い顔をしている中、朝から元気そうに、新人アナウンサーはそう話した。

 政治や芸能界のニュースは見なくても、このコーナーだけは、ほぼ毎日欠かさず朝、高いビルにあるモニターで視聴するようにしている。大通りのオブジェに寄りかかり、片手に一杯のコーヒーを持ちながら。


 "次のニュースです”という台詞が聞こえた後にはもう、その場から立ち去っていく。

 現代人の朝というのは、とても忙しい。俺、鷹眼たかめシンヤもその一人である。忙しい現代人にのんびりとしている暇がないのだ。


 ラプスタウンへの入場時間は、朝の八時からとなっている。今日は仕事が多いから、朝から入場しないと終わる気がしない。


 一体、何の仕事をしているんだ? という疑問の前に、ラプスタウンについて説明しようと思う。


 ラプスタウンは元々とても賑やかで、周辺でも有名な町であった。そう、までは……。


        ※


 とても雨が強い日の午後だった。当時小学生だった俺は、小学校で算数の授業を受けていた。

 突然、空が光り輝き、轟音が町中に響いた。その音と同時に、爆風が学校……いや、町全部の建物を襲った。

 ガラスが割れ、女子生徒の悲鳴が響く。

 ただの風などではなく、熱く、溶けてしまいそうな熱風だったのを、今でも覚えている。


 「……一体、何が起きたんだ?」

 「わ、分からないぜ……」


 俺と俺の親友、犬山チョウキは廊下側の席だったので、被害は腕に擦り傷が入る程度で済んだ。だが、殆どの生徒は重傷で、後から聞いた話によると、俺らみたいなのが居た事は奇跡だったようだ。


 「タケル! ミミ! しっかりしろ!! ……早く救急車を呼ばないと……おい、あれ見てみろよ」

 「何だよ、そんな驚いた顔して……」


 チョウキはベランダから外の様子を見ていた。俺も合わせて見ると、そこには自分の目を疑いたくなる光景があった。

 得体の知れない、黒く触手が沢山の怪物が、街をウロウロしていた。

 そして怪物は、そのまま俺たちの居る学校の入り口へ入ってきた。


 「シンヤ、どうするんだよこれ!?」

 「そんな事言ったって、直ぐに解決策が思い浮かぶ訳ないだろ!! とにかく、クラスのみんなを守らないと……」 


 キャアアアアアア!!!!


 奥の教室で、悲鳴が聞こえた。黒い怪物がもう、ここまで来たのだ。


 「まずい! もうこっちまで来てるぞ! ショウキは前のドアの鍵を閉めろ!」

 「おう! お前は後ろな!」


 俺は後ろのドアが開かないよう、力いっぱい閉めた。後ろには鍵が着いてないから、自分で閉めるしかなかったのだ。


 ペチャ…ペチャ…と耳障りな足音が聞こえる。オレの心臓はとてつもない速さで鼓動していた。

 守らなくちゃ…死ぬ…。



 ドォォォン!!!



 俺の思いは、ドアと共に、無惨に打ち砕かれた。

 怪物は触手でドアをぶち壊し、不気味な笑顔を浮かべ、こちらを見てきた。

 もうダメだ、ここまでなのか……。


 そう諦めかけてたその時、窓から誰かが入ってくる音がした。


 「伏せろっ!!」


 年齢は多分、俺たちより少し上だ。僕はその声に反射するように、その場にしゃがんだ。そしてすぐ一秒後、お兄さんは俺の上の飛んだ。


 恐る恐る顔を上げると、お兄さんは怪物の胸を目掛けて、ドロップキックをかましていた。


 「お前たち早く外へ逃げろ!!」

 「そ、そんな事出来ないぜ! まだ倒れている友達が沢山いるし!!」

 「安心しろ、俺が全員助けるから、さぁ早く行け! 俺を信用してくれ!!」


 全く知らない人にそう言われたって……いや、ここは素直に言う事を聞くべきだ……。


 「チョウキ、ここはお兄さんに任せよう。あの怪物に立ち向かえる程だから、きっとみんな助かるはずだ」

 「……俺も同感だ。ベランダの非常階段から出ようぜ……お兄さん! 後のみんなを任せたぜ!」


 そして、俺とチョウキは、お兄さんに全てを任せ、非常階段を降りていき、地上へと降り立った。

 階段をおりて直ぐに、一台の車が止まっていた。近づくと共に、窓が降りて、一人の女性が顔を出した。


 「坊や達、早く車に乗って! 私達はあのお兄さんの仲間だから!」


 一瞬戸惑ったが、俺らは直ぐに車へ駆け込んだ。ショウキがドアを閉めた瞬間に、車が走り出し、道路の方へと出た。


 窓の外は、言葉通りの地獄だった。建物は殆ど倒壊、あちこちで人は倒れている。俺はこの現実から目を逸らしたくなった。そして自然と、涙が手の甲に落ちてきた。


 「……泣きたくなるのも無理ないわ。小学生には刺激が強すぎるわよ、これ……」

 「い、一体何が起こったんだ?」

 「──悪いけど、私にも分からない。原因を調べる前に、私達は住民の避難を誘導しなくちゃ行けないの。私はキョウコ。ラプス安全協会の一人よ……って、寝ちゃったか」


 俺らは目まぐるしく過ぎていく出来事に疲れて、眠ってしまったようだ。





 あの時のお兄さんは、約束をしっかり守ってくれた。だが、お礼はまだ言えていない。

 あれからもう7年も経過した。ラプスタウンに住む人は少なくなり、近寄る人も殆どいない。


 だが、俺にはある力がある。という力だ。

 何を言ってるのか分からないと思うが、これは小学二年生の頃に目覚めた力だ。


 同じクラスのミミが、ぬいぐるみを無くしてしまい、一緒に探すことになった。

 探し始めて数分、僕の頭に一つのビジョンが映し出された。花壇に半分埋まっている、ぬいぐるみが見える。

 俺はすぐ様ミミを連れてきて、花壇へと走っていった。辿り着くと、俺が頭で見たビジョンと全く同じように、ぬいぐるみが埋まっていた。

 その後も何度か友達に頼まれては、探し物を発見していった。この力を持っているのをいい事に、俺は今、これで商売をしている。


 依頼者が、ラプスタウンで落としてきたであろう落し物を、俺が代理で探す、という商売だ。

 だから俺は、毎朝ラプスタウンの情報をチェックしてから、ここに来ているのだ。


 

 そうこう話している内に、目的の場所へたどり着いた。大きくそびえ立つ門の脇に、一人の警備が椅子に座りながら新聞を読んでいる。


 「シンヤくん、おはよう」

 「おはようございます」


 ラプスタウンの門番的存在の、入り口にいるジュウロさんに、通行許可証を見せながら、門を通る。


 「今日の依頼はどのくらいなのかな?」

 「十軒です。なので今日は一日泊まる事になりそうなのですが……」

 「気をつけなよ、今日はハンベル濃度低いからいいけど、いつ上昇するか分からないんだから」

 「分かりました。それでは、行ってきます……」


 あの時の怪物は、今でもよく出る。ハンベル濃度は、言わば出現率みたいな物であり、高ければ高いほど、遭遇しやすくなるのだ。


 俺はそんな危険な目に一度会ったくらいで、退く程腰抜けではない。困ってる人の助けになれるのであれば、後悔などしない。


 さて、本日最初の依頼はどこだろうか……。

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