猫又商人-人と妖-

夏艸 春賀

声劇台本

《諸注意》

※なるべくなら性別変更不可。

※ツイキャス等で声劇で演じる場合、連絡は要りません。

※金銭が発生する場合は必ず連絡をお願いします。

※作者名【夏艸なつくさ春賀はるか】とタイトルとURLの記載をお願いします。

※録画・公開OK、無断転載を禁止。

※雰囲気を壊さない程度のアドリブ可能。

※所要時間約15分。男1:不問2の三人台本です。



《役紹介》

猫又商人ねこまたしょうにん

森の奥でひっそりと暮らしている

三毛の山猫だったが、聖域と呼ばれる山で育った為、猫又になった

不問



名もない男

猫又商人の噂を聞きつけて山に迷い込む人間

年齢等はご自由に



ナレーション

雰囲気を大切に

不問



《配役表》

商人(不問):

男(男):

N(不問):




↓以下本編↓

────────────────────



「ここは鬱蒼うっそうとした森の中。木々は生い茂り野生の生き物達が伸び伸びと過ごしている。人も通らぬ獣道を、一人の痩せ細った男がいた。物珍しげな視線を痛い程感じながら、ただ真っ直ぐ先を見つめて歩いていく」


「(息を切らしながら。)……そろそろの、ハズなんだがな……どこなんだ……」


「男は呟く。その呟きに応えるように何かが声を上げる。それは予告もなく男の前に現れた。大きな大樹の根元、ぽっかりと大きな穴が開いている、その傍らに居るのは一匹の白狐しろきつね。男を見遣ると白狐は耳をそばだててからその場を離れた」


「……狐?……うっ、何だこの、匂い……!」


「ふわりと辺りに漂うのは、今までに嗅いだ事の無いくさいものだった。思わず口元を押さえる。心地よくも感じるが鼻腔びこうの奥にじんわりと染み込んでくる。それはまるで男を拒むような、招くような、反する二つが男に纏わり付いていた」


「く……う。……俺は……ここで、帰るわけには……」


商人

『──……願いは、にゃんじゃ?』


「ひっ!……だ、誰だ?!」


「音は突然、男の脳内に直接響く。性別も老いも若いも判別の出来ない音。思わず男は頭を抑えるが、ふと視線を感じて大樹の方を見遣った。するとそこには何かがたたずんでいた。いつに間にか立ち込めていた霧の中で目をらす」


商人

『願いがあるにゃら早ぉ言わぬか。儂も暇ではにゃいんじゃぞ?』


「あんた、誰なんだ……」


商人

『儂か? 儂はただの商人。人間、何故にゃにゆえここへ来た』


「商人……もしかして、猫又、商人……?」


商人

如何いかにも! にゃあんじゃ、人間にまで知れ渡ってるにょか」


「軽く明るい笑い声と共に霧が晴れる。そこは先程、白狐しろきつねが佇んでいた所、その狐よりは大きく人間の子供の背丈程の三毛猫がいた。男はその姿を確認するとへたり込んでしまった」


商人

「儂に用があるにょに腰を抜かすにょか。人間はきもが小さいんじゃにゃ」


「猫が……喋って……」


商人

「昨今珍しくもにゃんともにゃいじゃろ」


「……」


商人

「まぁ良い。して、願いはにゃんじゃ?」


「願い……そ、そうだ、願い……! 俺は、欲しいものがある!」


商人

「言うてみぃ。対価があればにゃんでもうて来てやるぞい」


「……なん、でも……」


商人

「ふむ、にゃるほどぉ?……相分かった」


「……へ?」


商人

「少々手間取るやもしれんが用意は出来る。また来る事が出来るにゃらば渡そう」


「えっ……うわっ!」


「突然の突風。男は思わず両目を閉じてしまう。次に目を開けた時には、森の入口付近まで飛ばされていた。もう一度森に入り込んでも何かに阻まれているかのように戻ってしまい、男は仕方無く帰宅する事にした」


商人

『全く……人とはごうにょ深い生物いきもにょじゃにゃ……』


「男の脳内にそんな言葉が飛び込んで来た気がした。それから数日後、男は普段と変わらぬ日常を過ごしていた。男には好意を寄せている女性がいた。その女性との関係を深くしていく内に、ふと唐突に思い出す。とある場所へ行き、願った『もの』を受け取らなければと。衝動に駆られるまま、男は記憶を頼りにその場へと向かった」



【間】



「……ここ、だよな……?」


商人

『……おぉ、ようやく来おったか。待ちくたびれたぞぃ』


「えっ……?」


商人

「流石にもう、驚きは──」


「うわあ!」


商人

「──するんじゃにゃあ……人間とはほんにきもが小さい……」


「え、……猫、又……商人?」


(※商人役が女性の場合)

「男の目の前には丸眼鏡を掛けている妖艶な美女がいた。その頭には猫のような耳、腰骨辺りから二又ふたまたの猫の尻尾が生えているのが分かる。商人は出会った頃にいた場所、大樹の根元に立っている。胸元は大きく開いたデザインの服装で、目のやり場に困るほどだ。そして片手に何かを持っているのが見て分かる」


(※商人役が男性の場合)

「男の目の前には丸眼鏡を掛け、どこか胡散臭い雰囲気がある顔立ちの整った青年がいた。その頭には猫のような耳、腰骨辺りから二又ふたまたの猫の尻尾が生えているのが分かる。商人は出会った頃にいた場所、大樹の根元に立っている。そして片手には何かが握られているのも分かった」


商人

「応、如何にも。さて人間。願いはかにゃえたぞい」


「は、え? いや……願い?」


商人

「そう、願ったであろう?……『彼女の心が欲しい』と」


「……いや、あの……あんた本当は人間?」


商人

「ぅん?……嗚呼、こにょ姿にょ事を言うとるにょか。本来にょ姿よりもこちらにょ方がはにゃしやすいじゃろ? 故に、人間に似せてるだけ」


「あ、あぁ……そうなのか」


商人

「ほれ、願ったしにゃじゃ。受け取れぃ」


「はい、えっと……あ、ありが──ヒィッ!!」


「放り投げられたものを両手で受け取る男。ビシャリ、と濡れた感触と生暖かなソレは、人の心臓だった。まだ微かに鼓動を感じてしまう程にリアルな質感と、温度と重量感と、匂い。男は恐怖からか、受け取ったものを地面へと落としてしまう」


「しっ、し……心臓!?」


商人

「煩いにょぉ。間違ってはおらんじゃろ?」


「いいいいや、し、心臓って!!?」


商人

「人間、お主は願った。心が欲しいと。人心じんしんとは、心臓にょ事じゃから、儂は間違っておらん」


「はぁ!? いやいやいや、心と心臓違うでしょ!! なに、考えてんだよ!!」


商人

「願いをかにゃえてやろうとしただけだが? 苦労したぞ、そこだけをくにょは」


「なんだよ心臓って!……つか……え? ってことは……彼女は……」


商人

しんを抜いただけで動かにゃくにゃったが……れは其れ、れは此れじゃ。有難く受け取れ」


「……ッ!!!」


「恐怖に震えていた男は今度は怒りに震える。商人は良い事をした、とばかりに晴れやかな表情で微笑んでいる。怒りに任せて走り出す寸前、足元に落とした肉の塊を踏み付け、鮮血がほとばしる。男は構わず商人の胸倉に掴みかかった。だが、商人はそれをかわす。勢いのままに男は大樹に激突した」


商人

「全く……折角用意したもにょを踏み付けるとは」


「ッ……ふざけんな……人を殺しといてそんな……」


商人

「儂は殺しとらん」


「はぁ!? だって心臓だぞ?! それ盗られたら人は死ぬんだぞ!?」


商人

「嗚呼、それは知っとる。じゃが、儂は殺しとらん」


「だからぁ!! くりぬいたって……」


商人

「見てみぃ」


「そう言って商人は大樹に左手をかざす。男は目の前にある大樹に視線をやると、そこには何かが投影されていた。そこは病院の一室で、一つのベッドの上に、思いを寄せていた女性が横たわっている。女性の周りが慌ただしい。男は食い入るように投影画を見る。医師らしき人物が心臓マッサージをおこなっていた」


商人

「儂は動かにゃくにゃったとは言った。いたとも言ったが」


「…………ま、待てよ……え、なに……」


商人

「儂は殺しとらんよ」


「……や、やだ……あ、ぅ……嫌だ、あぁ……」


商人

「お主が踏み付けたもにょは、心臓ココロ──」


(聞きたくないと思った所から好きに遮ってください。)

「ああああああああぁぁぁ……ッ!!!!」



鬱蒼うっそうとした森の中。男の悲鳴のような叫び声が木霊こだまする。それはどこまでも響くが、人の住む場所までは届かない。商人は嘆息たんそくした後に姿を消した。しばらくして、泣き腫らした男は潰れた心臓を手に警察へと出頭した。後日、檻の中にいた男が、心臓を抜き取られて死んでいたというニュースが報道されたのだった」



【間】



商人

『願いはにゃんじゃ?……言うてみぃ、対価があれば、にゃんでもうて来てやるぞぃ。本質も、虚偽も、お主にょまにゃこで確かめよ。儂は猫又商人。気紛れに真実ホンモノうて来てやるぞぃ』









※後書きのようなもの※

 初めましての方もそうでない方もこんばんはおはようございますこんにちは、夏艸でございます。今回はこの作品を読んで頂きありがとうございます。

 これは、自作で書いているセリフのキャラクターを膨らませた結果、出来たものです。演者の方々それぞれに思う猫又商人をして頂ければ幸いです。

 猫又商人の口調はとても言いにくいかと思いますがそういう言葉遣いでしか話せませんので、頑張って頂きたい……!

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猫又商人-人と妖- 夏艸 春賀 @jps_cy729

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